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映画館の再開後に見たい1本『ミッドサマー』

再開後にもう一度

 映画館が再開したときにはこの映画を見たい!という作品を勝手にご紹介していこうというこのシリーズ、3回目の今日は『ミッドサマー』です。アンタもう何度か見たでしょうよ?と言われそうですが、映画館が再開したときには、きっとまだ上映が続いていると思うので、もう一度見に行きたいな、と。

映画『ミッドサマー』公式サイト
https://www.phantom-film.com/midsommar/

監督:アリ・アスター
主演:フローレンス・ピュー
   ジャック・レイナー
   ウィル・ポールター

 『ミッドサマー』は、2月21日に通常版が公開された後、3月13日にディレクターズカット版が公開されました。劇場によって、通常版を上映しているところ、ディレクターズカット版を上映しているところ、両方を上映しているところ、といろいろでした。そして、公開から1か月強の時点で映画館が休館に入ったため、この作品が営業再開時の上映ラインナップに入っているところは多いようです。

 私は通常版とディレクターズカット版の両方ともすでに見ているのですが、もう一度見に行きたいなと思っています。なんというんですかね…クセになる感じの映画です。

フェスティバル・スリラー

 『ミッドサマー』は、悲劇に見舞われたこともあって精神的な不安定さを抱える主人公の女性が、彼氏と彼氏の大学の友人連中とスウェーデンの90年に一度の祝祭を訪れ、そこで遭遇する出来事が描かれるフィクションです。スウェーデンで夏至祭なるものは実在するようですが、映画で描かれる祝祭は、あくまでもフィクションのようです。

 『ミッドサマー』は、監督が言ったのか誰が言ったのか知りませんが、「フェスティバル・スリラー」と言われていて、明るい太陽のもとで恐ろしいような恐ろしくないような物語が展開します。これが私にとってはなんともゾクゾクする面白さなのですが、おそらく人によっては見るに堪えない場合もあるだろうな、と思います。説明しにくいのですが、精神的に追い込まれるようなところがあります。

アリ・アスター監督作考

 アリ・アスター監督は、前作で『ヘレディタリー/継承』という世にも恐ろしいホラー映画を撮った監督さんです。こちらは、本気で恐ろしいホラー映画です。これに対して『ミッドサマー』は、監督いわく恋愛映画だそうです。わからんでもないのですが、『ミッドサマー』は見た目が明るいだけで、『へレディタリー』に通じるところがあると私は思っています。このあたりのことを3月にツイートしたものを再掲しておきます。以下、3月21日時点の私の一連のツイートです。

現在公開中のアリ・アスター監督作『ミッドサマー』と前監督作『ヘレディタリー/継承』が、一見すると全然違うのに根幹は同じに思えて仕方なくて、何だろうかとずっと考えてた。

なんとなく自分なりの結論が見えてきたので、まとめておく。多分ネタバレなし。
『ミッドサマー』も『へレディタリー』も、ふたつの主な要素から成り立っていると思う。ひとつは「得体の知れない誰かの思惑」で、もうひとつは「過去の経験から深く傷ついた精神」。 

前者は、大多数のホラー映画の主題になっているもの。『ジョーズ』なら「得体の知れない誰か」はサメってことになる。
「得体の知れない誰かの思惑」の「思惑」の部分は、明確な殺意だったり悪意だったり、主人公への攻撃だったりすると、分かりやすいホラーになる。

『へレディタリー』の場合、この「思惑」は「根源的な悪意からくる殺意」だったように思う。だから、救いようのないホラーという感触だった。
『ミッドサマー』の場合、「得体の知れない誰か」が見えないホラー映画特有の恐怖はある。さらに言うと、薬物に起因する得体の知れない感覚の怖さもある。 

しかし「思惑」には悪意がない。攻撃はあるけど、実のところ、おそらく殺意もない。だから、怖いのか怖くないのか、不思議な感覚が生まれる。
次に「過去の経験から深く傷ついた精神」について。これは、見せ方がうまければ恐怖につながるものだと思うところ。身につまされる怖さというか。

張りつめた心理描写が強烈な『セックスと嘘とビデオテープ』や、自分自身と向き合う恐怖を感じた『グッド・ウィル・ハンティング』あたりがこれ。
『ヘレディタリー』では、事故の記憶と邪悪な存在に苛まれる主人公がいる。『ミッドサマー』でも、過去の悲劇的な喪失と、失われつつある関係性に心を痛める主人公がいる。

どちらも、痛ましい記憶がフラッシュバックするような映像があり、過去の傷をえぐられるような怖さが効果的に演出されている。
結局、『ヘレディタリー』でも『ミッドサマー』でも、「過去の経験から深く傷ついた精神」が「得体の知れない誰かの思惑」にさらされたとき、精神が崩壊するほど極限まで追いつめられていく。

このダブルパンチが、アリ・アスター監督作が従来のホラー映画を超越していると感じる部分じゃないかな?
そして『ミッドサマー』は、明確な悪意が存在しない太陽の下での話であることと、見る側の人生経験次第では感情移入しにくい(身につまされることのない)「過去の経験から深く傷ついた精神」の描写により、全然平気な人と、精神的に恐ろしくやられる人と、両極端になってしまうのかと思う。

 そんなわけで、私にとって『ミッドサマー』は、見れば見るほどいろいろ考えたくなる映画です。劇中に登場する薬物で主人公たちが正気をなくしていくように、私はなんだかこの映画の虜にされている気がします。そう自覚してはいるものの、映画館が営業再開したときにこの作品が上映されていたら、とりあえずもう一度くらいは見に行きたいな、と思ってしまいます。

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