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和×現代×学園ファンタジーの傑作〜荻原規子『RDGレッドデータガール』

和×現代×学園ファンタジーの傑作〜荻原規子『RDGレッドデータガール』

夜が長くなると、大好きな小説を読み返したくなります。

荻原規子『RDGレッドデータガール』(角川書店)は、もう何度読んだかわからない、和風ファンタジーの傑作です。

主人公は、熊野古道の神社で生まれ育った引っ込み思案の女の子、泉水子(いずみこ)。
実は秘められた力を持つ彼女が、謎の多い高校で学園生活を送ることになり……という設定だけで、もう白ごはんが3杯くらい食べられるのですが、泉水子の脇をかた

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みずみずしく美しい、極上の青春小説(『アリとダンテ、宇宙の秘密を発見する』を読んで)

みずみずしく美しい、極上の青春小説(『アリとダンテ、宇宙の秘密を発見する』を読んで)

上の子どもが12歳になり、大人向けの本も共有できるようになりました。
「この小説、読んでみて!すごく面白かったから」なんておすすめし合えるのは、うれしいものです。

『アリとダンテ、宇宙の秘密を発見する』(ベンジャミン・アリーレ・サエンス著、 川副 智子訳、小学館)も、そんなふうにして出会った1冊。

アメリカのYA(ヤングアダルト)小説で、きっと自分だけの目線では手にとらなかったと思います。

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三十一音の道しるべ〜桑原亮子『トビウオが飛ぶとき』の世界へ

三十一音の道しるべ〜桑原亮子『トビウオが飛ぶとき』の世界へ

家庭内夏風邪リレー。私がアンカーとなり、久しぶりに熱を出しました。
熱が上がるにつれ、文章が書けなくなり、文字がたくさんある本も読めなくなり、最後に手にとったのが桑原亮子さんの歌集『トビウオが飛ぶとき』

桑原さんはNHKの連続テレビ小説『舞いあがれ!』の脚本家であり、歌人でもある方です。
このアンソロジーでは、歌人の貴司くんをはじめとする、登場人物たちの詩歌を楽しむことができます。

短歌が物語

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静寂の庭ー内なる風景との対話

静寂の庭ー内なる風景との対話

いつからだろう。

心の中に、風景を置くようになった。

緊張したとき、動揺したとき、お風呂に入るとき、眠りに落ちる直前。
目を閉じて、自分の意識をありんこみたいに小さく小さくして、心の奥の、一番深いところに潜っていく。

そこには私しか知らない、緑豊かな秘密基地みたいな場所が広がっている。

基地の景色は、時期によって少しずつ違う。

あるときは、青い森。こんこんと湧き出る泉があって、白い馬がい

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寒い夜には1杯のヴァン・ショー〜近藤史恵「ビストロ・パ・マル」シリーズより

寒い夜には1杯のヴァン・ショー〜近藤史恵「ビストロ・パ・マル」シリーズより

あけまして、おめでとうございます。

いま、どんな場所で新しい年を迎えていますか?

私は帰省や旅行の予定もなく、家族で散歩をしたり、料理を作ったりして、のんびり過ごしています。

年末から、近藤史恵さんの「ビストロ・パ・マル」シリーズにはまっています。
西島秀俊さん主演のドラマ「シェフは名探偵」の原作。
下町の小さなビストロを舞台に、さまざまな味つけのストーリーが展開される極上の短編集です。

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鳥は「神様の箸休め」〜三宮麻由子『鳥が教えてくれた空』より

