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想定通りにいかなかったとき、大いに喜ぶべき理由

私が代表を務めるアンカーデザインでは様々な業界のお客様からデザインに関する相談を頂き、日夜お客様と一緒にデザインに取り組んでいます。あるときデザインリサーチに取り組むチームとプロジェクトに関する打ち合わせをしているときに「あれ???」と違和感を覚えたことがありました。

デザインリサーチでは、インタビューを通して人々の抱えているニーズや要望を見出しコンセプトを作りますが、そのコンセプトの妥当性を確かめるために、それを人々に見せてフィードバックを集めることがあります。

フィードバックの内容は時と場合によって様々ではあるものの、必要であればコンセプトを修正してより良いものを目指すべきです。ところが、コンセプトを修正してみませんかと提案したときに、手戻りに対する抵抗感のようなものを感じることがあります。

コンセプトを修正するということは、当初の予定よりも多くの時間がかかってしまうわけですから、あまり気が進まない行為であることはわかります。しかし私にはどうも、これが工数への懸念というよりも、ものづくりのプロセスへの誤解から生じているように感じられました。

「何を作るか」から「何を作るべきか」へ

ゼロイチ領域のプロジェクトにおいて「何を作るか」までは比較的容易にたどりつくことができますし、場合によってはこれが予め定められている場合もあるでしょう。

プロジェクトを進めるなかで「こんなのあったらいいよね」と大枠の方向性が定まり、とりあえずでリーンキャンバスが埋まり、場合によっては社内稟議のための企画書が存在するかもしれませんが、この段階でアイデアの妥当性が検証されていることはほぼなく「何を作るべきか」について初期の段階で語られることはあまりありません。言い換えればこの時点でのアイデアには多くの不確実性が含まれているはずです。

不確実性を完全に排除することはできないことは言うまでもありません。最終的にそのアイデアが良いか悪いか、プロダクトが成功するか否かについて検証する術は、実際にプロダクトを作って、市場にリリースする以外にないこともあるからです。しかし、実際にプロダクトを作ってリリースするというのはとても多くの時間がかかります。プロダクトを実際に作らなくても排除できる不確実性があるなら、時間的、コスト的に安価な方法で排除可能なリスクはできる限り排除すべきです。

私たちはつい、自分たちのアイデアが良いものであると思ってしまいます。自分たちの思いついたアイデアが多くの人に受け入れられ、ビジネスとしても成功するとポジティブに考えてしまいます。

しかし、実際には十分に仮説検証ができておらず、不確実性が高い状態であることが多いように見受けられます。これはバイアスの一種であり、私たちが人間である以上仕方ないものですが、だからこそより一層の注意を払い「本当に価値のあるアイデアなのか?」を確かめなければなりません。

私達が作るべきプロダクトとは、人々にとって価値が高くて、技術的に実現可能で、事業として持続可能性があるものであるべきです。これらをひとつでも満たさなければプロダクトとして成立しませんから、自分たちのアイデアの中で不確実性の高い領域を見つけ、その不確実を削減していかなければなりません。

例えば、ユーザーはこんな課題を抱えているだろうと思ってプロダクトを立案したけれど、そもそも本当にユーザーはそんな課題を抱えているんだろうか?現代のテクノロジーで実現可能だと考え、それを前提にプロダクトを構想しているけれど、これはそもそも本当に実現可能なのだろうか。などなど。

アイデアの中には、無数の不確実性が含まれています。それを一つ一つ検証し、不確実性を削減していく過程の中で「何を作るか」ではなく「何を作るべきか」と説明できるようになるはずです。

デザインプロセスは一本道ではない

私がCIIDに留学し、プロジェクトに取り組んでいたとき指導教官に言われて印象に残っていることがあります。

Design process is not a straight way(デザインプロセスは一本道じゃないんだよ)

私の書籍「デザインリサーチの教科書」の中でもご紹介させて頂いているのですが、CIIDはデザインプロセスを大切にしています。どんなプロジェクトであっても、そのプロセスを拠り所にしながらリサーチや分析、アイディエーションと言ったステップを進めていくことで、より良いアウトプット/アウトカムを出そうとしています。

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一方で、このデザインプロセスはデザインプロセスとして存在するものの、必ずしも一本道ではないとも捉えています。例えば、リサーチして分析して解くべき問題(デザインチャレンジ)を作ったとして、そのデザインチャレンジが適切でないならリサーチからやり直すこともあるかもしれません。

アイディエーションを経てコンセプトを作ったけれども、ユーザーとして想定される人々に話を聞いてみたら思ったより受け入れてもらえなかった。そんなときは異なるアイディアをもとにコンセプトを作るかもしれないし、そもそも解くべき問題を作り直すかもしれない。あるいは最初まで戻って異なる確度からインタビューを実施するかもしれません。

つまり、デザインプロセスとは必ずしも一本道ではないし、正しい成果を得るために必要なら前のステップに戻ることが必要です。

デザインは、常にカオスです。良いプロダクトを作るためにはゴールに向かって試行錯誤を繰り返すしかありません。デザイン業界には、このことを示す有名な図があります。下記の図は、Damien Newmanという方が作ったSquiggleと呼ばれる有名な図なのですが、デザインのプロセスがいかに混乱を極めているかを示しています。

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https://thedesignsquiggle.com/

リサーチや分析、コンセプト作成の段階で特にデザインプロセスは混乱の様相を見せます。しかしながらこのことは一般的に外から見えるものでは有りません。

誰でも知っているような有名企業のロゴだけでなく、建物、洋服、車など、おそらく私たちの身の回りにあるほぼすべてのものは、何十回、何百回もの試行錯誤のうえに、世に送り出されたものです。しかしながら、プロダクトの裏側にどんな試行錯誤が存在したかは語られる機会は少ないため、多くの方はデザインプロセスを一本道だと捉えがちであるように思います。

学びの総量が良いプロダクトを作る

アイデアの中に、ユーザーはこんな課題を抱えているだろう。こんな課題を解決したがっているだろう。のような仮説があったとして、それを実際にユーザーにヒアリングを実施するなどして確認していない限り仮説の域を出ません。

仮説が多く含まれており事実かどうかの確認ができていない状態を不確実性が高い。当初は仮説だったかもしれないが、インタビューなどを通して、たしからしさを確認する事ができた状態を不確実性が低いと考えます。

プロダクトを作るには多くの時間や費用が必要になりますので、不確実性の高い状態で多額の投資をするよりは、不確実性の低い状態で投資をするべきです。なぜなら5%の確率で100億円の売上が期待されるアイデアに10億円投資するよりは、50%の確率で100億円の売上が期待されるアイデアに10億円投資したほうが、投資対効果が高いのは明らかだからです。

つまり、正しいプロダクトを作るためには、いかにして不確実性を削減するかがポイントとなるわけですが、不確実性を構成する仮説というものは正しいか間違っているかわからない状態です。

一般的にアイデアはすべての仮説が正しいという前提のもとで成立しています。ユーザーがこんな課題を抱えているという前提のもとに、課題の解決方法やビジネスモデルが構想されているのですから、ユーザーにインタビューしてみたけど、そもそもそんな課題は存在しなかった。あるいは想定と違ったということになってしまえば、アイデアそのものの修正も必要になるでしょう。

仮説を検証していく中で、すべての仮説が想定通りだったなんてことはまず有りえませんし、多くの場合、仮説とは異なる結果が得られることでしょうですが、想定通りではなかったといって気に病む必要は少しも有りません。想定どおりではなかったということは、プロダクトを作るプロセスの中で、新たな学びを得られたことですから大いに喜ぶべきです。

ここで得られる学びは、多くの場合、人々にインタビューをしたり、プロトタイピングを通して得た学びでしょうから、少なくともその時点では他者が知り得ない、自分たちだけが知り得る貴重なものです。この学びを適切に活用することで、競合に先んじてプロダクトをより良いものにすることができるはずですし、学びの量こそが良いプロダクトを作るための鍵であると捉えることもできます。

おわりに

学校の勉強では解くための手順があることがほとんどでした。数学でも物理でも、習ったことを利用して、あるいは多少応用しさえすれば成果が出ることがほとんどだったのです。つまりゴールへと至る道順があることが前提として問題が設定されています。

そういった問題解決に慣れてきた私たちにとって、リアルな世界の問題解決も数学や物理と同じように何らかの解法や正しい手順を知り、当てはめることによって解けるものだと期待してしまいがちです。

しかしそこで求められることは、試行錯誤を繰り返しなが答えを見つけて行くプロセスであり、このようなプロセスで学びながら前に進むしかない世界では、学びを得られたことを大いに喜ぶべきです。

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私が代表を務めるアンカーデザイン株式会社では、デザインリサーチとプロトタイピングを通してデジタル時代のプロダクト開発に取り組んでおります。興味のある方はお気軽にお問い合わせください。


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