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ナポレオン三世の足跡を#07/ギャルリ・ヴィヴィエンヌ

「ギャルリ・ヴィヴィエンヌの先進性は、ただのパサージュ『ぬけられます』じゃなかったことなんだ。このパサージュを企画したマルショーMaitre Marchouxは公証人役場の理事長だった。なかなか商才長けた男だった。彼の発想が凄いのは、此処を通りと通りをショートカットするだけのパサージュ・・直線にしなかったことなんだ。直線ショートカットだと両脇に並べられる店舗が少ない。マルショーはギャルリ・ヴィヴィエンヌをわざわざ鍵型に曲がる小路にした。物件の都合もあったんだろうけど、それ以上におそらくパサージュに出店する店舗数を稼ごうとしたんじゃないかな。僕はそう思う。これは中々の慧眼だ。これがド当りした。ただの『ぬけられます』じゃなくて、ウインドショッピングを目的とした散歩道として、此処は圧倒的な人気を得たんだよ。

そのうえ、通りの名前を『パサージュ』ではなく『ギャルリー』にした。高級感を前面に押し出したんだ。 ネーミングって大事でね。日本のセブンイレブンが『コンビニ』と自称した瞬間から、あスこは『24時間やってるスーパーマーケット』から飛び立った。 別の事業体になった。あれと一緒だ。ギャルリ・ヴィヴィエンヌは、パサージュ・ヴィヴィエンヌじゃない。最初から小間物屋が並んでいる路地ではないと、自らを『ギャルリー』と呼ぶことで宣言したんだ。大したもんだろう?」
「そういえば、此処って出店している店が品の良い店ばかりね。買いたいものはないけど。」
「ん。そうだな。僕が始めて古本屋のジュソームへ行ったときは・・いまから30年くらい前は酷い状態だったけどな。荒ぶれて、今の日本の地方商店街みたいな所だった。市が再開発する気になって本格復活したんだ。」
「あ。そういえばそうね。パサージュってショッピングアーケードよね。色々店が並んでいて、通りが屋根で被われていて雨の日も傘差さずに買い物ができる。・・でも・・この雰囲気の違いはなんなの? パサージュは旧いパリがラップに包まれて真空保存されているように見える。でも、再開発されてるから実はまだ出来たばっかりなんでしょ?なにが違うの?」
「そうだ。そのとおりだ。面白いな。もちろん200年という時代の重みもあるけれど、戦後高度成長期に地方商店街がパサージュを真似たショッピングアーケードを作ったとき、パサージュの基調にある"気品を守る"という姿勢は取り入れなかったから・・かもしれない。姿形は真似てもタマシイまでは真似なかった。日本の国情には合わないと切り捨てた結果だろう。
それと・・いずれ訪れる経済が右肩上がりじゃなくなったときのオノレの姿を、パリのパサージュが辿った衰退の道から学ぼうとはしなかったこと・・これは施政の大きな瑕疵だと僕は思うな。いま、うちの近所に乱立するホテルもそうだ。インバウンドが終わった後、銀座の周辺に無数に建てたホテルのせいで町がどうなるのか?鳥肌のたつ話さ。」

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無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました