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パンデミックの抜本的予防は可能なのか:1

私の昔の同僚の先輩、マイケル・グレガー先生による、スペシャル講演、「パンデミックの予防」。これからを皆でサバイブしていくために、彼の約1時間のトークの内容を何度かに分けて翻訳&シェアーしようと思います。(今回は約19分のところまでです。大きく意味や全体を捉えるようざっくり訳していますので一言一言厳密ではありませんが内容的にはそのままを訳しています。ご了承ください。)

英文でオリジナルを聴きたい皆様はこちらのリンクをどうぞ!

国連は、私たちの命を脅かす2大原因は気候変動と感染症パンデミックだと言っています。マンモグラムは乳がんを予防をしているのではなく、早期発見で早期治療を可能にするものですが、「乳がんになること」自体を予防するには、色々な原因やリスクを減らす必要があります。そのように「感染パンデミック」の根本予防が可能なのか、それを論じてみたいと思います。そのためにはウィルスがそもそも出て来た原因を知ることが大切です。

1981年:ドナルド・レーガン政権、MTVが始まり、インディージョーンズ、パックマン、など流行っていた時期CDCからロサンゼルスで新しい感染症による死亡例が出始めていることを発表しました。それがエイズウィルスです。IVドラッグ使用、輸血、不安全な性行為などにより感染は広まりましたがそもそもこのウィルスはどこから来たのでしょう?その他にも、はしか、鳥インフルエンザ、天然痘などなど歴代流行して来た感染症を起こしたウィルスはどこから来たのでしょう?

人類学では太古から現在までで3回著しい疾病発生の時期があるとされています。(1)感染症が起こるようになったのは100万年前からです。それ以前には天然痘もはしかもありませんでした。ではその100万年前に何が起こったのでしょう?

100万年前:動物の家畜化が始まりました。動物を飼い始めると、その動物が持っているウィルスも一緒に飼う羽目になり、はしかのウィルスは牛のウィルスからだと考えられており、元々は病原性は小さかったがこの150年間で2億人の命を奪うまでになりました。その2億人の感染したウィルスは100万年前の一匹の牛が大元なのです。天然痘のウィルスはラクダのキャトルポックスウィルスから、豚を家畜化したことで百日咳、鶏の飼育から腸チフス、アヒル由来のインフルエンザ、水牛由来のらい病、通常の風邪は馬が人間にくしゃみをしてから(これはきっとジョーク)、などそれぞれの疾患を起こすウィルスやバクテリアの先祖をたどっていくと動物がもともと持っていたウィルスやバクテリアにたどり着きます。

ジャレッド・ダイアモンド教授(Jared Diamond)による著書 "Guns, Germs, and Steel"の中でなぜネイティブアメリカン達が、ヨーロッパ人入国による感染病で大勢亡くなったが、その反対(ヨーロッパ人達がネイティブアメリカン由来の病気で亡くなる事)が起こらなかったかについて論じられています。ネイティブアメリカンは動物達を家畜化していませんでした。野生の動物ではなく持ち込まれた家畜化された動物からもらった病気がそもそもの始まりだったようです。

(2)18ー20世紀、産業が発展して来た時代です。糖尿、肥満、心臓病などなどの生活習慣の変化から起こる疾患が見られ始めました。20世紀半ばには感染症は克服されたと思われていました。ペニシリンが発見され、ポリオも撲滅し、天然痘も克服され1968年にはアメリカのサージャン・ジェネラルが「我々は感染症を克服した」宣言までされ、感染症の専門医達からも感染症は昔の病気だとさえ信じられたほどだったそうです。それがこの数十年間の間に事態が変わって来ました。CDCの感染症による死亡者の推移のグラフによると1975年頃より次第に上昇傾向にあります。(下のグラフ参照)この頃から新しい感染症が次から次へとこれまでになかったペースで現れ始めます。アメリカの有名な医学雑誌Annals Of Internal Medicine にはこの30年間で30種類以上の新疾患が報告されています。その内の多くは新しいウィルスなどによる感染症疾患です。感染症科という専門が再び医療の中心的な存在になって来たのもその頃からです。

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(3)この約30年前から現在までが人類学で3回目の著しい疾病の変化の時期です。US Institute of Medicine によると'Catastrophic storm of microbial threat'(微生物による破滅的な嵐)だと言われています。動物を家畜化し始めたのは100万年前なのに、なぜ今頃? と思われるでしょう? そのためには動物達が生活している環境の変化を考えてみると良いでしょう。1975年にコネチカットで初めてライム病が報告されて以来、多くの州に広がり10万人のアメリカ人が罹患してしまいました。ライム病とはバクテリアを持っている鹿のダニによる感染症ですが、この感染症のホストは白足ネズミ(ハツカネズミのよう)です。このネズミと人間達はずっと共に暮らして来たのに何が変化したのでしょうか? このダニを持っている白足ネズミは森林の中で暮らしていたためそこにいる大きな動物達により食べられていましたが、開発者達が森林を伐採した結果、ネズミを食べる狐やボブキャットなどの動物達がいなくなったためダニを持っているネズミ達がより人間の生活圏に近く、多く存在するようになったのです。私たちが動物達の生活の仕方を変えてしまっているのです。

第二次世界大戦中に、アルゼンチンでは拡大するビーフのニーズに応えるため熱帯雨林を大々的に伐採した結果、アルゼンチン出血熱をはじめとする南米の出血熱の数々が南米大陸全体に広がりました。

