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人形霊に取り憑かれていたあの頃

あれは、私がまだ5〜6歳の頃。

当時住んでいた借家はオンボロ、トイレはボットン便所、窓を開けると墓地が一面広がっていた。

この家に住んでいた頃は、奇妙な出来事に何度も出くわしていたものだ。窓の向こうに火の玉のような光がユラユラ揺れているのを見たり、金縛りに遭うことも少なくなかった。

墓地が隣接していたせいか、怪奇現象が日常茶飯事だったように思う。

この頃は、多少の金縛りでは驚かなかったが、実は2回ほど背筋が凍る怪奇現象に出くわしたことがある。

一つ目は、雛祭りの時期に隣家から笛や太鼓の音色が聴こえてきたこと。

隣家には私と同じ歳の女の子が住んでいて、毎年雛祭りの時期になると、部屋に立派な雛人形が飾られていた。

私の家に雛人形はなかったので、いつも羨ましいなという思いで胸がいっぱいだった。

父の仕事が転勤族だったため「引っ越す時に面倒だから」という理由で、母は雛人形や五月人形を娘や息子に買うことはなかった。桃の節句になると、いつも雛人形に会うために隣家の友達の家に入り浸っていたものだ。

それは、ある桃の節句の時期のことである。深夜二時に、無性に体中が熱くなり目が覚める。

体が動かず、声が出ない。ああ、またいつもの金縛りか、と思った。

やがて、少し時間が経つと隣家の方角から笛や太鼓の音色が聴こえてくるようになった。人間の声は一切聞こえない。夜中2時に、笛や太鼓を演奏する人間もいなければ、音楽を流す不届き者もいないであろう。

もしかして、隣家にある雛人形が演奏しているのでは?真偽は定かではないが、今でも当時聴いた笛や太鼓の音色が忘れられないのである。桃の節句になると、いつもこの出来事を思い出す。

二つ目は、私の家に昔からあった日本人形が夜中に勝手に動いた怪奇現象である。

私の家には、とある美しい日本人形が幼い頃から飾られていた。

ある日、夜中の二時に再び体中が暑くなり目を覚ます。すると、体が動かない。言葉も出ない。また金縛りか……。

そう思っていたのも束の間、頭上に飾られた日本人形と目が合う。日本人形の首は、頭と胴体まで一体化しているため、決して曲がることはない作りとなっている。

ところが、その日本人形の首は直角90度ほど下に曲がり、私をガン見。言葉を発せないので「助けて!」とも叫べない。あまりの恐怖に、早くこの時間が終わって欲しいとさえ思った。

やがて、少し経つと腕の部分だけが動くようになった。金縛りが解ける時は、いつも体の一部から少しずつ解ける。とにかく人形と目が合いたくないので、布団で顔を隠すことにした。

そのまま朝を迎え、人形の首を確認すると元に戻っていた。首の部分は一切壊れておらず、何事もなかったかのように綺麗なままだ。

母に「人形の首が曲がったのに、朝になると戻っている。怖い!」と訴えても「何訳のわからないことを言っているの」と叱られた。

その時は全く信じてもらえなかったが、何度も言い続けたせいか、気味が悪くなった母はその人形を供養に出して処分した。

今でも、百貨店などで日本人形を見るたびにゾッとする。一体、なぜ私は人形霊ばかり見てきたのだろうか。

霊に詳しい友人に相談すると「昔、猫飼ってなかった?その猫が気づいて欲しいからと悪戯してるみたいよ」とアドバイスを受けた。

母にその旨を伝えると「そういえば、昔黒猫飼ってたわ」と一言。

友人の話によると、動物霊は人形に取り憑いて時々飼い主に気づいてもらう為に悪戯することがあるそうだ。

私は家の裏が墓地なので、人間の霊の仕業かと思っていたが……。友達の話も本当かは定かではないので、結局のところ人形霊の真実は未だわからない。

ただひとつ言えることは、この家を引っ越してからは怪奇現象が減ったこと。金縛りや幻覚を見ることはあっても、本当に怖い怪奇現象に遭うことはなくなった。

さらに、部屋に神棚を置くことで金縛りもシャットアウトすることができるようになった。

世の中には、まだまだ解明されていないことが沢山ある。霊に関して言えば、一般的に目には見えないものなので、いるいないを断定することはできない存在だ。

なぜか、私の周りには霊を見える人が多い。どの人もその力を商売には使っていない。普通に見えるせいか、霊との出会いを友達のように気軽に話す人ばかりだ。

きっと彼らからすれば、霊は特別なものではなく、他の人間と同じような感覚なのだろう。

もし私もあの日あの時怪奇現象に遭っていなければ、友人の霊体験を聞いても「へぇー」としか思わなかったし、信じなかったと思う。あの事件があったからこそ、人々の霊体験を真面目に聞くようになった。

そういう意味でも、あの時は怖い思いをしたけど、怪奇現象に遭遇して良かったのではないかと思う。





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