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あたらしい×なつかしい なにわブルースフェスティバル2020“配信”観戦記 その2

9月13日(日)

https://livelovers.jp/list/lltv/1529/

有山じゅんじ | 上田正樹 R&B BAND(有山じゅんじ、樋沢達彦、Kenny Mosley、堺敦生、Yoshie.N) | 大上留利子&ジェニファー’s Band(スガタアヤコ、前田邦衛、三夜陽一郎、仲豊夫、井上尚大、Shirayuries<片山ミキ、Angieチョチョ、荒木千枝⼦、Kitty吉べえ>) | OSAKA ROOTS+前川真悟 | 木村充揮 | 近藤房之助 | 桜川春子 | 清水興 | ナオユキ | BEGIN | blues.the-butcher-590213(永井ホトケ隆、沼澤尚、中條卓、KOTEZ) | 三宅伸治&Spoonful(高橋”Jr”知治、茜、KOTEZ) | よのすけとホームランブラザース

◆夢から醒める「おおきに」の魔法

のっけから、よのすけとホームランブラザーズが濃い。ネタが濃い。ネタにしてる音楽ネタも濃い。でも、どろんどろんじゃなく、どっか軽やかなのは、抜群に演奏がうまいからだろう。
大阪で彼らを知らないもんはモグりと言われるそうだが、調べたらbillboard大阪にも出演していて驚いた。

コミックバンドの類は数あれど、これは大阪でしかあり得ないバンド。

「おおきに」
と去って行くと、そこでみんな夢だとわかる。

あぁ、やっぱり大阪はずるい。

Osaka Rootsは今年は、かりゆし58の前川真悟をヴォーカルに迎えてのステージ。熱心にかりゆし58を聞いてきたわけではないので、新鮮な気持ちで聴く。彼の鼓動とOsaka Rootsのビートが溶け合う。ヴォーカリストとしてはもう少しパンチのあるスタイルが好きだけれど、<オワリはじまり>はじめ、素直な心持ちの伝わってくるナンバーに出会えてよかった。

そして自粛の穴からいち早く飛び出したバンド、三宅伸治&The Spoonful。自粛中に書いた50曲から選んだ『WelCome Home』から、この時期にほぼ新曲で挑むってかっこいい。自粛の澱んだ空気に風穴をあけてやるぜ、NGのぎりぎりのラインまで暴れてやるぜという気迫もびしびし感じる。

あちこちで書いているので繰り返しになるが、4人のバランスがすごくいい。通じ合ってることが身体全体から伝わってくる。このバンドでドラムを叩くことが本当にうれしそうな茜ちゃんの顔がよく見えるのも配信ならではだ。途中、有山さんが<いいことがあればいいね>に1曲参加。
※※私のインタビュー読んでね→https://fropo.net/people

◆やっぱり留利子さんは、大阪のクイーンだった

さて、アレサの<Respect>で登場する大上留利子さんはじめ、衣装も色とりどりな6人の女たち。やっぱりクイーンだった。ご病気をされてから以前のように高い声が出なくなったそうだが、それを上回る持ち前の声の良さ、そして歌手としての華がある。そしてクイーンの大舞台を盛り上げようとコーラス隊もバンドも気合いが入っていた。

久しぶりに元気なジェニファーの歌が聴けたのもうれしい。しかも<胸が痛い>だ。木村充輝さんのヴァージョンも好きだが、わたしは大上さんの<胸が痛い>は間違いなくなにわソウルを代表する一曲だと思っている。

そして<That's How Strong My Love Is>のイントロで歓声が起こったときは鳥肌がたった。同じ時代を生きてきた人と気持ちがリンクした。(そしてギターにはスタキンの仲豊夫さん!)
70年代にブルース&ソウルを浴びた世代にとってこの歌は、O.V.ライトでもオーティス・レディングでもなくスターキング・デリシャスなのだ。
当時、「すきやで~」と呼びかけるシーンがハイライトだったが、この日もスキヤデーが星のように降る。

「マスクしてるしディスタンスしてるからええやろ。一度だけ好きやでと言ってください」
と留利子さん。そして<Many Rivers To Cross>へ。

「負けたら、あかんで」

とこの歌とリンクしながらメッセージする。なにわのソウル・クイーン。歌がうまいだけじゃない。姿勢も本当にかっこいい。東京に来た時タイミングが合えば何度か観てるけど、この空気はやっぱり大阪ならではだな。 

