夏の音
どどどど、とお腹の底を揺るがすような音がした。
雷だ。雨が降る。
そう思って反射的に顔を上げたら、先生がにっこり笑って「花火ですよ」と言った。
そうか、今日は花火大会だった。
帰ったらすぐ花火を見られるように、浴衣に半幅帯を結んでお茶の稽古に来たのだ。
透明な寒天の中に夏もみじを閉じこめたお菓子をいただきながら、花火の音をBGMに抹茶をいただくなんて、最高の夏の贅沢!
♪
今週は暑さのせいかずっと体調がすぐれず、連動して気持ちも低空飛行だったのだけど、お点前をしながら「あ、抜けたな」と分かった。
想いと手の動きが、ちゃんと繋がっている。
身体が心をサポートし、心が身体を支えている。
稽古を終えて、花火の音を聞きながら家路を急ぐ。
道行く人たちも皆、音の方へ首を伸ばしている。
ただいまーと玄関を開けて、草履を脱ぐのももどかしく家へ入ると、子どもたちが「お母さん、花火見るでしょ!」と手を引っ張ってベランダに連れていってくれた。
ベランダには、夫が明るいうちにビニールシートを敷き、ベンチを出して特等席をこしらえてくれていた。
体調が戻ったばかりなのでビールは我慢して、梅ジュースを飲み焼き鳥をかじりながら浴衣で花火を見る。至福。
花火を見ている時間も、もちろん幸せだったけど、音を聞きながら家族の待つ家へ向かう時間のワクワクが、心身をどんどん元気にしてくれるのをはっきりと感じた。
花火の音に心はやる、ときめく気持ちを、そんなもの役に立たないと捨ててしまわず、「すぐに使わなくても大切なものだから」と、いつでも取り出せるようそっと引き出しにしまったいつかの自分に、声に出さずありがとうを伝えた夏の夜。
読んでいただきありがとうございます! ほっとひと息つけるお茶のような文章を目指しています。 よかったら、またお越しくださいね。