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【短編小説】僕が僕を助けてくれた

僕の部屋はゴミ溜めだ。潔癖症で有名な僕がゴミに溢れた部屋に1人で住んでいる。床にはコンビニ弁当が散乱していて、空のペットボトルがそこら中に乱雑に投げ捨てられている。まるで、オールして遊んだ大学生の部屋のように。こんな部屋で生活をして3ヶ月が経った。

3ヶ月前に何があったかと言うと、「僕は会社を休職した」入社して3年目の会社で僕は鬱になってしまった。毎日上司に罵声を浴びせられ、月に100時間を超える残業生活を過ごした。辞めるチャンスはいくらでもあったのかもしれない、でも大企業で内定が決まった時に親も喜んでくれたし、周りもすごいと言ってくれた。女の子も近寄ってきてくれた。人に認められることが嬉しかった。

今思うと、僕の人生はいつもそうだった。有名大学に入学した理由は親が喜んでくれるからだし、世間もそれをすごいと言ってくれた。だから、旅行が好きだった僕は好きな事よりも有名企業に入社することを決めた。やりたいことを優先せずに周りに流されて生きていきた。世間が言う素晴らしい人生を生きてきた。そんな人生素晴らしくもなんともないのに・・・。

僕は・・・親の敷いたレールの上を走ってきただけなんだ。

もう、疲れたんだ。病院で鬱と診断された時は「これで会社に行かなくて済む」と思って少し気が楽になった。でも、休職の手続き中にも上司からは厳しい言葉を浴びせられた。「お前は弱すぎる」「他のやつは頑張っているのに」「給料泥棒」。3ヶ月後、会社に復職するのが怖くて仕方がなかった。

明日。僕は会社に行かなければならない。でも、この処方された睡眠薬を飲めば、会社に行かなくて済む。だから、僕はこの薬を・・・飲むんだ。

その時、僕は睡眠薬を50錠ほど手に持って飲もうとしていた。冷静な判断なんてずっと前からできる状況ではなかった。「死ぬなら、仕事辞めればいいのに」と世間は言う。死ぬ人にそんな判断はできないんだ。判断ができる時には人に相談している。相談したらみんなが言うんだ。「みんなそうだよ」って。親にも相談した事がある。それでも、「3年は働からないと」「みんな辛いんだよ」と言われただけだった。僕はただ「辞めても大丈夫だよ」と言って欲しかっただけなのに。唯一の味方だと思っていた親が敵だなんて・・・。

勝手に涙が出ている。そうか、体は分かっているんだ。これから僕が死ぬことを。悲しんでくれているんだ。でもごめん。僕はもうダメだ・・・。そして、僕は大量の薬を口の中に入れた。

ちょ、まてよ。

誰もいないはずの部屋から声が聞こえた。振り返ると真っ黒なサングラスをかけた赤ちゃんがいて、驚いた僕は口に含んだ薬を全て吐き出してしまった。

「げ、幻覚???だ、誰だ!!!」

「幻覚じゃねーよ。」

なかなかに渋い声で答えた赤ん坊は続けて言った。

「26年前のお前だよ」

今起きていることが信じられない僕は、「僕は死んだんだ。これが死後の世界なんだ。薬を飲んで死んでしまって。今から、天国か地獄に行くんだ。そうじゃないとおかしい。」と言い聞かせた。そもそも赤ん坊が話すわけない。なんでもいいや。そう思って、僕は赤ん坊と話すことにした。

「26年前の僕が何か用?僕はもう死んだんだよ?」

「死んでねーよ。俺の真っ暗な未来を変えにきたんだよ」

「は?」

「わざわざ、26年前から母ちゃんの腹の中から来てやったのに、なんだその対応。え?俺ってこんな感じになんの?嘘でしょ?優しさ覚えよ?優しさって世界救うよ?」

「いやいや、意味わかんないし。」

「優しさの意味もわからんの?優しさってのはな・・・」

「そうじゃなくて、僕は死んでないの?」

「死んでねーよ、だから俺と話しているんだろ」

「それがありえないというか」

「現実に起きてるんだから、ありえるんだよ。自殺しないだろうと思っていいた奴が自殺をしたりするんだよ。」

僕には何が起きているか全く理解する事ができなかった。薬の副作用で幻覚を見ている?でもこんなに意識ははっきりするだろうか?死んでいない?え?え?僕は混乱して何がなんだかわからなくなっていた。

「まあ、未来の俺。聞けよ。死ぬのはあかん。」

「なんでだよ。僕には誰も味方がいないし、もう生きる意味もないんで。死んで楽になりたいんだよ」

「馬鹿野郎、死んだら、俺が生まれてくる意味がねーだろう。詳しくは話せないけどな、俺はまだ生まれていないから、前世の記憶だったり、神様の記憶があるんだ。だから、死後の世界もわかるし、なんのために俺が生まれてくるかも分かってる。お前はここで死ぬべきじゃねーんだよ。これから、すべき事があるんだよ」