アフリカ大陸の熱帯雨林を伐採することにより数々の出血熱ウィルスが熱帯雨林より露出してしまいました。エボラもその一つです。Transnational Timber Corporationという会社は熱帯雨林の深くにまで伐採道路を作り、その作業を行なっている人々は野生の動物達を食べながら作業をしました。彼らが食用に殺した26種類もの霊長類の中には絶滅危惧されているゴリラやチンパンジー達も含まれており、彼れは銃で撃たれ、スモークされ食べられました。私たちが共存している霊長類達を殺して食べる事により、我々人間は自分たちを彼らの中に存在してバランスを保っていた微生物やウィルスに被曝させてしまったのです。最近アウトブレイクしたエボラ出血熱のウィルスの源は食用に狩猟された類人猿へとたどり着きました。エボラは致死率が高いウィルスですが、HIVに比べると感染拡散力は低いです。HIVウィルスの感染セオリーで最も有力とされているのが、狩猟、食用に肉を捌く、食べるなどの行為によりウィルスに汚染されている動物の血液、体液などに直接被曝する事によるという説です。最初のエイズの感染者はチンパンジーの肉をさばいている時には被曝したのではないかと専門家達からは思われています。アフリカでのエイズの感染は広がり続け今では大人の25%が感染し、数百万人もの孤児を生み出しています。25年前、一人の人間がチンパンジーをブッチャーした事が発端で2500万人が亡くなりました。

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人間はこれまでにも狩猟をして来ましたが、今のような食用動物の生産はしていませんでした。アジアの香港の南にある地域(鳥インフルエンザの脅威に晒された地域)で動物達をケージに閉じ込めて飼育して売買するマーケットが発祥し、アジアン・パーム・シベット(ヤシのきに住むジャコウネズミ)などもその中で売られている動物達の一種です。この動物にコーヒービーンズを食べさせ、その糞に入っている半分消化されたコーヒービーンズを使って作るコーヒーfox-dung coffeeもあり、そのコーヒーは特別な風味を持っているそうです。この動物がSARS のエピデミックの原因だとされています。有名な医学ジャーナル・ランセットによると(ビデオの12:31のあたり)「中国の料理嗜好がSARSで8000の感染者, 約1000人の死者、30カ国への影響を生み出した」とされています。このような生き物のマーケットが普通の風邪を猛威を振るう病原性のあるものへ変えてしまう役割を担っています。

2003年にはペット動物貿易によりモンキーポックスという病気がアフリカのジャングルからウィスコンシンへ輸入され、鳥達の密輸によりウェストナイルウィルスがアメリカに入り1999年から広がり何百もの死者を出しました。これらも全てはただ一羽の感染していたペットの鳥に人間が被曝する事により始まりました。このように人間が動物達の生活の仕方や環境を大きく変えてしまう事で世の中全体への影響が出ています。

WHO(World Health Organization), FAO(Food and Agricultural Organization), OIE(World Organisation for Animal Health)の3つの組織が共同で、次から次へ出てくる感染症を減らすための原因となる4つの大きなリスクファクターを発表しました。その4つのうち一位にランキングしたのが

1:世界全体での動物のタンパク質の需要の増大(特に鶏と豚)です。
地球に生息している鶏のうち50%が狭いケージの中で食用として生息しています。一つのファームに百万羽の鶏が陽の当たらない換気の悪い環境で育てられています。地球に生息している豚の50%も同様に狭いケージの中で集中的に監禁された状態で育てられています。このような食用に生きた動物を工場生産するようになったのはつい数十年前です。100万年前の動物の家畜化とは比較にならないほど、人間と動物達の関係が変化しました。このような食用に集約されている動物の工場は感染症の繁殖地になってしまうのです。

2005年に中国で最も大きな養鶏場で働いている人たちの数百人に髄膜炎や敗血症が発祥し、WHOの報告書によるとStreptococcus Suisというバクテリアが、ケージに閉じ込められものすごいストレスの劣悪な環境で育てられ免疫が弱っている動物達に感染し、何サイクルも生きながら病原性を増したのだそうです。マレーシアの養豚場から致死率40%のウィルス感染症も発生しました。「この集約型の養豚場がなければこのウィルスがこんなに猛威を振るうことはまずなかった」と専門家ドクターPeter Danzak も言われています。

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冒頭でお話しした人類学において3回人間がかかる疾病の大きな変化があるとお話ししましたが、3つは大きくまとめると以下のようになります。
(1)動物の家畜化による疾病の変化
(2)産業化による疾病の変化
(3)土地の利用と農畜産業の強化による疾病の変化

動物達を不健康に育てることは牛に対しても行われています。牛が歩けない程の不健康な状態にまで牛肉用の牛を追い詰めた結果、狂牛病が現れました。人間は食用の動物達に抗生剤をトラックロードのレベル(超大量)で食べさせています。人間と比較にならない程の大量の抗生剤が動物を育てるために使われています。(下の表参照)一年あたり25百万ポンド(1100万キログラム)使われています。今多剤抵抗性の細菌が多く出て来ており、我々医師達が使える効果のある抗生剤のオプションが少なくなりつつあります。

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シプロという抗菌剤を鶏に大量投与し、鶏を捌く過程でフンに汚染されりした結果肉に付いている細菌が抗生剤耐性を起こし始め、CDCが約1億円をかけて3年間の間患者さん達の直腸を綿棒で拭き取り培養してみるとその細菌はチキンを食べない方には存在せず、生や冷凍のチキンを食べている患者さんからは培養されました。

(パート2に続きます)


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