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///展覧会/// 色絵 陶磁器を彩る色の世界///  開催中

皆さん、こんにちは。私たち姫路 三木美術館では1年に4回の展覧会を開き、その折々にあう美術作品を愉しんでいただいています。現在開催中の陶磁器の展覧会「色絵 陶磁器を彩る色の世界」について少しご紹介させていただきます。開催は2022年11月27日(日)までですのでお見逃しなく!

姫路の街に吹く風や空の高さに秋の気配を感じるようになりました。今年は3年ぶりに「灘のけんか祭り」こと、松原八幡神社の秋季例大祭が開催されるとあり、ワクワクされている方も多いはず。そこで、心沸き立つお祭りもある今年の秋にふさわしい展示をと、陶磁器は彩り豊かな「色絵」をテーマにした企画展を開催しております。
色絵とは、釉薬をかけて焼いた陶磁器に、赤、青、黄、緑、紫などの上絵具で彩色して、700~800度の低温で焼いて発色させたもののこと。鮮やかな色合いと精巧な絵付が特徴の色絵は、やきものの装飾技法の中でもとくに華やかなものといえます。
日本の色絵は、有田で酒井田柿右衛門が創始し、幕府への献上用として鍋島焼が誕生します。その他、京焼において色絵磁器を完成させた野々村仁清など、江戸時代に各所で色絵磁器が生産され始めました。今展では、十二代、十三代、十四代酒井田柿右衛門や十三代今泉今右衛門の作品を中心に色絵磁器の魅力に迫ります。
野山を彩る秋の景色とともに、近代作家たちの手掛ける色彩の美をぜひご堪能ください。皆様のお越しをお待ちしております。

展示品の一部をご紹介します。

タイトル:濁手苺文八角陶筥 作家名:酒井田柿右衛門(十四代)


制作年:不詳

日本磁器発祥の地として知られる佐賀県有田町。17世紀初頭、朝鮮出身の陶工、李参平が有田の泉山で磁器に適した陶石を発見し、日本で初めて磁器の焼成に成功したことが有田焼のはじまりといわれています。初期の有田磁器は、素地に絵付けする染付が主流でした。そうしたなか、日本ではじめて釉の上に絵付する色絵を成功させたのが初代酒井田柿右衛門です。江戸時代、有田で焼かれた磁器は伊万里の港から輸出されていたため、「伊万里焼」の名で知られることに。明治時代以降になると、生産地の名前を冠して「有田焼」と呼ばれるようになりました。
柿右衛門によって、1640年代から赤を主体にして描かれた赤絵の制作が始まりました。さらに、1670年代になると、濁手(にごしで)と呼ばれる乳白色の素地を活かして日本画的な文様が描かれた赤絵は、「柿右衛門様式」としてヨーロッパに紹介されるようになったのです。初代酒井田柿右衛門が最初の色絵磁器を焼いてからおよそ380年。柿右衛門ならではの技術は十五代に至る今日まで、連綿と受け継がれています。
 今回、ご紹介する「濁手苺文八角陶筥」は、十四代柿右衛門(1934-2013)によるもの。野苺の可憐な姿や流れるような蔓、背景となる余白の濁手の部分が一体となった本作品は、途絶えていた濁手の技法を復元させた祖父(十二代)と父(十三代)から技法を学び、身近にある草花を作品に取り込んだ十四代柿右衛門ならではの作品です。濁手の新たな境地を切り拓いた陶芸家として、2001年には重要無形文化財「色絵磁器」の保持者(人間国宝)に認定された十四代。ちなみ彼の遺作となったのは、日本初のクルーズトレイン『ななつ星in九州』のために製作された洗面鉢とランプシェード。上質を知る大人の旅を彩る逸品として今も大切にされているのです。


タイトル:草白釉色絵蘆鴨図十二面皿 作家名:藤本能道(ふじもとよしみち)

製作年:1970〜1990年

昭和期に活躍した色絵磁器の第一人者として知られるのが藤本能道(1919-1992)です。1919年、東京都大久保に生まれた藤本は、東京美術学校工芸科図案部を卒業後、文部省技術講習所に入所。加藤土師萌(かとうはじめ)や富本憲吉に師事し、色絵磁器の技法を習得します。1946年に日展や国展に初入選以降、1956年日本陶磁協会賞、1965年日本工芸会東京支部展受賞、同年ジュネーブ国際陶芸展で銀賞など、名誉ある賞を次々に獲得しました。また、京都市立美術大学で教鞭をとった後、東京藝術大学の助教授となり、1985年には工芸出身としては初めて東京藝術大学の学長になるなど、美術教育に熱心だったことでも知られています。
 加藤や富本から学んだ色絵磁器の系譜を受け継ぎつつも、従来の日本の色絵にはなかった釉薬の混色や日本画の技法である没骨描法など積極的に採用。さらに、白磁の素地自体に釉薬の色を重ね、絵画のような繊細な色調と柔らかな質感表現を色絵にもたらす独自の技法「釉描加彩」を完成させ、陶芸界に新風をもたらしました。これらの功績が評価された藤本は、1986年に重要無形文化財「色絵磁器」保持者として認定され、日本を代表する陶芸家として名を残すことになったのです。
藤本の作品は、花鳥をモチーフにした緻密で、なおかつ高い写実力を見せる色絵が特徴です。「草白釉色絵蘆鴨図十二面皿」もそのひとつ。水辺の蘆の茂みから鴨が三羽飛び立つ様子が細密で繊細なタッチで描かれています。現代においても多くの陶芸愛好家から高い評価を得ている藤本ならではの作品といえます。


タイトル:色鍋島薄墨柘榴花文花瓶 作家名:今泉今右衛門(十三代)

制作年:不詳

今泉今右衛門家は、江戸時代に佐賀・鍋島藩の藩窯で代々御用赤絵師を務め、色鍋島の絵付を継承してきた陶家です。十四代に至る今も、素地から窯焼、絵付までの全工程に取り組み、窯元の名門として高い評価を得ています。中でも、十代・十一代・十二代と三代かけて江戸期色鍋島の復興に成功。その技術と功績が認められ、1971年に国の重要無形文化財保持団体の認定を受けました。
 1975年に襲名した十三代今右衛門(1926-2001)は、器の表面全体に呉須を吹き付けることで濃淡に富む地文を生む、「吹墨」を採用。また、貴金属を含んだ黒色の顔料を、吹墨と同様の技法で地文に用いる「薄墨」の技法を創案し、複雑な色彩効果をもつ新たな色絵の表現を確立しました。さらに、中国・明代の緑地金彩にヒントを得て、緑の上絵具を地色として塗りこめる「墨弾き」を用いることで、白地や淡色地の多い従来の色鍋島に、趣深い表現を出現させました。
伝統に根ざしながらも新しい技法を日々追求し、1989年に「色絵磁器」の重要無形文化財保持者に認定された十三代今右衛門。その作風を伺えるのが、本作品「色鍋島薄墨柘榴花文花瓶」です。薄墨の器胎に、花の部分は墨弾きを駆使し、薄墨の効果で柘榴の花の朱色と青々とした葉が引き立っています。気品と創造性に溢れる今右衛門ならではの色鍋島の意匠をぜひご覧ください。
                            [ 文・堀朋子]

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