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男の香水は匂わせない香らせる

初めて香水を買ったのは高校生の頃で、カネボウのオードトワレ「エロイカ」だった。

香水の何たるかも知らない高校生が、背伸びの悪戯心に香りに手を伸ばしたという程度だった。

とにかく手首に、首筋に、胸に、耳の後ろにと、つける場所を試行錯誤した。

ありがたいのは学友で「お前プンプン臭うぞ」と遠慮なく指摘してくれた。

大学生の頃はドイツで生まれたポーチュガル「4711」をつけていた。

柑橘系の香りなら、プンプンしないと信じていた。

ナポレオン軍が記した香りの名前の住所

ドイツ・ケルン市グロッケン通り4711番。

「オーデコロン」はフランス語で「Eau de Cologne(ケルンの水)」を意味する。

フランス語のEau de Cologneが世界に広まった背景には、ナポレオン・ボナパルト(1769年~1821年)のドイツ侵攻が影響している。

ドイツを制圧したナポレオン軍のドーリエ将軍は、1796年に市街地を掌握するために、建物に数字を着けるように命じた。

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このときにヴィルヘルム・ミューレンス(4711の創業者)の屋敷に記された数字が4711だった。

当時、ケルン市には50以上ものケルンの水が販売されており、それらと区別するために4711を商品名にした。

これがフランスで普及して「ケルンの水」はEau de Cologneとして世界に広まっていく。

4711はオレンジなどの柑橘類のエッセンス・オイル、少量のローズマリー、ラベンダーなどを調合して樽のなかで2ヶ月熟成させるらしい。

原点に戻れる4711の香り

らしいというのは、調合は今でも企業秘密だからだ。

60代を過ぎた現在でも4711はクローゼットの香水の棚に常備している。

どの香水をまとって出かけるべきか迷ったときには4711は重宝する。

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柑橘系に花々の香りは、どこに出向いても嫌みがない。

深く思慮に沈みたいときがある。

このときにはダンヒルアイコンや、アラミス900や、ペンハリガンLPの出番となるのだが、「どうも気分を沈ませたくないな」と同時に「派手な気分じゃない」と矛盾に気が立つときに、4711は助かる。

風呂上がりの就寝前などは4711の出番となる。

結局、一人でいるときは他人(ひと)に見せるべき個性など消して、独りは一人と開き直る。

そんなとき4711は、寄り添いつつも自分自身をじゃましない長年の古女房のように香ってくれるのである。



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