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ナポレオン三世の足跡を#02/ニシム・ドゥ・カモンド美術館02

カモンド伯爵邸は中庭と外庭を挟んで建っている。 中庭側にあるファサードはシンプルで美しい。外庭側の建物からはモンソー公園が望める小さな庭園がある。 
僕らは広い玄関ホールから大階段を上って2階の応接室に入った。調度品が美しい。
ジャン・アンリ・リースナー(1734-1806)の焼き印が押された1780年頃の荘重なマホガニーの事務机。彫金を施した鉛製のイルカが載せられた赤大理石製の貝殻型のフォンテーヌ(1750-1760頃)などが、仰々しくなくポンと置かれている。彼の趣味の良さがこれだけで分かる。
書斎は、壁面が精緻な彫刻を施したコナラのボワズリー(板張りの壁)で、そこにオービュッソンのタピスリーが6枚掛けられていた(1775-1780頃)
「タピュストリーは当時の家には必須だった。教会にも城館にも必ずある。」僕が言うと嫁さんが深く頷いた。
「エアコンの替わりなんでしょ?冬は寒さを和らげ、夏は吸い取った水蒸気を吐き出して冷たくなるんでしょ。すごい生活の知恵よね。床に敷かれている分厚い絨毯もそうなのよね。タダの趣味じゃない、快適さへの知恵ね。」
「ん。同時にタピュストリーに描かれている素材は、持ち主の感性を現す。」僕らはタビュストリーの前に佇んだ。
「これは、寓話画家ジャン・バティスト・ウードリーJean-Baptiste Oudry(1686-1755)の描いたラ・フォンテーヌJean de La Fontaineだ。素材になってるのはイソップが集めた民話だ。いかにもモイズ・ド・カモンドらしい。絨毯は(1760-1770頃)はオービュッソン製で豪華だが品が良い。」
「家具が素敵ね。」
「多くがマルタン・カルラン(1730-1785)が作ったものだ。あの白大理石の天板を載せた長方形の小さなテーブルが有るだろ。あれはカルランの代表作だ。ここの家具は彼の作品が多い。」
「品が良くて、押し付けがましくないところが素敵ね。」
そのままグラン・サロンに入った。
「!」嫁さんが感嘆の声を上げた。「家具の感じが見事に違うわね。」
「こちらの部屋はジョルジュ・ジャコブ(1739-1814)の作品が中心だ。
テーブルの上に美しい瓶が(18世紀初頭のもの)さりげなくある。ブロンズゴールド製で漆塗りが施され、スフィンクスを彫刻した台もブロンズゴールドで作られている壷だ。
「この壷は、ルイ15世(1710-1774)の愛妾ポンパドゥール夫人(1721-1764)が所有してたそうだ。
「ポンパドール夫人って、コンティ公とロマネコンティの畑を買い争った人でしょ?あなたの話に良く出てくる人。」
「そうそう。あの人だ。」
そのまま進むと。邸宅の中央にある楕円形のサロン「サロン・ド・ユエット」へ入る。此処はジャン・バティスト・ユエ(1785-1811)が大きなテーマとなっている。そして暖炉の前に、王室家具調度管理官邸で働いていた指物職人ジャン・バティスト・グルーズ(ブラール)(1725-1789)の屏風がある。
「この屏風はヴェルサイユ宮殿に有ったものをカモンド伯爵が買ったんだ。ルイ16世の遊戯の間に有ったものだ。

彼は末期ブルボン王朝のものを無数に買い漁っている。はす向かいの食堂にある小部屋には、ロシアの女帝エカテリーナ2世が、1770年に金銀細工師ジャック・ニコラ・ロティエールに命じて作らせた食器セットとか、博物学者ビュフォンの挿絵をモチーフにした「ビュフォンの鳥(1780年頃)」と呼ばれているセットとか有名なものが一杯ある。」
「見ているだけで幸せね。」
「カモンド伯爵が普段使いしていた食器類は、山鶉の眼をモチーフにしていて、それぞれに異なる鳥が精巧に描かれているんだ。そし食器の裏にはその鳥の名前が記されている。伯爵はこの部屋をとりわけ愛し、一人きりのときには、いつもここで食事をしていたそうだ。」
「息子さんが亡くなってからは、寂しい食事だったのかも知れないわね。」
「そうだな。きっとそうだろうね。」
僕らは食堂の中央に暫し滞って老いたカモンド伯爵の背中を幻視した。


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無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました