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ジュネーブでsissiに逢った#02

おしゃべりな運転手に解放されてホテル・ボー・リヴァージュにインしたときはもう夕暮れだった。すぐ傍らにブランズウィク公の霊廟がある。当日予約だったので、湖が見える部屋は取れなかった。ところがチェックインしようとカウンターに向かったら横から声をかけられた。取引先の担当Nだった。彼が、僕のその夜泊まるはずのホテルにおいてあったバゲッジを運んでくれたのだ。なるほどな凄いなと思った。そして、何気なく「夕ご飯、ご一緒しませんか?」と言われた。まだ仕事の話をするつもりらしい。僕が笑って(内心はちがう・断れるわきゃないだろ)OKすると安心した様子だった。かなり気難しいと思われてるみたいだった。
「すぐ裏にパキという通りがあるんですが、そこに気の利いたレストランがあるんです。英語のメニューもある」
30分ほど待ってもらって一緒に街へ出た。レストランは10分ほど歩いたところにあった。
食事をしながら、なんとなく何故ホテルを替えたのかの話になった。最初のホテルは彼のアテンドだったからだ。
「モントルーのシヨン城まで今朝、行ってきたんだ。そしたら運転手がエリザベートの話をしはじめてね。」
「おおお、それでホテル・ボー・リヴァージュですか?モントルーでエリザベトが定宿にしていたコーのホテルは廃業していてもうないんです。あの前日、エリザベトはテリテからボートに乗ってます。ション城にいかれたんですよね?」
「ん。さむかった」
「ははは。テリテの桟橋はすぐそばなんですが・・ガイドはその話をしませんでしたか?」
「ん~しなかったなぁ」
「そうですか、それは残念な。ところでアン・デア・ウィーン劇場は行かれましたか?ご案内しましょうか?ミュージカルがお好きですか?エリザベトのミュージカルがあるんです。」畳かれるように言われた。
「いや観てない。噂は聴いてるけど」
「よろしければ、次回いらしたときにご案内しますよ。すばらしい劇場です。ミヒャエル・クンツェのエリザベトの初演はあそこだったんです。」https://www.theater-wien.at/en/home
・・おやおや、こんなところでもエリザベートについて熱く語る人がいた。
僕は内心びっくりした。なぜこれほど彼女は人々の心に届くんだろう。

僕にとってのエリザベートは、少女時代に甘やかされるだけ甘やかされて育ち、それが厳しい家庭に嫁いで姑にこづき回されながらも、周囲を気にせず我を通し続け周囲に"迷惑かけ続け人生"をすごした典型的な王女様だ。「私って不幸♪」を徹底的にエンジョイした人だ。

「ホテルの前のフェリーの着く公園に、エリザベトが刺された場所を示すプレートがあるんです。もしよかったら、いま帰りにご案内しますよ」
ま。でもよかったね。仕事の話をしながらのディナーじゃなくて、エリザベート話で終始した席だったから。
「エリザベトは、夫君フランツ1世が亡くなってから喪服しか着なかったんです。あの日もそうでした。ところで、あの日に着ていた服が残っているんです。」
「すごいね」
「ブダペストの王妃エリザベート記念館にあります。」
https://mnm.hu/en
二人も続けざまにエリザベートを熱く語る男に出会って、その日僕はホテルを替えたことを少し後悔した。


無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました