増田セバスチャンの 目からオーラを出す目利き術
増田セバスチャンのマネージャー/チーフアシスタントのキタムラです。作品制作の裏話や、進行中の企画のメイキングなど、増田セバスチャンの目線を皆様にもおすそ分けできればと思います。
増田セバスチャンのSNSに定期的にアップされる「買い出し」の写真。増田セバスチャン作品は、絵の具ではなく世界中に既に存在するマテリアルを使って描くことが多いので、実はこれは「画材探し」の写真でもあります。
海外に行くと増田セバスチャンは現地の方にこう聞きます。
「市場はどこにありますか?」
新鮮で美味しいものが食べられる市場のことではありません。
玩具市場、生地市場…つまり問屋街のことです。
国によっては、人に聞かずに「この近くにありそうだな…」というベテラン刑事のようなセリフで問屋街を探しあてることもあります。
今の増田セバスチャンの肩書きはアーティストやアートディレクターですが、1995年に6%DOKIDOKIというカラフルな雑貨や服飾が大量に陳列するとんでもない店(今やKAWAIIの聖地)を若干25歳で開いています。そこから数年間は、店のオーナーでありバイヤーという肩書きの方が近かったと思います。
色々な国から"ヘンなもの"(私も客の1人だったので愛を込めてそう呼びます)を仕入れ、原宿キッズから絶大な人気を集めていたその時の経験と目利きの力が、今の作品作りに生かされているわけです。
「6%DOKIDOKI PERFECT MOOK」に掲載したカタログページでは、当時の商品を少しだけ見ることができます。馬のピストルだから「馬(バ)キューン」など、ネーミングセンスは本人が敬愛する藤子F先生の影響も見て取れますね。
数年前に「これは僕の大切なものだから」と教えられ、作品に埋められずアトリエで大事に飾られているこのコンセントも当時どこかの国で出会ったものでしょう。
さて、増田セバスチャンは問屋街にたどり着くと、とりあえずいくつかの道を歩いて、フムフムと何かを考え始めます。
「ポンポンは…この先だな」
「あの2階に多分ファー売り場がある」
「この乾物エリアを抜けたらもう1回玩具街がありそう」
初めて買い出しに同行した時は、本当に言っている意味がわからなくて「?」と思いながら付いていくしかなかったのですが、大体このセリフの後に実際にお目当ての売り場が出てくるので、毎回驚いていました。(もう慣れました)
これだけでも面白いのですが、真骨頂はその「目利き力」です。
問屋街や市場に行けば誰でも珍しいものやヘンなものに出逢えるわけではありません。本人が「ごみの山から宝石を見つけるような作業」という通り、売っている9割が要らないもの(他の国でも買えそうなもの、見たことあるもの)なのです。日没までに、大型デパート20個分くらいの生地エリアを一気に回ったり、3kmくらい続く問屋街ストリートを行ったり来たりしながら探すので、目だけで情報処理をすることが必要です。イメージ的には、このエリアに欲しいものがありそう!と思った時に、目にグッと力を溜め、オーラをまとい照準を合わせて、新鮮な獲物を取り押さえるような感覚です。体感はほぼ狩猟。そうやって見つけたアイテムは作品のために大量購入し、2トン分のマテリアルを輸入したこともあります。
ただこのオーラ目には難点があって…当たり前なんですが、数時間すると目が曇ってくるんです。集中力とかドライアイとかホコリとか色々原因があると思うのですが、徐々に良い物が探せなくなってきます。そのため、買い出しにオーラ目を会得したスタッフが同行する時は、オーラ目は自然と当番制になり、目が曇った方が「後は任せた!」と後退してもう1人が先頭に立つことで、買い出しを効率化していくことになっています。(そんなアーティスト他にいるんでしょうか…)
作品に使うマテリアルを探しているはずが、昔の6%DOKIDOKIで売ってそうなモンド系オモチャに焦点があってしまって、持ち帰ることもあります。これは電源を入れると目やトサカが光り、音楽が流れて背中のメリーゴーランドが回る鶏です。こういうものは大抵部屋系の仕事で紛れ込んでいます。
時にはオーラ目フォーメーションにも限界がきて、パーティが全滅することもあります。そうなったら、もう「甘いものタイム」です。体も頭も酷使する買い出し時の糖分への信頼力は絶大です。結構すぐに回復し、オーラ目も復活します。そしてどうにかホテルに辿りついたあと、パンパンになった足腰のマッサージに行って次の日に備えれば、完璧です。
こんな日々が大体4、5日続くのが増田セバスチャンの買い出しです。
初日は「これ可愛い!」とか「個人的に欲しいな」とかも思っているのですが、莫大な商品数による情報過多により、最終日には物欲がゼロになるのが常です。
時々、「〇〇の国だとどこに買い出しに行くんですか?」と聞かれることがあると、できれば教えたくないな…とも思ってしまうのですが、最近は、同じ場所に行ったところで誰も増田セバスチャンと同じような買い出しはできないんだろうなとも思うようになりました。買い出しはほぼ戦いなので…少し前だったらクレイジージャーニーで「KAWAIIを追い求める男」的に取り上げてもらっても遜色なかったはず。
こうして、増田セバスチャンはアメリカ、フランス、イギリス、オランダ、韓国、中国、タイなどなど、世界中行く先々でマテリアルを集め、再構成して新しい色を作り出しています。
若い頃に得た経験値、磨き上げた目利き力、異常な追求力がベースとなって生まれる作品たち。美大を出てアーティスト街道をひた走る王道に比べると、一見寄り道のようにも感じるキャリアを積んだことで、増田セバスチャンの唯一無二のストーリーと武器が生まれました。人とは違う道を耕してきたからこそ、アート、エンタメ、ファッションという様々な領域を横断できる今がある訳ですよね。
そんなことを実感するたびに、「人生で無駄なことなんてないんだなー!」と、本気で思います。
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