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ナポレオン三世の足跡を#04/ルーブルとナポレオン三世

ルーブルにはポルト・デ・リオン口から入る。ここは割と知られていなくて誰も並んでいない。原則団体用の入り口になってるんだけど、チケットを事前に買っておけば・・そして団体客とぶつからなければ、ほぼ間違いなく此処から入れる。これで30分は短縮できるね。僕はいつも此処を使う。 館内に入ると、そのまま真っ直ぐ2階に上った。
ポーペンポーぺン声高にしゃべってるチャイナを掻き分けながらである。しかしまあ、彼らはルーブルに来て殆ど展示品を見ない。展示品に背を向けて、それが写り込んだ写真を撮るだけだ。コレが中々面白くて、タイミングが合えば見てる人間全員が展示物に背を向けて写真を撮ってるという、幻想的な風景に出会える。・・面白いもんだ。

さてさて。僕らが向かっているのはリシュリュー翼2階の番号で云うと544。「ナポレオン3世の居室Les appartements de Napoleon Ⅲ 」の大サロンである。此処は背中向けて撮るものないからチャイナはいない。日本人も居ない。 しかしいつ来ても豪勢な部屋だ。
嫁さんが驚嘆した。
「カモンド伯爵邸と格段の差ね。」
「うん、好きか嫌いかと云えば、あっちのほうが良いが、これはこれで凄い。Les appartements de Napoleon Ⅲ と複数形が示すように、この大サロンを中心に小食堂/大食堂幾つもの居間が有る。」
展示室547は食堂。鍍金ブロンズで飾った黒ずんだ木製の長いテーブルと食器棚があり、猛烈な荘厳さを演出している。天井画(異国の鳥の間に見える明るい空)はウジェーヌ・アペールの作である。
「最初に瀟洒なカモンド伯爵邸を見たせいかしら、却ってこの重厚さをイヤミに感じないわね。これはこれで凄いと思う。こんなところには住みたくないけど。」
「ん。たしかに・・」
そのまま歩き続けた。
「第一の間le premier salonは、アドルフ・ティエールがつかっていた。彼はナポレオン3世の子飼いだったが、ナポレオン失脚後は第三共和政の大統領をしてた。ここには彼のコレクションが置かれている。
そして謁見のための待合所Galerie d'introductionが此処。」
「ほんとにこんなに当時も椅子がずらりと並んでいたの?」
「ん。ナポレオン3世の仕事は、人に会うことだったからな。
そして此処が家族の間salon de famille。」 
「壁が・・赤!でも随分暖かい赤・・シャンデリアが凄い。」
「ナポレオン夫人ウジェニー・ド・モンティジョは此処で子供たちと暮らしていた。」
「ウジェニーって、セントリュズであなたが言ってた人でしょ?」
「うん。スペイン貴族シプリアーノ・パラフォクス・イ・ポルトカレッロの娘だ。聡明な人だった。
当時、ナポレオン3世には愛人がいた。ミス・ハワードという女性だ。子供もいた。彼は彼女をこの部屋から追い出して、ウジェニーを夫人として迎え入れたんだ。」
大サロンの先には演劇の間Salon theatreがある。そのの天井を彩るのは、オーギュスト・ジャンドロンの「花の四季」だ。
何れもシャンデリアが豪華で、光の世紀ベル・エポックに相応しい光量をもたらしていたんだろうと実感できる。

正面に飾られたウジェニーの大きな肖像画の前に立って、嫁さんがシミジミと漏らした。
「奔流に揉まれながらも、きっとちゃんと自分を持った人だったのね。その心の強靭さが表情に出てるように見えるわ。」

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無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました