見出し画像

体を休めるピクニック

つい最近、「ひとりピクニック」にピッタリの場所を見つけた。

どうやらそこは、楽しむのではなく、休む場所らしい。「体を休めるピクニック」という看板の文字が脳から離れなかった私は、相当疲れているのだろう。

そこにはいくつかのスペースがあり、全国から人が集まるそうだ。

ソロキャンプなどの「1人アウトドア」に興味があった私は、休日を使ってそこへ行くことにした。


とりあえず、ブルーシートと弁当とマグカップだけ用意した。車内で英単語を聴き流ししながら向かっていると、大きな建物が見えた。

どうやら、ピクニック場では珍しく、屋内アクティビティであった。「ピクニックは外の開放感が良いのに」とは思ったが、せっかく来たのでとりあえず中に入ってみることにした。


受付で名前を言うと、

「ありがとうございます。ご予約は?」

「あ、してないんですけど、大丈夫ですか?」

「はい、ではあちらの部屋へお願いします。」

と、やや冷たい対応で部屋に案内された。


部屋に入ると、そこには白衣を着たおじいさんと看護師のような女性がいた。あれ?私ピクニックに来たよな?と頭がグルグルしているうちに、彼らは私の体のあちこちを診断した。

一通り診断した後、

「以上で診断を終了します。お疲れ様でした。」

(あ、やっぱり診断だったんだ)

「では、こちらの札を持って受付へお願いします。」


渡された札には「脳」とだけ書かれていた。

意味がわからなかったが、とりあえず受付に渡した。

「ありがとうございます。では、あちらのエレベータから5階へどうぞ。」

「あ、あの。ここってピクニック場ですよね?」

「……あ、お客さま初めてですか?」

「え、あ、はい。」

「そうでしたか、すみません。てっきり何度も来られているのかと。」

「?」

「確かにピクニック場で間違いありません。ただ、他と違う点がありまして、それはお客さまの体の調子を見て、回復効果が最もある場所にご案内するという点です。」

「は、はあ。」

「たとえば耳が悪いお客さまには環境音楽などの耳に良い音楽が流れるピクニック場、体全体が悪いお客さまには太陽光を存分に浴びれるピクニック場、といった感じです。」

「なんだか変わってますね。え、じゃあ、私は脳が疲れてるってことなんですか?」

「はい、そうです。あ、お荷物は何もいりませんよ。お預かりしておきます。」

「え、そうですか。わかりました。」


荷物を全て渡して、5階へ向かった。エレベータの案内を見ても、「脳から休まるピクニック場」としか書いていなかった。

5階に着き、扉が開くと、


そこは、ただの真っ暗な空間だった。


中に入ってみると、床は芝生で、空気がほのかに暖かい。他のお客さんはほぼ全員寝転がっており、いびきをかいて寝ている人もいた。

良質な音楽も匂いもない。私の五感を全くしないその「ピクニック場」は、なぜだか、すごく心地がよかった。

体より先に、脳が「そこで横になれ」と命令しているような気がして、私はその有象無象の一人になった。


どれほど時間が経ったのだろう。横のお客さんに「時間だよ。」と言われ、ようやく起き上がることができた。

屋内ピクニック施設を出ると、もうすっかり夕方だった。

お腹が空いていたため、車の中で冷め切った弁当を食べた。なんで、あんなに美味しかったのだろう。

ものの10分で食べきり、そのまま帰路についた。


帰り道、日課にしていた英単語の聴き流しは、やらなかった。だって、今日は休日だもの。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?