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夏至の前日にママチャリを卒業した話し

「ねぇ?そろそろママの自転車の後ろ卒業する?」

夕飯の支度をしながら何となく次男に聞いてみた。長男が誕生日に自転車を新調したので、7歳の次男は長男が使っていた自転車を乗ることを楽しみにしていた。

クラスで1番背が高い次男は、日に日に成長していく。ママチャリに乗せるとバランスを崩しそうになることも増えてきたし、今がママチャリを卒業するいいタイミングだと思った。

「えー?どうしよっかなー?」

漫画を読みながら次男が答える。

「もう大きくなってきたし、自分で運転する方が楽しいでしょ?」

万が一の時は車の送迎ができるし、そうなるとママチャリの出番は無くなるので処分しようと思っていた。
最近は次男を乗せて自転車で移動するのは、ピアノの送迎くらいだ。
来週のピアノの送迎が最後かなぁ…そんなことを考えていた。

翌週の次男のピアノのレッスンの日。突き抜けるような晴れた日だった。

「今日でママの自転車に乗るのも最後だねー!」

自転車を走らせながら、後ろに乗る次男に話しかけた。自転車に乗りながら話すときは、聞こえづらいから自然と声が大きくなってしまう。

「えーもうちょっとママの後ろに乗りたいなぁ」

次男が言った。

その一言で私の頭の中を次男と過ごした日々がフラッシュバックのように流れた。
あぁ…なんて時が過ぎるのは早いんだろう。次男は2人目ということもあり長男の用事に付き合わせることも多く、余計にあっという間に成長してしまった気がする。それとも私がちゃんと成長を噛み締めてなかったのか…。

ピアノのレッスンが終わり、次男をママチャリの後ろに乗せ、少し遠回りで帰る。夕方になり、空がオレンジとピンクのグラデーションに彩られていた。あまりに綺麗だったので途中にある公園に寄り、ブランコに乗った。

「空が絵の具混ぜたみたいになってるね」

次男がブランコを立ち漕ぎしながら話してきた。ふと時計を見ると19時近い。そういえば明日は夏至だってテレビで言ってたな。ピンクの空間が紫に変わるころ、他愛もない話をしながらママチャリを漕いで家に帰った。


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あれが、最後の二人乗りの日だった。
ママチャリを惜しんでいた次男は楽しそうに自分の自転車に乗っている。
私は……いまだにママチャリを処分できずにいる。
自分から持ちかけた話なのに、子どもたちとの日々がどれほど大切であっという間か改めて思い知らされた。セミの声がいつの間にか聞こえなくなるように、いつの間にか手を離れていきそうだ。

夏休みもあと少し。今この瞬間を大切にしたい。




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