友達未満
2020年の秋、東京。
上野の博物館の展覧会に、長谷川等伯の国宝「松林図屏風」が出品されてます。屏風に貼った和紙の上に墨の濃淡だけで霧に霞む松林が描かれていて、日本美術の最高傑作とも言われています。
墨をバサバサと殴りつけたような筆の筆致。凄まじくかっこいい。遠目には繊細な墨の濃淡で描いた風景なのに、こんな荒々しいタッチの松の枝葉があるとは知らず、初めて実物を見た瞬間、魂が震えるとはこのことかとその時の感動は今も思い出します。写真では分からないから死ぬまでに一度は見るべき絵だと思います。
唐招提寺に残る「如来形立像」は好きな仏像です。長い間に手や頭を失ってしまった奈良時代の仏像ですが、凛とした身体のラインの美しさが際立ち、完結していない彫刻的なシルエットに魅せられます。一部に欠落のある彫刻を「トルソー」とも言ったりしますが、ルーブル美術館のミロのビーナスやサモトラケのニケと同じ美しさがあります。
今年の春から夏にかけてさまざまなイベントが中止になってましたが、夏の終わりの頃から美術館も人数制限をしながら開催できるようになってきました。以前のような人だかりでろくに絵も見れなかった頃に比べると、落ち着いて見ることができて、ある意味でいい環境になったのかもしれません。
... 二人の間にも小さな秋。久しぶりに会えた週末に展覧会を見にきた二人ですが、彼は美術鑑賞よりも食事やその後のことに興味があるようで、まだ見てる彼女を置いてすたすたと先に行ってしまいます。
隣の部屋では2020年度の新規収蔵コレクションを展示していました。
タミヤの 1/24スケールキット、「キャンパスフレンズセット2」は、生身のモデルを3Dスキャンしたリアルな造形と最新の金型技術を駆使した精緻なディテールが話題になってます、しかしそれ以上に見事なのは立体的な衣服の襞を表現するために工夫されたパーツ割り。組み立て途中の姿には、どこか古代の彫刻に似た美しさがあります。試みに古びた木肌のような塗装をしてみました。
その立ち姿はきわめて美しく、ジャコメッティの彫刻作品を思わせるような気配が漂っています。美術館の静かな光のなかで彼らのささやく声に耳を傾けていると、時が過ぎていくのを忘れます。
... リアルなギターの彫刻と一緒に写真を撮ってもらうのですが、笑顔はどこかぎこちなくなってしまいます。二人の間には2メートル以上の心の距離ができてしまっているのでしょうか。
どうしたらいいのか、彼女は問い掛けます。こんな時、彼らは決まって沈黙で応えます。
私はどうしたらいいのか。もちろん彼女にも答えはありません。
ここにも一人、寂しさを抱える人がいます。いくら待っても恋人はこない。
「さっきから見てたけど.. 大丈夫?」
「ありがとう。うん、私は大丈夫.. 」
心の痛みがわかるから、お互いに言葉がなくても心は伝わります。
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