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ヨガナンダの奇跡

この家に引っ越して間もないある日、
郵便物を取りに出た隣のおばあちゃんが
「ようこそ お隣さん」と話しかけてくれた。
「ナナ(おばあちゃん)ってみんな呼ぶのよ。そう呼んでね。」
ナナとの最初の出会いだった。
彼女はもうすぐ90歳らしい。
そんな歳にはとうてい見えなかった。

ご近所さんと顔見知りになったある日、
ナナのお誕生日パーティに呼ばれた。
ナナはみんなの真ん中に座り、背筋を伸ばしてワイングラスを傾けながら
サーフィンに挑戦したのは83歳の時で、
孫娘が必死で止めようとした話なんかしながら笑っていた。

「わたし、この人たちが好きだわ。いいエネルギーだもの」
帰り際、ナナがそう言ってくれた。
エネルギーという言葉を、90歳のおばあちゃんが使っているのが
少し不思議で、嬉しかった。

ナナとわたし達はよくおしゃべりした。
ガーデンの知恵を教えあったり、お野菜を交換したり、レシピをもらったり
コスタリカ生まれのナナの作る美味しいお料理をご馳走になったりした。
そのナナがハワイ島からいなくなると知ったのは、今年の春だった。

ある時ナナが『ヨガナンダ』の名を口にしたことがある。
ちょうど、ヨガナンダのドキュメンタリーを見たすぐ後だったこともあり、なぜこんなハワイのジャングルの中で、ヨガナンダの名前を続けざまに
聞くのか不思議な気がした。
わたしの中で、ハワイとヨガナンダは全く結びつかなかった。
そのヨガナンダに実際に会っていた人が、すぐ隣にいたのだ。

そのあとずっと、ナナとヨガナンダのことが気になっていた。
もっと聞いてみたい。 ナナがいなくなる前に聞かなきゃいけない。

ナナのお別れパーティがひらかれた。
わたしはナナの隣に座り、おしゃべりの合間に言った。
「ナナ、ヨガナンダのお話をもっと聞かせて欲しいの」
ナナは頷いて、話し始めた。

「コスタリカからサンディエゴに引っ越してね、ある日、公園に行ったの。
そこで偶然ヨガナンダと出会ったのね。
彼のあの目に。
その日からわたしはヨガナンダの教会へ通い始めたのよ」

「わたしが出会った中で、忘れられない目をした人が3人いる。
ヨガナンダとエリザベステーラーと、それからロバートダウニーJR(笑)」
(エリザベステーラーの目の色は紫で、ロバートの目はクレイジーだった!と彼女は言った)

「ヨガナンダの教えは素晴らしかった。
この子達(孫娘)もよく教会の庭で遊んだものよ」
と懐かしそうに言ったあと、わたしの目を見てこう言った。

「ミカ、あなたにヨガナンダの本を貸します」
えっ? 突然の申し出に驚いた。
「ヨガナンダはこう言ったの。
”ヨガナンダの名を自分から伝えてはいけない。
しかし、わたしの名を三回言った人には話しなさい”と」
「あなたは彼の名前を三回言った。だから本を貸します」

ナナはわたしに一冊の古い本を手渡して、
サンディエゴに引っ越して行った。
よく読み込まれたページには、ところどころに線が引かれていた。

ハワイのジャングルでヨガナンダに出会った意味はなんだったのか。
その答えはこれからやってくるのかもしれない。
この話を誰かにしたら、彼女がこう言った。
”聖人はいつもそんな風に現れるのよ”



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