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バックキャストによる目指す姿の具体化

過去2回に亘って、未来を見立てる補助線について共有してきた。今回は、未来を見立てて、どのように各事業・組織のビジョンや方針に落とし込んでいくのかというプロセスを解説していきたいと思う。

1. 未来を見立てるプロセスとは?

未来を見立てて、バックキャストし、事業のビジョンや方針に落とし込む方法は様々あるだろうけども、私なりのステップは大きく6つに分解される(下図参照)。以前、共有したnote(未来を見立てる補助線①②)と重複する箇所はあるけども、改めて一から解説していきたいと思う。

未来を見立てる全体像

2. 材料となるテクノロジー/概念を抽出する

テクノロジーや概念が世の中を大きく変えていくことは間違いないので、まず各領域でどのように進展していくことが計画・想定されているのかという材料を収集する。

領域としては、通信/IT/ロボティクスなどの基盤技術、社会インフラ、交通、消防・防災、環境・エネルギー、医療、教育、行政手続き、物流など(下図参照)。その上で、事業への影響度や複数領域への影響度がありそうなテクノロジー/概念を抽出する(20~30個)。

テクノロジーの進展仮説①

テクノロジーの進展仮説②

テクノロジーの進展仮説③

3. 材料となる社会変化仮説を抽出する

社会変化仮説と聞くと難しく聞こえるかもしれないが、社会課題や社会全体のニーズだと思えばいい。このままいくと確実に発生するだろう社会課題屋ニーズはある程度予測がつくものであり、様々な専門家が未来予測を出しているので、様々な情報ソースから材料を収集して、整理していく(下図参照)。

例えば、日本の人口動態、財政、社会(インフラ)、移動・買物、自然災害、医療・介護、食、経済・産業、生活・働き方など。それぞれの予測を整理して、重要なものを抽出しておく(20~30個)。ここでも自分達の事業や複数領域に影響を与えそうなものを抽出しておくといいだろう。

社会変化の仮説①

社会変化の仮説②

4. 掛け合わせによる未来像のアイデア出し

社会変化の仮説に対して、テクノロジー/概念を掛け合わせて、未来像のアイデア出しを行う。なぜ掛け合わせるのかというと理由は2つ。一つは、課題やニーズは、テクノロジー/概念によって解決されていくだろうから。二つ目は、ビジネス=課題の解決なので、掛け合わせて未来を見立てることにより、事業機会の発見に繋がるから。

ここでの議論のポイントは、ランダムにアイデア出しをするのではなく(発散し過ぎるので)、社会変化の仮説の塊り毎にアイデアを出していくこと。また、解決できないだろう社会変化は無視しておく。日本財政の問題などに引っ張られて、他の議論ができなくなってしまう可能性があるので。

掛け合わせによるアイデア出し

5. 2040年頃の未来像を描き、2030年の未来像を導く

掛け合わせによりアイデアが出てきたら、それを領域毎に括ってみて、その上で未来像を描写する(下図参照)。単なる言葉の羅列よりも、実際に絵に描いてみることで、共通認識が図れたり、追加のアイデアが出てくるので、絵を描くというのは極めて重要である。

そして、2040年頃の未来像からバックキャストを行い、2030年頃には何が実現できているのか、何が実現できていないのかを検討する。実現の有無の判断に困れば、追加の情報収集を行うといいだろう。

実際に掛け合わせによるアイデア出しをした時には、88個のアイデアが出てきて、8領域に分類し、領域毎に未来像を描写していった。

未来像を描く

6. 未来像から事業機会を抽出し、注力領域を絞り込む

各領域の未来像から、「自分達の事業機会になるかもしれない」というものを抽出していく。ここでは実現可能性や儲かる・儲からないなどは一旦脇に置いて、事業機会の抽出にフォーカスを充てる。

その上で、注力領域を絞り込む。絞り込み方は色々あるだろうが、私は顧客のニーズが大きいか・小さいか自分達の使命感が高い・低いかで絞り込むのがいいんだろうと思う(下図参照)。特に自分達が使命感を感じて、やりたいと思うかどうかという軸は入れておいた方がいい。新規事業にしろ、既存事業にしろ、なんだかんだ言って、重要なのは使命感を持ってやれるかどうかだから。

事業領域の抽出

7. 注力領域を踏まえ、目指す姿を具体化する

注力領域を絞り込んだら、それらを通じて、何を目指すのかを具体化していく。「〇〇のNo.1になる」というような目指す姿ではなく、どんな世界に創りたいかというメッセージ性のあるビジョンの方が望ましい。理由は、創りたい世界・社会が明確に描かれていた方が、あらゆる意思決定や行動の指針(背骨)になるし、従業員を鼓舞することにも繋がるから。

実際に、優良企業や働きがいのある企業群のビジョンを見てみると、どんな世界・社会を創りたいのかを掲げている(下図参照)。

ビジョン

ビジョンが固まったら、そのために事業として何をしていくべきか(維持すること、強化すること、新たに始めること)を具体化していく。そして、事業を支える組織(体制・仕組み・ルール等)として何を変えるべきか(強化すること、新たなに創ること)を具体化していく。

目指す姿

その上で、それぞれの事業方針をもっと具体化していく必要があるだろうし、競合他社との差別化ポイントも整理していく必要がある。そして、その実現に向けたアクションや目指すべき数値目標などにも落し込んでいく必要がある。さらに、それらを誰がどのようにフォロアップしていくのかというマネジメント方法も確立していく必要があるだろう。

8. 総括

未来を見立てて、事業のビジョンや方針に落とし込む時のプロセスを解説してきたが、実施する上でのポイントが幾つかあるので、最後に共有したいと思う。

①2030年より先の未来を描く:近未来すぎると現在の延長線上で考えてしまいがちなので、10年よりちょっと先を描いた方がいい。

②自分達の領域のみで未来像を予測しない:事業の機会は意外のところに転がっているし、領域と領域との狭間にあることもある。なので、最初は自分達の領域のみで検討しない方がいい。

③事業機会の抽出は自前主義で考えずに、できる・できないで発想しない:事業機会を抽出しても、「できない」の議論になってしまいがちなので、自前主義前提で考えずに、自分達でできないならパートナーと組むことを前提で検討する。

④経営幹部だけでなく、若手を交えて議論し、若手が意見しやすい環境を整える:アイデアは立場の異なる人達が議論することで生まれやすいので、いつもの経営幹部だけではなく、普段議論をしない若手等を含めて、議論するのは効果的だろうと思う。但し、若手が意見をしやすい環境創りをすることが必要(グランドルールを設定する、経営幹部が敢えて変な意見を出すなど)。

⑤既存の中期経営計画とのGapを意識しながら検討する:既存の中期経営計画と同じものにならないようにGapを意識しながら、「これだと今の中計と同じだから、何か挑戦しようよ」というような議論をしていくことも必要だろうと思う。

⑥オンラインで議論する場合には顔出し・重なり発言OKを前提とする:オンラインで顔出しをしないことが当たり前の文化になっている企業もあるようだが、私は反対である。なぜなら、議論は相手の顔を見ながら進めた方が明らかに効果的だから。相手の表情から読み取れる情報は言葉(声)以上に多い。本来であれば、リアルに会って議論すべきだけども、それができない今はせめて「顔出し」はするべきだと思う。家庭事情や通信環境の問題もあるだろうが、顔出しできる環境を整えることもプロとして当たり前ではないかと私は思う。

過去のnoteのリンクはこちら。セットでご参照ください。


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