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笹舟さらさら

「夏の匂いがする」

玄関を開けて外に出た瞬間、思い出したのは子どもの頃の何でもない光景。
朝でも夜でもない。陽が傾き始めるくらいの時間帯。夏だからまだまだ外は明るくて、いつもより遅くまで遊んでたと思う。

家の庭には笹があって、夏になると鬱蒼と茂っていたから「夏の匂い」の一部はきっと笹だったのかもしれない。

小学生の頃には笹舟をよく作った。姉や弟、従姉妹や友だち、みんなで作っては近くの用水路に流して遊んでた。時々、誰かが「こうやったらよく流れる」なんて得意げにオリジナルの作り方を披露するのだけど、笹舟にそこまでの違いなんて生み出せることもなく、結局みんな同じになるんだよね。

特別なことは何もない。でも、必ず浮かんでくれる。

笹舟を浮かべるとき、そこには父も母もおじいちゃんおばあちゃんも一緒にいる。正確に言えば、その光景を思い浮かべる時にはみんな近くにいる感じがある。実際は仕事してたり晩ご飯の準備してたりで、多分そこにはいなかったはずだけど。

父も母もおじいちゃんおばあちゃんも。みんなそれぞれ笹舟の作り方を教えてくれたからかな。結局そんな違いなんてないのに。でも、みんなそれぞれの笹舟があるんだよね。

おじいちゃんはもう笹舟に乗っていってしまった。でも、みんなはこっちでまだ笹の葉で遊んでいる途中です。きっと順番にそっちへ行くのかな。

悲しくないのに涙が出そうな感じ。
それを思い出と呼び、その思い出に変わる日常があることを幸せという。

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