「何言ってんだよ。信じられるわけないだろう」

「赤ん坊と話している時点でそのくらい信じろよ!」

どうせ、僕は死ぬんだ。失うものもない。信じよう。そう決めた。

「分かった。信じるよ」

「おう。素直ないい子じゃねーか。未来の俺。じゃあ、これから俺の言うことをきけ。」

「は、はい。」

「部屋を片付けろ。」

「え、なんで・・・」

「いいから片付けろ。ワクチンも打っていない赤ん坊をこの部屋で寝かせる気か?全部捨てろ。いいから全部だ。」

そうして僕は燃えるゴミ、燃えないゴミに分けてゴミをまとめた。そうするとゴミ溜めだった部屋が綺麗な部屋へと様変わりしていった。

「よし、スーパーに行って、これ買ってこい。飯作れ。俺は野菜が好きだ」

待て、赤ん坊がなにを言っている。野菜が好き?ミルクじゃなくていいのか?そんな疑問を持ちながら、久しぶりに外へ出て、スーパーへと向かった。

太陽を久しぶりに浴びた。なんだか気持ちよかった。僕は言われたものを買い家に帰った。

「おお、よく無事帰ってきたな。さすが俺だ。やっぱり俺は大丈夫だな」

「へ?何が?」

「いや、お前鬱なんだろ?それなのに、部屋もすぐ片付けれたし、外にも出れたし、人がいるところにも行けたじゃねーか。」

「あ・・・」

言われてみたらそうだ。外には出て怖くなる人もいるし、コミュニケーションを取れなくなる人もいるからと言われて、発作を抑える薬も処方されていたんだった。僕の鬱は・・・。なんなんだろう。

「まあ、これで分かったじゃねーか。お前の鬱の原因が仕事だ。簡単な話、仕事を辞めればもとどおりの元気な自分に戻れるってことよ」

仕事というワードを聞いた瞬間僕は、息が苦しくなり、過呼吸になってしまった。頭の中には僕をいじめてきた上司の顔でいっぱいになり、脳内で罵倒されていた記憶が蘇っている。

「お、おい、大丈夫か?お前は悪くねーんだ。安心しろ。俺が付いている。」

赤ん坊の一言で僕は落ち着きを取り戻し始めた。

「君が付いていてくれるの?」

「あ?当たり前だろ。俺はお前だ。いつでも味方だ」

今まで、味方がいないと思っていた僕に味方がいると思うと心が軽くなった。僕には僕がいる。だから大丈夫だ。自分でも何を言っているかわからない。でも僕には僕がいる。

「明日、会社行かないと行けないんだよね。」

「まあ、その話も聞いてやるからよ。その前に飯作れよ」

「あ、ああ。ごめんごめん」

そう言われても、僕は僕に言われた料理を作った。

「うまいじゃねーか。部屋も片付けて、太陽も浴びて、栄養のある飯を食べて。最高だな」

「は、はい!」

「んで、お前、明日会社行かないといけないんだろ?」

「はい・・・」

「行かなくていいよ」

「え?で、でも」

「今の会社辞めたい?」

「できる事なら・・・辞めたいです。」

「いますぐ?」

「はい」

「じゃあ、明日行かなくていいよ」

「でも!!!」

「はいはい。辞めるにも会社行かないといけないとか言うんだろ?辞めたらその後不安だとか。俺からすると、こんな世の中にこれから生まれてくる方が不安だけどなあ?」

「は、はぁ〜」

「ベイビージョークだぜ?笑えよ。まあ、いいや。今はよ便利な世の中で退職の代行の仕事があるぜ。代わりに辞めてきてもらえよ。金もそんなかからねーし。」

「でも・・」

「でもでもうるせーな。デモンストレーションしてやるから。でもだけに・・・。」

「は、はぁ〜」

「ノリ悪いな〜。どうせ、あれだろ?大企業で就活も頑張ったし、親にも喜ばれたところだし、辞めた後、今よりいいところなんて絶対に無理だって。」

「そうです」

「お前の人生は親の為じゃなくて、お前自身の為にあるんだよ」

赤ん坊の僕はサラダを食べながら続けて話した。

「不安だろうよ。次の就職先が見つかるかもわからないし、次も同じような目にあうかもしれない。今が安定しているのかもしれないって。まあ、あれだな、会社のことから説明するわ。20年後にも生き残っている会社って数%って知ってたか?お前の働いていた会社も大企業で潰れるはずないと言われているけどな、20年後はわかんねーんだぞ?20年後ってお前何歳だ?」

