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『なるほどデザイン』表紙ができるまで

『なるほどデザイン』といえば、なんといってもNoritakeさんのイラストが目を引く表紙が目印。たくさんの人が手に取ってくれるきっかけをつくってくれたこの表紙は、デザイナー関口裕くんの手によるものです。

表紙も自分でデザインするという選択肢も、もちろんありました。そうしなかった理由は、あまりにも内容にどっぷり浸かりすぎていて、適切な距離を置けないだろうと感じたから。もともと自分は、欲張りな性格かつ文脈を盛り込むのが好きなので、記号のように削ぎ落とした状態にするのはあまり得意でないという自覚もあった。本の内容をアラカルトで盛り付けたような、騒がしい表紙になってしまうことを恐れていたのです。

では誰に表紙を託そうか? と考えたときに思い浮かんだのが、会社の同期であり、装丁の仕事ぶりを「上手いな〜」と思って横目に見ていた関口くんでした。今回は彼と2人で、表紙の制作プロセスを振り返る対談をお届けします。


ある日突然のデザイン依頼


筒井:ということで、今日はカバーデザインを担当してくれた関口裕くんに来てもらいました〜。

関口:どうもどうも!(このテンションでいいの??)

筒井:ある日突然、わたしから「装丁頼みたい!」って連絡が来たわけですが。まずその瞬間どう思った?

関口:(プレッシャー・・・)←

筒井:

関口:同期でもぐいっと伸びていたじゃない? すでに。キャラというか、得意な立ち回りとか。だから、単純に畏れ多いなとは思ったよ。けども、逆に「同期が本出すなら、なにがなんでも売れて欲しい」というシンプルな動機もあったね。即答でお請けした気がする。

筒井:やー、ありがたい……。うん、即OKだった! 関口くんの装丁仕事をみていて、なんというか切れ味が鋭いなあというか、書籍の機能として強いデザインだと思っていたもので。

関口:なるほど!どこかで「著者自装」はたいへん、危険、みたいなことも聞いていたからね。

筒井:普段から同じ場所で働いているのに、あえて「著者とデザイナー」という役割を持って、MdNさんの会議室で打ち合わせをしたんだよね。本がどんな内容で、どんな人に向けてつくっているのか、内容をひと通り説明しました。

そのとき関口くんに「数年たったらこの本はどうなっている?」って質問をされたことをよく覚えてます。たしか「もう新鮮さは感じなくなっているから本棚にしまわれているんだけど、なんとなく処分は出来ずに残っている感じ」って答えた記憶がある。

関口:ああ! 質問したこと忘れていました。スミマセン。。。僕は、書籍の仕事はそこそこやらせていただいていたのだけど、実は「ゲラを読まない」んですね。決めてるわけじゃないけど。で、編集さんや著者さんとの打ち合わせ時にもらった印象や情報をたよりに、つくることが作ることが多いんです。書籍装丁のばあい。

で、デザイン作業とは直接関係しないような普段大切にしてることとか、何を、世の中へどう届けたいのか、発信したいのかみたいなことをヒアリングするようにしていて。

そのなかで、若手のデザイナーに特に読んで欲しいみたいなことを仰っていた(笑)から、じゃあその若手が少し経ってこなれてきたときに、この本はプロダクトとしてどうなっていたら幸せなんだろう? って想像して、質問させてもらった。

筒井:本の内容を聞いて、まずどんなふう風にデザインを考えた?

関口:考えたのは、「なるほど」というというキーワードをどうやってアイコニックなものにするか。ただ、そこから先の掘り下げが甘い状態で不用意に手を動かしてしまっていたから、アウトプットにうまく落ちていなかったと思う。魅力的にできてなかった。

筒井:ではここで特別大公開ー! 最初にもらったデザイン案がこちら。

関口:今思えば、、きちんと主題をつかめていなかったね。。初期デザイン案は今見てもつらい・・・苦笑。なんだろう、「デザイン書にせねば」みたいな謎の枠にハマってしまっていたかな。僕自身の動機がすごく強かったのもあって、力んでたね。それっぽくしようとしてダメになっていたねえ。。

筒井:いやいやいや、そんなに凹まなくても(笑)。業界の慣習なのか、書籍づくりにおいてデザインの出し戻しをするときって、編集者を通して行う場合が多いよね。なのでこのときも私は、編集さんとの打ち合わせでこの表紙を初めて目にしました。

感想としては「デザイン書っぽいオシャレさ」を感じた。でも、本の内容はそんなに小洒落てないんだよね。自分もデザイナーなのでどのくらい具体的なことを言うべきかしばらく迷ったけれど、最終的にただひとこと「もっと素直でいい」とだけ伝えたような気がする。

関口:そうだね。編集さんを介してだったけど、それは言われましたねえ。笑。「ですよねー!」って感じでしたはい。


「表紙=アイコンでいいじゃん」

筒井:デザインを見直すときは、どんな風に考えていったの?

