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【2019参院選】15争点で公約を比較してみた【行政・政治改革編】

 本記事では、JAPAN CHOICE 公約比較 サービスと連動して、15個の争点について、解説を行っていきます! 表だけでは伝わらない、争点の構造や争点をめぐる経緯について各争点1記事ずつにまとめました。15の争点、今回は【行政・政治改革】についてです。


1.統計・公文書管理


 厚労省による統計不正問題や、森友問題などに関係する公文書改ざんなどを受け、政府による資料管理のあり方が問題となっています。

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 厚労省による統計不正問題は、2018年2月に発覚しました。政策を行う上での判断基準となっていた統計の1つ「労働時間等総合実態調査」がずさんに行われていたというものです(1)。それだけでなく、2019年には「毎月勤労統計調査」の不正も発覚(2)。統計事務をどのように改善していくかが、にわかに課題となりました。
 日本の統計事務は、総務省統計委員会と統計局を中心として、各省がそれぞれ行う分散型の体制を敷いていますが。各省に、統計を担うのに十分な職員が準備されているとは到底いえないのが実情です。2009年からの10年間で統計職員はおよそ半分にまで減っています(3)。国家にとっても重要な統計事務をどうしていくか。分散させるのではなく一元化することで、統計事務をきちんと管理しようという声も出始めています(4)。また、AIなどITの力を借りることで、人員の少なさを補おうとする考えもあります。

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 公文書管理問題は、2017年に発覚した森友問題に端を発します。財務省が国会での答弁と文書との整合性を合わせるため、公文書を改ざんした疑惑が翌2018年の3月に浮上(5)。これにとどまらず、4月には防衛省が無いとしていたイラク派遣部隊の日報が見つかり、次々と大臣の日程表が廃棄されていること(6)も問題となりました。すでに政府は、全データの電子化や監視機関の強化など、対策を打ち出しています(7)(8)。
 統一ルールはあるにせよ、現場の裁量で廃棄が決まってしまうなど、未だ脆弱な日本の公文書体制をどうしていくかも、参院選で争われます。


 
2.行政機構改革

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 近年発生している問題に対処するため、政府組織を改めようとする動きもあります。
 今回各党から創設が提言されている3つの機関、統計庁・歳入庁・防災庁(省)は、いずれもいろいろなところに分散している各分野の事務を統合しようとするものです(9)。
 現在ある組織では、内閣人事局も各党の改革の対象となっています。内閣人事局は2014年に設立された組織です(10)。これまで省庁が自分たちで決めていた幹部人事は、政治家が影響力を及ぼせる人事局を通して管理するようになりました。これによって政治の側が官僚人事を決定し、自分たちの政策を強力に推進できるようにしたのです。しかし2017年、流行語にもなった「忖度(そんたく)」に代表されるような、「官邸(首相や官房長官など、政府首脳部)」による官僚支配の疑惑、「森友・加計問題」が発生しました。官邸が、人事局を使って首相や官房長官の意に沿わない動きをした官僚を冷遇し、都合のいい幹部で固めているのではないか、という批判が出ています(11)。これを受け特に野党は、官僚の自律性の回復を訴え、人事局制度の改革、あるいは廃止を訴えています。他方、2000年代まで官僚の自律性の強さも問題となり、官僚主導ではなく政治主導による行政が課題となっていたことも事実です。政官関係をどう構築するか、日本政治の長らくの課題とどう向き合うべきでしょうか。


