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あっさりと見ず知らずの外国人を受け入れるアメリカ人のふところの広さにおどろく

日曜日の午後、バスを2本乗り継いで指定された住所へ向かった。学校のあるオークランドの丘の上からまっすぐ海のほうへむかって下りていく。車だったら30分もかからない距離だったけど、バスはぐるぐるとあちこちを回るので1時間以上かかった。

ルームメートを募集していた主の家は、きれいに区画された住宅地の中にあった。アメリカの郊外にありがちなきちんと手入れされた街路樹と、似たような家がずらりと並んでいた。タウンハウスと呼ばれる長屋で2階建ての一軒家のようだが両隣の家と壁を共有している。

グーグルマップがなくても、アメリカで住所を頼りに家をみつけるのは簡単だ。どんなに短い通りでもかならず名前がついていて、たいてい家の前の歩道には番地が記載されている。これは救急車などの緊急車両がすぐに家を見つけられるように設定されたものだった。

主から教えてもらった番地の家を見つけて、ドアベルを鳴らす。すぐにドアが開き、背の高い中年の白人女性がにっこり微笑んだ。

ハロー、わたしはリンダ。中へどうぞ。

とすぐに家のなかに招き入れてくれた。

リンダは背が高いだけではなく、全体的に大きな人だった。ぶよぶよ太っているわけではないが、骨太でとにかくでっかい。少なくとも180センチはありそうで、”おおおんな”ということばがぴったりなかんじだった。

自分は看護婦で近所の病院に勤めている、最近ルームメートたちが引っ越してしまったので、新しいルームメートを募集しているのだ、と説明した。

私は日本から来た留学生で英語を勉強していること、学生寮はうるさすぎるので静かに勉強できる部屋を探している、と伝えた。

電話ではなく面と向かっての会話だと聞き取りやすいし伝えやすい。コミュニケーションがとれたことがうれしかった。

簡単な自己紹介が終わると、リンダは家の中を案内してくれた。

リンダのタウンハウスは1階にリビングルーム、キッチンとダイニングルーム。トイレとランドリールームを兼ねた倉庫があった。そして2階にはベットルームが4つとバスタブ付のバスルームが2つあった。

部屋は全体に長細く、リビングからバックヤードと呼ばれる裏庭にでることができる。裏庭にはテラスとジャクジー(外で入る泡風呂)があり、裏庭の先は屋根付ガレージになっていた。

2階に上がると細長い廊下を抜けて奥の部屋へ進む。10畳くらいのサイズで、鏡のはまったクローゼットがついていた。窓からは裏庭を見下ろすことができる。

リンダが、この部屋でどうかしら?と言った。

へ?どうかしらって、もう決まっちゃったのかな?自己紹介もそこそこなんだけどな。

パスポートとか免許書とか身元を証明するものはいらないの?と私は聞いた。

リンダは、そんなのはいらないわ、信用しているから。あなたさえ気に入ってくれればいつから住んでくれてもいいわよ、とあっさりと返答した。

どういうわけだか信用されたらしい。留学生だったからなのかもしれないし、おとなしそうで悪いことはしなさそうなアジア人に見えたのかもしれない。

どちらにしても、見ず知らずの他人、しかも外国人をさっくりと受け入れる寛容性。アメリカ人ってすごいなと思った。

お茶とかで家に招くにならまだしも、住人として自分の家の部屋を貸そうとしているのだ。キッチンとかリビングルームとかを共有するし、ほぼ毎日顔を合わせることになる。日本だったら、ありえるのだろうか?

びっくりしたが、ありがたくオファーを受けることにした。これで晴れて学生寮から脱出できるんだ。1週間後の週末に引っ越すことを約束して、リンダの家をあとにした。

驚くべきスビート引越しとなった。




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