3番目のルームメイトはレズビアン

ある日曜日、家でひとりで勉強しているとドアベルが鳴った。玄関にでてみると、まるまると太った黒人の女子が立っていた。3番目のルームメートが来ることはリンダから知らされていた。彼女に違いない。

彼女は玄関口でにっこり笑って手を差し出すと(握手のために)自己紹介をした。

ハーイ、わたしはドーナ。来週からここに引っ越してくるの。

私レズビアンなの。

レズビアン!

本物のレズビアンに会ったのはこれが始めてだった。日本にいるときは、まわりにレズビアンはいなかった。いたのかもしれないけど、公開している人に直接会ったことはなかった。

おどろいた私は、とっさに

ハーイ、わたしはマイカ。ここに住んでるルームメートのひとりなの。私はストレート(異性愛主義者)よ。

と自己紹介した。自分をストレートと自己紹介したのはこのときが初めてだった。

ドーナはまたまたにっこり笑って、よろしくね、と言った。

そして荷物を少しだけ部屋に運んで帰って行った。

レズビアンかあ。ほんとにいるんだなあ、と思った。こんな風に思った自分がばかみたいにいまは感じるけど。

サンフランシスコはゲイが多い町として世界的に有名だ。サンフランシスコにあるカストロ地区はゲイのエリアであちこちにゲイプライドのレインボーフラッグがはためいている。カストロにいくと、手をつないだり、肩を組んであるいているゲイやレズビアンのカップルがあちらこちらに歩いている。男女のカップルのほうが圧倒的にすくない。

全米の大きな都市であれば、ゲイやレズビアンであることを公にする人は少なくない。ゲイを早くから受け入れてきたサンフランシスコエリアであればなおさらだ。

シリコンバレーにオフィスがある私が勤めている会社でもゲイであることを公にしている人が数人いる。オフィスでは男子2人で写っている写真をかざり、パートナーの話を普通にする。ストレートが奥さんや夫や子供の写真を飾り彼らとのエピソードを語るのと同じことだ。

ただし、ゲイカップルが子供をもつのは簡単ではないので(もちろん可能だけれど)、子供のかわりに犬や猫を飼う人は多い。私の同僚もパートナーとワンコが一緒に写っている家族写真を飾っていた。ゲイであることはあたりまえのように受け入れられている(少なくともそのように見える)。

サンフランシスコがゲイの街ということは引っ越してくるまで知らなかった。それくらいゲイコミュニティーへの知識がなかったのだ。たまたまだけどゲイやレズビアン、またはバイセクシュアルやトランスジェンダーが認められているところに来てほんとうに良かったと思っている。

翌週、ドーナが山のような荷物とともに引っ越してきた。彼女は心理学の大学院に通っていて心理学者(サイコロジスト)になることを目指していた。

ドーナが加わることによって、リンダのタウンハウスのすべてのベットルームは満室になった。そしてがらんとしてさみしい感じの家が、いっきににぎやかになった。

3人のアメリカ女子と2匹の猫と2匹の犬のシェアハウス生活を通じてアメリカのいろいろなこと学んだ。あのまま大学寮に住んでいたら知ることはなかっただろうな、と思うことばかりだ。シェアハウスに移ってよかった。

1995年の秋、わたしのアメリカ生活はすごくいい感じのスタートを切った。





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