2020年ブックレビュー 『むらさきのスカートの女』(今村夏子著)
文句なしに面白くて一気に読んでしまった。今村夏子さんの芥川賞受賞作『むらさきのスカートの女』。面白過ぎて読み終わった後、また最初から読み直した。
近所に住む風変りな「むらさきのスカートの女」を、主人公の「わたし」は執拗に観察し、追いかける。「わたし」は、無職と思われる「むらさきのスカートの女」を自分と同じホテルの清掃員となるよう仕向け、やがて成功。そして、同僚となった「むらさきのスカートの女」は変貌していくー。
とにかく、「わたし」は「むらさきのスカートの女」について何でも知っている。確かに、「むらさきのスカートの女」は奇妙な女ではあるけれど、彼女について「どうしてそこまで知ってるwww」と、こちらをゾクゾクさせるのが、「わたし」という存在なのだ。
読者は読み進めるにつれ、「むらさきのスカートの女」を描写する「わたし」(黄色いカーディガンの女)の行動が常軌を逸していることに気づいていく。そして、「わたし」も「むらさきのスカートの女」と同様に、非正規労働の女性で、貧乏で孤独な女性なのが透けて見える。他人を映すはずの鏡に映る…いびつで哀しい「わたし」。
第161回芥川賞の選評を読むと、小川洋子さんは「狂気を突き抜けた先にある哀れさを描ける人」と今村さんを評価している。
「むらさきのスカートの女」とは「わたし」の妄想上の人物なのか、「むらさきのスカートの女」と「わたし」(黄色いカーディガンの女)は、上半身と下半身で一人なのか。紫と黄色は補色の関係で、混ぜると黒になる。2人は「ダークレディー」なのか。
謎めいているのも作品の魅力だ。
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