「46歳です」

「そうだろ?それから、また職場探すことになるかもしれないんだぞ?結局いつになっても不安というものは襲いかかってくるもんなんだよ。でもなんとかなるんだよ。日本という国はな。不安かもしれないけどな。」

「はい・・・。」

「よし!思い立ったが吉日だ。代行に電話しろ。」

そして、僕は退職代行の会社に電話をして、事情を説明した。1時間ほどで「あとは任せてください。」と言われて電話が切れた。

「めちゃくちゃ便利だな。これで、お前はあの会社と何も関係がなくなった。ストレスフリーだ。」

「ど、どうしよう。収入が・・・」

「悩み始めるの早すぎだろ!お前は悩みのウサインボルトか?あ?」

「どうしたらいいでしょうか?」

「そんなのお前が好きな旅に出るに決まっているだろ」

「バカなんですか?そんなのお金なくなって死んでしまいますよ」

「自殺しようとしていた奴が何、死について語ってるんだ。」

確かに、僕は1度死のうとしていたのに、何を恐れているんだ。あの時死ぬのもこれから死ぬのも何も変わらないじゃないか。だったらやりたいことをやって死のう。

「僕、旅に出ます。」

「さすが俺だな。俺も連れていけよ?」

「へ?」

「当たり前だろ。赤ん坊を家に置き去りにして殺人犯になりたいんか!」

「わ、わかりました。」

そうやって、僕は住んでいたアパートを解約して、服・家具・アクセサリーなどをネットで販売した。そうしたら意外とお金になった。貯金も合わせると1年は旅をしていても生きていけそうだ。

そして、出発の当日

「ところで、どこに行くとか決めてんの?」

仁王立ちした赤ん坊の僕がそこにいた。

「決めていないです。でも、東京から反時計回りに旅しようと思います。」

「貴様は伊能忠敬か!」

「まあ、いいじゃないですか!僕の人生ですし。」

「そうだな、お前の人生だ。お前が楽しければいいんだ。」

そうやって6ヶ月ほど西に向かって歩いたり、ヒッチハイクをして旅をしていた。たくさんの人に出会い。優しさにも触れてきた。公園で寝ようとしたら、家に泊めてくれた夫婦がいたり、遠回りをして行きたいところに連れて行ってくれた若者。この世界は優しさでできているんだ。

そしてもう1つ気がついたことがあった。赤ん坊の僕は僕以外には見えないらしい。

今日もどこで寝ようかいいところを探していた時に、もう1人の僕は言った。

「あそこに過去のお前がいるぞ。お前にできることはなんだ?」

自殺未遂を経験した僕だからわかる。自殺をしようとしている顔のスーツ姿の若者が線路に向かって歩いていた。

「ちょまてよ!!!」

その若者は振り向いて止まった。

「何かご用ですか?」

「過去の僕を見ているみたいなんです。お話を聞かせてくれませんか?」

彼は今までのストレスを発散するかのようにマシンガンのように話してくれた。聞くと、彼も上司からパワハラを受けており、会社を辞めたいがせっかく入社したあ会社だし、親も喜んでくれた。でも辛い。いなくなった方が楽かもしれないと話してくれた。

そこでも、僕はこれまでい起きた僕の話を全て話した。

自殺しようとしたこと。赤ん坊の僕と出会ったこと。部屋を片付けたり、太陽を浴びたり、料理作ったり、会社を辞めて旅をしていること。そんなことを話していると深夜の12時を過ぎてしまっていた。

「会社辞めて、旅しているけれど、仕事もない人間のアドバイスだから参考になるかわからないけど。味方はいるから。自分の人生を楽しみなよ」

「あ、ありがとうございます。僕。考えてみます。ありがとうございました。」

そうして、スーツ姿の若者と別れた。

「君に言われたことをそのまま伝えてしまったよ。僕は君と出会えて本当に良かった。ありがとう。あ、今日って、僕の誕生日だ。ということは君の誕生日でも・・・あれ??」

そこには、赤ん坊の僕の姿はなかった。

僕は生まれたんだ。

彼のためにも、素晴らしい人生を過ごすことが彼への恩返しだ。

この先の未来はわからない。

でも、僕の人生なんだ。

僕が決めて生きる。

ありがとう。僕。

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みけ

「noteで生きていく。」僕の夢です。 noteのフォロワー1位も目指しています。 馬鹿げている夢かもしれません。 でも・・・・叶えたい。 もしよろしければ、サポートのほど宜しくお願い致します。

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北海道在住.26歳.185cm.「ホッキョクグマ」やってます。                                    生きることについて、面白おかしく記事にしております。                                     将来の夢は「旅人」