性的マイノリティの総数は少数じゃないよね

発達障害も性的マイノリティも、思春期の頃に判明していれば大層な悩みの種になったのであろうが、四半世紀以上生きてしまった後だと逆に腑に落ちる以外の何物でもなかった。

発達障害の症状はそれ自体が深刻な精神的負荷であり、通院や服薬という負担もあるが、性的マイノリティに関しては実際的な問題は何もない。

自分の子どもを持ちたいという願望もなかったし、一度離婚をしてしまっているので結婚の圧力をかけてくる身内もいなかった。
(度々念を押すが、結婚自体したくてしたわけではなかったし、いずれ離婚することははなから目に見えていたので周りが勝手に気を遣っているだけである)

性的マイノリティと一言に言っても、細かく分類していくときりがないし、私もとても把握しきれていない。

ともあれ私の性自認は女だし、見た目もそうだ。
恋愛感情は男性に対しても女性に対しても抱くことがあり、性的な関心もある。

男と女、どちらを恋人にしたいかと言われれば女と答えるが、それは過去の経験上刷り込まれた男性像があまりにもひどすぎるせいだろう。
つまり、良い人であればどちらでもいいのである。

性的マイノリティとしての生きづらさなどというものも大して味わったことはない。

ただ、自分がバイセクシャルだと自覚してから、世間の、特に電車の中の広告に苛立つようになった。

女性誌やエステやマッチングサービスの広告では、女性とはイケメンが好きなものであり、異性愛に関心があるものであり、彼氏の目を気にするものであるという前提が前置きもなく全面に押し出されがちだ。

イケメンに興味のない女性もいるし、恋愛に関心のない女性もいるし、彼氏の目を気にしない女性もいる。しかもそれらの女性の総数を考えれば、もはやマイノリティとは言えないだろう。

女性の中の一部でしかない女性像を、女性の共通項であるかのようにアピールされるのははなはだ不快だ。

また、結婚は法的に相手が異性に限られるのが現状だからやむを得ないとしても、恋愛は異性愛と同性愛の両方を含むものだし、人が皆恋愛をするわけでもない。
恋愛感情そのものを抱かない人々もいるし、恋愛をするからといって性的な関係を持つかどうかも個々人の問題だ。

そうしたことがすでに義務教育の中ですら教えられている時代に、恋愛とはすなわち異性愛! 異性愛と言えばセックス! と言わんばかりの広告を公共の場に堂々と打ち出されることには嫌気がさしてきた。

コンテンツの存在を否定する気はない。需要があるから供給があるのだ。
問題は、あらゆる層の人々が目にする場で、「女性なら誰もが○○したいに決まっている! そう! あなたも!」とゴリ押しのアピールをされることにうんざりしている、というだけである。

業界に詳しくはないので詳細なところはわからないが、どうもこの件に関してはコンテンツを製作する人々ではなく、広告業界に難があるらしいという話をちらほらと耳にする。
彼らも商売であるから、金にさえなればよいというのもわからなくはない。

私はジェンダー問題にはどちらかといえば疎い方なので、マイノリティの立場に立って初めてこれらの不快感に気付いたが、敏感な人々はもっと昔から悩まされていたようだ。

世の中の気に食わないところを探し始めると無間地獄を覗くことになるので、不快だということに気付いたという事実を述べるにとどめておきたいが、性的マイノリティを「ごく稀な存在」と認識している人はトラブルにならないうちに認識を改めた方がよいと思う。

自ら性的マイノリティだと公言する人がめったにいないだけで、自分がそうだと自覚している人と自覚していない人を合わせれば、ほとんどの集団に彼らはいる。

結婚して子どもがいるからといってマイノリティでない証明にはならないし、異性の恋人がいることも同様だ。
私にもかつては彼氏も夫もいたのである。

東京の新宿二丁目がいわゆるゲイタウンとして知られているが、大阪にも堂山というそうした一画が存在する。

ビアンバーと呼ばれる女性専用のバーがここ2、3年で急激に増え、女性だけの空間で飲めるのが実に快適なので私も時折足を運ぶのだが、そこにはあらゆる業種のあらゆる職種の女性達がいる。
そして彼女達のほとんどは、職場や地域のコミュニティでは異性愛者のふりをして過ごしているのだ。
(誤解されがちなので補足するが、ビアンバーといっても店員と客が女性しかいないというだけでごく普通のバーである。客が必ずしもレズビアンだとも限らない)

私は現状パートナーもいないので、今すぐ社会にどうなってほしいという切迫した要求はないが、願わくば早いうちに、恋愛という言葉が無条件で異性愛に限定して使われることがなくなれば実に有り難い。何故なら単純に紛らわしいからである。

そしていずれは、芸能人だろうが有名人だろうが、異性と結婚することと同様に同性と結婚することが当たり前に祝福される世の中になれば楽しいだろうな、と夢見ている。

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