関口:かなり悩んだのでそこまではっきり覚えてないんだけど、「うれてほしかった」のね。だから、バッサリ内容のことをいったん忘れて(忘れたつもりになって)、とにかく手に取りたくなる、目立つものにしようとした。かつ、当初の想定読者だったいわゆるデザイナー層にとって気分のあがるようなクリーンな見栄えにならないかなーと。

で、手元でごちゃごちゃとこねくりまわしているのが自分でもいやになって、「もう表紙=アイコンでいいじゃん」という方針に割り切った。その後は、わりとすぐに案が出てきたなあ。午前中にざざざと起こして、午後に編集さんにアポとった気がするw

筒井:2回めにもらったデザイン案は、目にした瞬間即OKでした。ストンと肩の力が抜けてていいなと思ったし、なんと言ってもNoritakeさんにイラストをお願いするという衝撃の事実にただただ「ほわーーーーマジですかーーーー!?!?」ってなってた記憶しかないw

関口:そうだね、案を考える中で、色にも頼らず、ただ線だけで強いビジュアルをつくる必要があるなと思ったときに、ほぼセットでNoritakeさんが浮かんでいたから、編集さんには同時にご提案したよ。「この方が請けてくださらなかったら、案変えます」って。笑。

筒井:私は引き続き著者役に徹していたので、決定した表紙案でデザインを進める過程には参加しなかったのだけど、Noritakeさんとはその後どんな風に制作を進めていったの?

関口:お打ち合わせをした際に、ものすごく真摯に制作に向き合っていらっしゃるのを強く感じたので、「こりゃいい加減にはできないな」と再確認した。で、上記のラフを見ていただきながら、「アイコン」のくだりもご説明して、「じゃあどんな絵柄がふさわしいのか」をすごく密にすり合わせさせていただいた記憶があるなあ。

で、その場で最終的に落ち着いた方向性と、その他も並行して検討いただきつつラフを待つ、という感じで打ち合わせは終わった記憶。しばらくして、予定通りに送られてきたのをみてビビりました。「まさしく」だったから。

デザイナー(や、それに類する制作者)が、ふとなにかを思いついたり腹落ちしたりした瞬間に「…あ、なるほど」とおもわず口にする、その瞬間の絵を描いていただいた。

手書きのスキャンだったのだけど、その後も微調整をかなりの精度で繰り返してくださって、どんどん良くなるのが「まだ限界を超えるのか!」という感じですごくワクワクしたなあ。

筒井:表紙が完成した時点で、本文はまだ完成までに一山も二山も越えないといけないような状況だったんだけど、「この表紙にふさわしい内容にせねば」という思いをこめて、作業フォルダの第一階層に表紙データをおいて、常に目に入るようにしていました。お守りとして(笑)。

関口:そうだったのか。。。正直、このカタチに落ち着いた段階で「もう(カバーデザインは)ほぼ終わったな」という感覚があったから、僕の作業としてはひたすら微細な調整だけ繰り返してた。

やっぱり可視化されるのは強いね。目に見えるものがあると、書籍に限らず、プロジェクトの向かうべき方向がビシッと定まって、推進力が出る気がしてる。このあたりのお仕事でそれを学んだ気がしてます。ありがとう。笑


サムネイルの壁に立ち向かう

筒井:出版後、いろんな場所でこの表紙を目にするたびに、その威力を何度も再確認したなー。どこに置かれていてもともかく目を引くし、一度みたら忘れられない。「顔のイラストが表紙のデザインの本」って説明ができる。ひとことで伝わるデザインの強さを体感したよ。

関口:これは友人の発言のパクリというか、、、もろに影響を受けた部分なのだけど、「サムネイルの壁にどう立ち向かうか」っていうのを、とある黄色い猫言っていたんですよ。2012年時点で。

たとえば、田中一光さんの作品を画像検索すると時代性もあってポスターが大量にでてくるんだけど、それが、検索結果画面上でも、ものすごい強い。それがいま面白いですねって話をして。当時はまだ彼とは距離感もあったけど、同世代の抜きん出た人のその発言がすごく引っかかっていて。

で、この仕事をやるなかで、もうほんとに絶対に売れてほしかった(笑)から、「書店で目立つのは当然、Amazonとかネット上でも抜群に“手にとって”もらいたい」というのがあって。サムネイルに埋もれても、というか埋もれるからこそ目立つデザインにしたいというのは意識してた。

どストレートな日の丸構図、周囲の余白をかなり多めに、要素も絞って(オビも取らせていただいた)、可読性高く。小さくサムネイル画像にされても、平積みになっても、目立って、かつ、良さが伝わってほしかった。のです。

筒井:ただ、出版した直後から順調に売れたわけではなかったよね。編集さんから「書店での動きが良い」という話を聞かせてもらって、それはつまり内容を見た人が良いと思ってくれたということだから、もう十分嬉しかったんだけど。Amazonでの売れ行きはそこまで良いわけではなかった。話題にもなってなかったと思う。

