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明日には看板が出る。「器と絵筆」展。

そして首肩ゴリゴリ眼しょぼしょぼの私。頼まれてもいない宿題をさっきやっと終えたのだ。展覧会場に出す解説、素朴派のパート、800字×3本。

ひとつは章解説で、前回の投稿で「書けない」とぶつぶつ呟いたやつだ。あのあと1週間かかってクリア。

目を通した古株の広報担当者、「なんか、今までにない感じの素朴派解説だよね。プレスリリース読んだときは、もっと”ふつう”になるのかと思ってた」。

いやぜんぜん”ふつう”ですけども。めっちゃ控えめに書いたし、そもそも大発見新発見はゼロ、さらっと読み飛ばせるシロモノだが、来場者の皆さんはどう思うだろうか。1966年、日本初の本格的なルソー&素朴派の展覧会カタログに載っていた、大江健三郎さんによる警句のような問いを、スパイスとして使わせていただいた。それは確かに「今までにない」、かもしれない。


で、先週いっぱいかかって書いていたのは、コラム的な解説。

そのうち1本が、懸案の「ハイチ」である。あの仰天な発見から2ヶ月・・・。


一般に、人がアーティストとしてデビューして名(というか作品)が売れたり売れなかったりする現象を生み出しているのは、作家や作品をめぐるさまざまな人の動きと、その時々の大小の時代状況の組み合わせである。パズルのような。

と言いつつ、いっぽうで、本当に力のある作品は時代を超える、というロマンティシズムも芸術の世界には根強くあり、私もそれを完全に捨ててしまえるほど、シニカルではない。

だからこそ、そういうロマンティシズム(往々にして社会的につくられる個人的な好み)になるべく左右されずにものを考えるには、どういう価値観が支配的な時代状況のなかで、誰が注目して、どう評価したか、という基本に帰るしかない。

で、特に「素朴派」と呼ばれる人々の場合、宿命的かつ露骨に「発見者」の存在が前提となって表舞台への登場が可能になっている。描き手と「発見者」のコラボ。

例えばアンリ・ルソーの場合ならピカソ。古道具屋でルソーの絵を見つけて感動して買った、ずっとアトリエに飾っていた云々、というエピソードが有名だ。ウーデというドイツ人の批評家の役割も重要なのだが、ピカソの知名度には誰も勝てない。

そして念のため書くと、ピカソはすごい、という共通理解があるから古道具屋の話が美談として成立し、流布する。20世紀の美術(史)についてのこういう共通理解そのものが、この先の100年とか200年後くらいにもし崩れていたら、話は別になる。

ルソーの良さを説明するのにピカソが持ち出されてさ、ピカソって200年前はそんなふうにありがたがられてたんだよ、信じられないよねえ、とか22世紀の未来人に言われてたりするわけである。永遠に不変の価値はそうそうない。

さて、素朴派の「発見者」はたいてい、それなりの家庭出身の教養ある知識人であり、画家本人はたいてい、貧しく無学な労働者とか農民とかである。社会的に全く非対称な立場の者たちが出会っている。つまりこのコラボはドラマチックではあるが、要注意でもある。

で、ハイチ。この国のように、旧植民地(フランスの)であり旧占領地(アメリカ合衆国の)でもあるような場では、このコラボの事情はますます込み入ってくる。能天気に美談で済ませてはいけないのは当然として、コラボじゃない、ただの搾取だ!という別の紋切り型で決めてかかって全否定するのも違う。

友愛と搾取の間の危うい細道を、実際の歴史は進んだのだろうと思う。コケた場所もあっただろう。さすがに2ヶ月じゃあ、その具体的な様子ははっきり見えないけども。うう。


とかぐるぐる考えながら、1行書いては腕組みをし、1行書いては資料を読み直し、800字を仕上げるのに、いったい何時間かけたか・・・いや、そんなもんだと思いたい。そしてそれでもきっと穴だらけだ。しかたない。


しかも先週、改めて書庫を漁ったら、館内蔵書検索をかけても出てこなかった(ということは未登録の)ハイチ関連資料が出てきた。その1冊が、1948年の超重要文献『ハイチのルネサンスー黒人共和国の民衆画家たち』。再び仰天である。

どうやら開館前の準備室時代に、ドドッと古本屋でまとめて買った「素朴」「プリミティブ」ものの一部らしかった。本の扉に「総務部美術館準備室」というゴム印が無造作に押されている。ということは1980年代半ば。35年くらい前。

ざっくり目を通す。そのあと、ハイチ作品が出品された1996年の企画展「再考・芸術と素朴」のカタログの作家解説を、改めて読む。資料はたぶん参照されずに書かれているようだ。まあ無理もない。てことはここ35年もの間、誰も読んでない資料なのかこれ。うげ。超重要なのに。そして自分の解説にも間に合わんかった。。。

こんなことばっかりである。しょうがない。幸い、コレクション作品は逃げない。ささやかでも調査を続けて、来年の紀要にでも何か書くか・・・。

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