3.国会改革

 近年、公文書改ざんや統計不正など、民主主義の根幹を揺るがしかねない事件が多発している一方、国会がそれを追及しきれていない事情を懸念し、特に野党の側から国会の行政監視機能を強化しようという動きが上がっています。また、与党内議員からも、法律案をどのように通すか、あるいはどう廃案に追い込むかという日程闘争のみが行われ、国会が審議の場になっていない現状を変えようとする改革の動きがあります。
 今回国会改革を訴えているのは主に野党です。強力な監視機能を持った「行政監視院」を参議院に設置する構想を打ち出しています(12)。一方、与野党の有志議員によって構成されている「『平成のうちに』衆議院改革実現会議」は、国会へのITの導入や党首討論の活性化など、費用の節約・議論の活性化を念頭に置いた改革を提言しています(13)。
 そのほかにも、少数会派でも十分に質問や審議を出来るような制度設計や、国会運営の合理化を求める動きもあります。


4.選挙制度改革

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 今回の選挙から、参議院の定数が+6になり、248に増えます。これは参議院では1970年以来のことです。この定数増には、政権与党が自分たちの利益になるように進めたことだと反発も多く、6増の撤回やそれ以上の定数減を提案する政党もあります(14)。一方で、議員定数削減を進めるべきという世の中の潮流に反対する政党もいます。
 この他にも、選挙制度自体を比例代表に重点をおいたものに変える改革や、不足する政治家のなり手を増やすために、選挙に立候補するために仕事を休むことができる「立候補休暇制度」(15)の法制化も提案されています。


5.政治資金

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 今回の参院選では、多くの政党が、「企業団体献金」の廃止を公約として掲げました。
 政党や政治団体への献金には、おおまかに個人献金と企業や団体による献金の2つがあります。企業による献金は、政治資金規正法によって政党と政党が指定する政治資金団体に限定されており、政治家個人への献金は出来ません。また、献金の額にも上限が課せられています(16)。
 過去には、企業団体献金が企業と政治家の癒着・汚職事件の原因となってきました。田中角栄のロッキード事件や80年代のリクルート事件など、多くのいわゆる「政治とカネ」の問題が噴出、これを受けて90年代に制定されたのが「政治資金規正法」でした。しかし実際のところ、この法律は政治家個人の献金を禁止しても、政治家が持つ政党支部を通した間接的な献金を禁じていません。問題の根本的な解決には至っていないのが実情です。
 企業が献金すると何が問題か。参政権を有さない企業という「法人」が、本音では自分たちの優遇など「見返り」を求めて各党・政治家へ献金をし、政策決定に影響を及ぼすことは民主主義を歪めるものだ、という批判が主にあります。
 これらの問題に対して、各党は「企業団体献金の廃止」を提案しています。ただ一部の企業や団体は、自分たちが持つ「〇〇政治連盟」という名称の政治団体を通して献金をしていおり、企業団体献金を封じられても政治団体(企業団体献金の「団体」には入らない)を通して献金する道は残されることになります。「政治とカネ」の問題も、企業団体献金を禁止すればそれで解決、というわけでもないことに注意すべきでしょう(17)。
 もう一つ、政治資金の動きの透明化の問題もあります。政党や政治団体の収支報告書は、総務省のHPから閲覧することが可能となっていますが、政治家個人の収支は必ずしもそうなっていません(18)。議員の収支報告書のウェブ公開が、長らく課題となっています。
 国会議員に毎月100万円支給される文書通信交通滞在費(文通費)の使途も、現在の法律では明確にはなりません。その名の通り文書や通信にかかる費用をまかなうために出費されるものですが、公開されないことをいいことに、自身の都合のいいように流用する議員もいます(19)。この公開の義務化を求める政党もあります。
 いずれにせよ、政治が国民の税金をどのように使っているのか、その公開は日本では未だ不十分であると言えます。