関口:そうだね。ネット書店では、初速が特別すごいわけではなかった記憶。

筒井:わたしはもうともかく「自分の名前で本を世に出してしまったぞ……こわい……隠れたい……」って感じだったので(笑)、売れるためにどうするか? ってことはあまり考えられていなかった。というかあんまり考えたくなかった。そこでも関口くんが「書店で動いてるってことは内容見たら売れるってことだから、オンラインで知られていないのが持ったいない!」ってアドバイスくれたんだよね。

関口:言ったね!言ったそれ!笑

筒井:で、書籍の内容がわかる素敵なサイトを作ってくれたのでした。感動しかない。 エンジニアの弊社こやまんも楽しんで作ってくれた感じが伝わってきて、ともかくそれが嬉しかったな。やりたい放題の自主制作。

関口:けっこう彼にもプレッシャーかけてしまったからね。ホント迷惑な同僚。。。「なにがなんでも売りたい = 届くべき人に届いて欲しいから、君も楽しんでくれないと困る」って。エゴ強すぎ。笑。でも作ってる側が楽しんでないと、なんでもそうだけど特に出版って、もろに出ちゃう気がしていて。

あくまでも「内容を知ってもらえさえすれば売れる」っていうLP制作のゴールはあったけど、同時にコレを遊び場にさせてもらって、好きな事やろうぜ、的な勧誘をしたね。

筒井:わかる気がする。作り手の気分って、ぜったい伝わるよね。

判断の軸をどこに求めるか?


筒井:出版後に少しずつ反響が生まれてきた頃「もしこの本を制作過程からネット上で情報公開しながら進めてたら、もっとバズったんじゃない?」って言われたこともあるんだよね。確かにその通りだなとは思いつつ、当時のわたしにはそれは出来なかったと思うんだ。

関口:ふむふむ。

筒井:なぜなら本質的には、発信するのがこわい人間だから。もしそのやり方で進めていたら、「まわりからどんな反応があったか」を強く意識してしまったと思うし、自分が楽しいと感じるか? という判断軸だけで進められなくなっていたと思う。

関口:なるほどね。でもそれって、パッケージングする/されてしまう、書籍っていう媒体のいいところでもあるよね。

筒井:だね。身の回りの信頼のおける人たちの力をこっそり借りつつ、浮き沈みしながら作りきったからこそ、いまの本のかたちになったんじゃないかなって思っている。今の時代はそれこそnoteとかで連載しながら本をつくっていく、という手法も面白いと思うけど、やっぱり手法と最終的に出来上がるモノは影響し合うから、同じものにはなり得ないと思う。どちらも試してみたいなって今は思っているけどね。

関口:(ちょう、じかんかかりましたものね・・・)

筒井:(ええ、ほんとに・・・)

関口:さっきも言ってくれたように、編集さんがいなくても、今はある意味パブリッシュできてしまうわけだけど、だからこそ編集者と著者が組んで作っていくっていうのは素晴らしいなと思うよ。個人的には、編集者の小村さんの功績もあったと勝手ながら思ってる。相性というかスタンスというか。
待てなかったら、この形で出てなかった。途中で作りかけのページを全部見直した、って言ってたじゃない? ふつう、あそこで止められると思う。笑。

筒井:はい! 足を向けては寝られません。笑

関口:笑。逆質問だけど、編集さんからは、どんなことを言われてたの?

筒井:基本はかなり自由にやらせてもらってた。それこそ台割も構成も内容もしょっちゅう変えてたし。だからこそ、客観的な指摘に助けられました。一度ざっくり全体をつくったときに「文字が多くないですか?」って感想をもらったんだけど、それが具体的な文字量への指摘ではなく、なんとなく違う方角に向かっているというアラートだったんだよね。

関口:的確だね。ついついADとしてディレクションするときに、具体的過ぎるオーダーをしてしまうことってあるけど、それはすごく高度なディレクションだよね。

筒井:あとは、もっと内容を誰にでも使えるようにするならば、事例や解説を提案書やスライドとかに変えたほうがいいのかな? って悩んだことがあって。『なるほどデザイン』はエディトリアルの事例に寄っているので、読者がそのまま真似できるというよりは、自分のやりたい分野に置き換える一手間が発生するんだよね。

内容のレベル設定に悩んだとき、副編集長の後藤さんから「プロの仕事は、プロ以外がみても面白いものですよ」って言われたのがすごくありがたかった。確かに「今日からでも出来そうなカンタンな話」より「そのまま真似出来ないけど、なにか取り入れられそうな要素が含まれているプロの話」のほうが面白いよね。

関口:ほえー。。。流石だわ。


ということで、最後は少し脱線しましたが、表紙デザインの過程を振り返ってみました。発売からまもなく4年が経とうとしていますが、今見ても色あせない表紙だなあと思います。

「全部自分で納得いくまで作りたい」というエゴを捨て、「自分の手を離すことでクオリティを上げる」という判断をしたことは間違っていなかったと思うし、自分にとってもひとつのターニングポイントでした。

お楽しみいただけてたら幸いです。対談に協力してくれた関口くん、ありがとうございました!

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