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【遺稿シリーズ】川面に滲んだ雪の頬

みこちゃん家の床下から、某文豪の未発表の遺稿が見つかったので掲載しました
(゜0゜)

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そこかしこに落ち葉が流れていた。

落ち葉の濡れた川面の中に、その娘が覗き込んでいる着物姿が映った。

「遅れてごめんね」

「いいさ」

渓谷を散歩していた。

第一高等学校の学帽をかぶり直した。

ひとあし遅れであの娘が自分の肩をたたいた。

川面のあの娘を確かめるように振り向いた。

真正面にあの娘が見えた。

眩しくて目の焦点を変えると、空から雪が降ってきた。

空から降りてくる雪の白さの中にあの娘の赤い頬が見えた。

雪が頬を赤く染めていく。

なんてきれいなんだろうと思った。

「きれいだね」

そう言った。

「きれいな雪だよね」

言い直した。

自分はなんだか照れてしまい、君のことをきれいだと言ったんだと、言えなかった。

少しだけ肩を抱いて、同じ方向を向いて迸るように地面に落ちは消える雪を一緒に眺めた。

ひとつひとつがきれいに消えていく。

それをしばらく眺めているうちに、だんだんとそこに雪が積もっていった。

「きれいだね」

もう一度あの娘の顔を見ながらそう言った。

「ありがとう」

あの娘の頬にかかった雪を、人差し指で拭った。

自分でしたことに照れてしまって、言葉が出なかった。

彼女に通じない言葉を照れ隠しに言ってみた。

I was slightly impressed, hence deeply whelmed from your wearing snow face.

勉強中の英語の言葉だ。

文法はきっとあやしい。

「どういう意味」

聞かれてしまった。

「とっても感動しちゃった。でもとってもその頬の雪は圧倒的だった。君がたまらなく好きだ」

そういう意味だよ。

どこにも英語で「好き」だなんて言っていない。

彼女の頬が再び赤く染まった。

自分の頬も赤く染まっていくのが分かった。

寒さのせいではない。

まるでそれを確かめ合うようにお互いに背中に腕をからめた。

初めての接吻。

寒さが暖かさに滲んで消えた。

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嘘ですみこちゃんのオリジナルでしたー(^-^)

【遺稿シリーズ】っていうのをやってみようと思いたちました(^-^)にこ
文豪の作風を真似てリスペクトするわけです。
第一回目は! 川端康成でしたー

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