▶︎ シリーズ15の争点 他の記事はこちら


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(1)日本経済新聞「働き方法案に火種 首相、裁量労働制の答弁撤回」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26894610U8A210C1PP8000/)2018年2月14日
(2)日本経済新聞「毎勤統計、都内分を全数調べず 厚労省が調査ミス」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39527200Y8A221C1EA4000/)2018年12月28日
(3)総務省「我が国の統計機構」(http://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/2-2.htm)
(4)毎日新聞「社説 統計部門の立て直し 独立した組織に一元化を」(https://mainichi.jp/articles/20190211/ddm/005/070/067000c)2019年2月11日
(5)吉川慧「森友学園めぐり財務省が公文書改ざんか 朝日新聞が報道、どんな内容だった?」(https://www.huffingtonpost.jp/2018/03/06/mof-moritomo_a_23377970/)2018年3月6日、huffingtonpost
(6)日本経済新聞「11府省の大臣日程、短期間で廃棄 NPO調査」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44150250U9A420C1CR8000/)2019年4月25日
(7)日本経済新聞「公文書管理の監視強化 政府、改ざん問題で防止策 悪質行為は免職も」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33193770Q8A720C1EAF000/)2018年7月20日
(8)日本経済新聞「公文書管理を全面電子化 政府、26年度メド 改ざんなど防止」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40667440Q9A130C1PP8000)2019年1月30日
(9)統計庁について
 ・室伏謙一「官庁統計の相次ぐ信頼失墜に『統計庁』の新設は有効か」(https://diamond.jp/articles/-/195239)2019年2月27日、DIAMONDonline
 歳入庁について
 ・山崎元「『歳入庁』という誰も反対しない構想が実現しない理由」(https://diamond.jp/articles/-/104344)2016年10月22日、DIAMONDonline
 ・土井丈朗「『歳入庁創設』は実現するか」(https://news.yahoo.co.jp/byline/takerodoi/20180407-00083680/)2018年4月7日、Yahoo!JAPANニュース
 防災庁(省)について
 ・産経新聞「【ニッポンの議論】『防災性は必要か』河田恵昭氏、八幡和郎氏」(https://www.sankei.com/premium/news/190310/prm1903100012-n1.html)2019年3月10日
 ・朝日新聞「『災害大国日本、防災省つくって経験蓄積を』石破氏」(https://www.asahi.com/articles/ASL7J5K82L7JUTFK00M.html?iref=pc_extlink)2018年7月16日
 ・室伏謙一「『防災省』構想が”机上の空論”と言える理由」(https://diamond.jp/articles/-/177834)2018年8月21日、DIAMONDonline
(10)日本経済新聞「内閣人事局が発足 幹部人事を一元管理」(https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS30009_Q4A530C1EAF000/)2014年5月30日
(11)日本経済新聞「内閣人事局の弊害? 森友文書改ざんで話題に」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28840410R30C18A3I10000/)2018年4月3日
(12)東京新聞「『行政監視院』新設法案を提出 国会機能強化へ、野党5党派」(https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019062001001203.html)2019年6月20日
(13)毎日新聞「超党派『平成のうちに』衆議院改革実現会議の提言」(https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20180723/pol/00m/010/005000d)2018年7月23日
(14)NHK解説委員室「参院定数6増 比例特定枠導入~選挙制度改革行方は」(http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/301931.html)2018年7月19日
(15)室橋祐貴「JAXAに在職しながら出馬。『立候補休職制度』は議員のなり手不足解消に一石投じるか」(https://news.yahoo.co.jp/byline/murohashiyuki/20190526-00127393/)2019年5月26日、Yahoo!JAPANニュース
(16)総務省自治行政局選挙部政治資金課「政治資金規正法のあらまし」(http://www.soumu.go.jp/main_content/000174716.pdf)
(17)岩井奉信「絶えない『政治とカネ』スキャンダル」(https://www.nippon.com/ja/currents/d00175/)2015年5月4日、nippon.com
(18)朝日新聞「政治資金収支報告書、32都府県選管がネット公開」(https://www.asahi.com/articles/ASKCX55P9KCXUTIL03L.html)2017年11月29日
(19)朝日新聞「領収証いらない月100万円 国会議員、何に使うの?」(https://www.asahi.com/articles/ASKDL3JZSKDLUTIL00Y.html)2017年12月27日


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