鳥は「神様の箸休め」〜三宮麻由子『鳥が教えてくれた空』より

近所の公園に、「すずめのなる木」があります。

5メートルくらい手前から、文字通りかまびすしく鳴き交わす声が聞こえてきて、近づいていくと、枝がしなるほどびっしり、鈴なりになっています。

いったいどうしてこんなにたくさん…とふしぎに思っていたある朝、おばあさんが木の下で米粒をまいているところに出会いました。

親のすずめも子すずめも、首をかしげて一生けんめいついばんでいます。

お米が好きだから、

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「すべてには時がある」眠れない夜のための大切な1冊

「すべてには時がある」眠れない夜のための大切な1冊

あたたかくなったり、少し寒くなったり、行きつ戻りつの毎日。

私が住んでいるところでは、ここ数日、住んでいる集合住宅の周りに植木屋さんが来て、剪定作業をしています。

駐車場の一角にある桜の木も、細かい枝をばっさり落としました。

ずいぶんさっぱりしたなあと見上げつつ帰宅して、階段の下を見たら、桜のほそい枝がふんわりと積んであります。

近づいて見ると、色づきはじめた蕾があちこちに。

水に挿して

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1枚の絵が、人生を変えることがある

1枚の絵が、人生を変えることがある

暦の上では、もうすぐ春。

とはいえまだきびしい寒さが続きますね。

お元気ですか。緊張がつづいて心が疲れたり、していませんか。

心配事があったり、頭でぐるぐる考えて煮詰まってしまったとき、私はよく美術館へ行きます。

しんと静かな場所で、言葉をもたない絵や彫刻と向き合うと、ぎゅっと縮こまっていた心にすき間ができて、深く息が吸えるようになります。

好きな絵の前に立つと、「ただいま」と言いたいよ

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天才たちの共通点

天才たちの共通点

紅葉が美しい季節になりました。
散歩に出かけると、色とりどりの葉っぱに目を奪われて、そのたびに立ち止まるのでちっとも前に進みません。

秋は、あちこちの美術館や博物館で魅力的な展覧会がひらかれる季節でもあります。
先日、上野にある東京国立博物館に行きました。素敵なミュージアムショップがあるのですが、そこで異色の本に出会ったんです。

作家の二宮敦人さんが書いた『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオ

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谷中でよりみち〜雑貨と本gururiさんへ行きました

谷中でよりみち〜雑貨と本gururiさんへ行きました

この世界には、本に魔法をかけることのできる書店が、存在します。

その店の棚に並んでいる本たちは、本来の魅力を引き出されて、とても居心地よさそう。静かに鎮座している本がいれば、隣の本とかまびすしくお喋りしている本もいる。

本を必要とする読み手があらわれると、背表紙がぴっかり光って、そのときが来たことを教えてくれる。

谷中の雑貨と本のお店gururiも、そんな魔法の店でした。

ずっと行きたかっ

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いつもと違う場所、違う時間の流れの中で気づくこと

いつもと違う場所、違う時間の流れの中で気づくこと

先日、鎌倉へ行ってきました。

むかし何度か訪ねたことがあるのですが、ゆっくり滞在するのは、おそらく20年ぶりくらいだったと思います。

江ノ電に乗って、てくてく歩いてわかったのですが、鎌倉という街は、海と山がとても近いんですね。

海ではサーフィンやヨットを楽しむ人が、山のほうでは犬を連れた地元の人がのんびり時間を過ごしていて、いいところだなあと思いました。

あてもなく歩きながら、無意識に「5

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月曜日のことば〜永瀬清子さんのちゃぶだい

月曜日のことば〜永瀬清子さんのちゃぶだい

月曜の朝は大変。

週末、子どもたちが家の中で遊んだあとのブロックや、折り紙で作った飾りや、何だかわからない切れ端などもあちこちに落ちている。それらをひとつずつ拾いあつめて、掃除機をかける。

ようやくきれいになった部屋で、さあ仕事をはじめようというときに思い出すのが、谷川俊太郎さんの詩「永瀬清子さんのちゃぶだい」(新潮社『夜のミッキー・マウス』収録)。

永瀬清子さんは、農業のかたわら詩を作りつ

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3年に一度の出会い〜小津夜景『いつかたこぶねになる日』

3年に一度の出会い〜小津夜景『いつかたこぶねになる日』

先ほど読みはじめた小津夜景『いつかたこぶねになる日』(素粒社)があまりにも素晴らしく、ふるえている。

タコの話に始まり、『海からの贈り物』へと自然にスライドし、ふいにあらわれた漢詩とその見事な翻訳にノックアウトされて、冒頭の18ページで呆然と立ち尽くしているのが今の状態。

なんだ、このすごい本は。

朝露の粒を集めて編んだような、信じられないほど純度の高い言葉がすーっと沁み込んできて、1行ごと

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本は、世界への切符〜『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』を読んで

本は、世界への切符〜『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』を読んで

この夏は、北イタリアに旅をしていた。

ボローニャの西、トスカーナ州の山の中にある「モンテレッジォ」という小さな村だ。

この旅には、航空券もパスポートもいらない。

必要なのは心のゆとりと、美味しいお茶。ひとさじの想像力。それに座り心地のいい椅子があれば、最高!

空間を自由に移動できないとき、地球の反対側、場合によっては宇宙までも旅ができる方法を、私たちの偉大な祖先たちは工夫して編み出し、大切

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