◆半世紀、ブルースを歌ってきたひとたちと

近藤房之助さんはアコースティック・ギターを手に、木村充輝さんとの“男唄”コンビでの参加。ジョージア、ルート66といったスタンダードから<これが男の生きるみち>、そしてなにわソウルを代表する<酒と泪と男と女>。途中、房之助さんがドブロギターを手にする。

去年は若手と一緒に。そして今年は木村さんと。自由に気持ち良く歌う房之助さんがいる。

<Feel So Good>で始まったblues.the-butcher-590213。ホトケさんは春以来初めての客前ライブ。このコンサートは去年から決まっていたので、と言うが、お客さんと相対するホトケさん、やはりどことなく楽しそうだ。Spoonfulから衣装をびしっと着替えて、クロマチックを手にしたKOTEZによる<Crazy Mixed-up World>もスパイスが効いている。

◆「うたのまつり」なにわブルースフェス。

さて、長丁場のフェスも大詰め。私にとっては、お久しぶりのビギン。ビギンにとっても第1回出場以来、久しぶりなのだろう。
「来てみたら、いときんもいないし、石やん(石田長生)もいなくて」と
ぽつり。

<あるインタビューで彼ら自身が語っていることだが、一時期ライブに全然お客さんが入らない時期があって、その時でも大阪だけはお客さんが入り、しかも「レジェンド」のミュージシャンたちにとても可愛がってもらったという。>(産経WEST 2016年11月6日 柿木央久『有山さんの電話一本で即決した「BEGIN」の出演-フェス初日、期待のビッグネーム』)

でも、というのもヘンだが、ドラムを叩くのは比嘉栄昌さんの息子、俊太郎くん。「<とったらあかん>でシュンタロウは行方知れずになってますが、ちゃんとここにいます」と、さらりとレジェンドとつなげながら、笑いをを誘った。

いい歌が多いビギン。普遍的なものを歌う<島人ぬ宝>は、特にこころに響いた。昨年の石田長生トリビュートでも感じたが、なにわブルースフェスは単なる8小節ブルースのお祭りではない。うたのまつりでもある。

トリは上田正樹 R&B BAND。
確か70年代から歌い続けてるレゲエ・ナンバー、
「このまちの歌です」と前置きして歌われる<悲しい色やね>。
加えてYosieN.作詞、有山じゅんじ作曲の新しい歌も<地球が危ない>も披露した。

昨年は世界の平和を願い<ウィー・アーザ・ワールド>だったが今年は<We Shall Overcome>。“まだ行くんか““死ぬまでかとは言わなくなったけど
「Don't Give Up」「Never Give Up」
と、みんなを鼓舞するメッセージすることを忘れない“キー坊”なのである。

70年代から活躍するウエストロードのホトケと、サウス・トゥ・サウスのキー坊が自分のバンドでメインを張る。私にとっては中学のときから観てきた大スター。ある世代にとっては同時代を生きた戦友みたいな感じかもしれない。この2人が今も現役で頑張ってくれていることが、どれほど多くの人たちの励みになっているのだろう。

でも2人は“あのころ”を生きてるわけじゃない。むしろ、“あのころ”を生きているのは客席のほうかもしれない。

◆“なにわのブルース” 伝えたいものがあればこそ

このフェスのテーマソングとも言える<梅田からナンバまで>。この会場を観る限り、歌えない人は一人もいないのではと思えるほど。大阪の市歌にならないのが不思議になる。

アンコールはの<Iko Iko>でマイクを回し、ソロを回す出演者の顔は本当にキラキラしていた。こうした状況下で、みんな揃えたことの歓びを噛みしめてる人もいたのではないかな。

このフェスの合言葉は「なにわのブルースの灯を消すな」。

守りたいもの、伝えたいものがあればこそのキャッチコピーだ。

12小節の音楽に縛られたブルースフェスではなく「なにわブルース」のフェスティバル。
それはやっぱり大阪でしか実現できない音楽祭だった。

さぁて、来年は会場へ!



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