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消しゴム顔 (毎週ショートショートnote)

「今、お時間ありますか?」
声を掛けられて振り返ると、派手な服を着た若い男だった。
もう陽が暮れるというのにサングラスをかけている。
嫌な予感がした。
「ちょっと、あの・・・・・・珈琲でも飲みません?」
案の定だ。
「ごめんなさい、急いでるんで」
無視して歩き去ろうとすると、男が叫んだ。
「待って下さい、そっくりなんです!」
その声はあまりに悲痛で、思わず私は足を止めてしまった。
「すみません、つい・・・・・・」
男は髪を掻きむしり、サングラスを外して頭を下げた。
「あなたがそっくりだったので・・・・・・昔好きだった消しゴムに」
「――は?」
「ああその表情、そっくり・・・・・・」
「どういう意味ですか?」
「いえいえ、もちろん、あの白くて四角いやつではありませんよ」
ふと、彼は恍惚とした目になった。
「シャープペンの後ろについている、あの消しゴムです」
そっちか! と突っ込みたい気持ちをグッと抑えて、私は微笑む。
「ゆっくり聞かせて頂けませんか、珈琲でも飲みながら」
「ええっ、いいんですか!?」
彼は目を丸くした。
その顔を見つめて私は恍惚とする。
彼の目はそっくりだった――昔、私が心から愛したゼムクリップに。



以下の企画に参加した作品です。どうぞよしなに。

『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』


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