原発とエネルギー

【2019参院選】15争点で公約を比較してみた【エネルギー・環境編】

  本記事では、JAPAN CHOICE 公約比較 サービスと連動して、15個の争点について、解説を行っていきます! 表だけでは伝わらない、争点の構造や争点をめぐる経緯について各争点1記事ずつにまとめました。15の争点、今回は【エネルギー・環境】についてです。


1.エネルギー

 JAPAN CHOICEでは「原発再稼働」・「脱原発・原発ゼロ」という原子力発電所に関わる2つの争点と、「脱炭素」という分野に整理して扱っています。

1.1原発再稼働

 原子力発電とは、ウランを核分裂させ、そのときに生じる熱エネルギーで水を沸かし、その蒸気で蒸気タービンを回す発電の仕方です。蒸気を起こす際に石油を燃やすのが火力発電、核分裂の熱を使うのが原子力発電です。CO2(二酸化炭素)を排出することなく大量の電力を発電できること、ウランが石油などの化石燃料と比べて産出国からの供給が安定していることから、資源の少ない日本に適した発電方法だとされてきました。一方、福島第一原子力発電所の事故のようなシビアアクシデント(設計時の想定を上回る大事故。過酷事故)を起こす可能性もあり、その安全性について疑問視もされています。
 日本の原子力発電所は、2011年の東日本大震災の影響で起きた福島第一原子力発電所事故の後、一時は全ての発電所が運転を停止していましたが、現在は原子力規制委員会の定めた新規制基準の審査に合格した原子炉から再稼働が進められています。原子力規制委員会の新規制基準とは、福島第一原子力発電所の事故を受け、それまでの基準の問題点を解消する法改正の後に策定されたものです。事故以前と比較しても厳格化されており「世界一厳しい基準」とも言われます。
 自民党・公明党は、原子力規制委員会の規制基準によって認められた場合には原発の再稼働を進めるという立場をとっています。自民党は「立地自治体など関係者の理解と協力を得つつ再稼働を進める」とし、公明党は、「立地自治体など関係者の理解を得て判断」とそれぞれ記載しています。
 立憲・共産・社民は、原発の再稼働にそれぞれ明確に反対の姿勢を示しています。
 国民・日本維新の会は原発の再稼働に厳しい条件を設けています。国民民主党は、厳格な安全基準の徹底と避難計画の作成、更に地元の合意を必須とし、日本維新の会は原子力損害賠償制度の確立、原発稼働に係る関係自治体の同意を法制化、更に原発再稼働責任法案の成立を公約としています。


1.2脱原発・原発ゼロ

 再稼働とは別に、将来的に原子力発電所をなくすのかという議論があります。将来的に原発をゼロにすべきか?
 脱原発に言及していないのは自民党のみで、野党はもちろん、連立与党の公明党も、目標とするタイミングに差はありますが原発を将来的になくすべきだとしています。
 議論のポイントは大まかに2つです。1つ目は原発をなくす際の廃炉コストの問題、2つ目は再生可能エネルギーで日本の電力をまかなうことができるのかという問題です。
 電力行政を管轄する資源エネルギー庁は、いくつかの試算を出しています。これによると、リスク対応や廃炉コストなどを考慮しても依然原子力が最も経済的な発電方法であり、代替として考えられている再生可能エネルギーも、コストはまだまだ高く現実的ではないとしています。しかし当然ながら、この試算には脱原発を目指す人々から強い批判があり、独自試算によって原発の非経済性を主張する意見もあります。政権与党としては原子力発電を推進したいわけですから、脱原発を推進する方々が資源エネルギー庁の試算に疑問を覚えるのは当然といえるのかもしれません。
 一方で再生可能エネルギーのコストは年々下がり、日本における割合も徐々に上がってきています。これらをどう生かしていくか、どういうエネルギー社会を構想するかを考える必要があるでしょう。

1.3脱炭素

 脱炭素社会とは、地球温暖化などの原因となるCO2(二酸化炭素)などの排出がゼロである社会のことです。これは日本国内だけの問題ではなく、2015年にドイツで開催されたG7エルマウ・サミットにおいて、「今世紀中の世界経済の脱炭素化のため,世界全体の温室効果ガス排出の大幅な削減が必要であることを強調する」(1)という宣言がなされました。
 現在深刻な問題となっている地球温暖化などの気候変動に対応するためには、少数の国だけでなく世界全体で取り組まなければなりません。2015年には地球温暖化を防止するための国際的な取り決めである「パリ協定」が採択され、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つととも に、1.5℃に抑える努力を追求すること」(2)が規定されました。この協定内では、各国がそれぞれ削減目標を提出することが求められており、日本は「2030年までに、2013年比で、温室効果ガス排出量を26%削減する(2005年比では、25.4%削減)。」(3)という目標を提出しています。目標の達成自体には義務は課せられていませんが、そのための国内措置をとることが定められています。
 2018年に定められた「第5次エネルギー基本計画」は、2050年に日本を脱炭素社会にすることを構想しています。各党の公約も、この基本計画やパリ協定の目標を意識したものになっています。
 全政党が脱炭素化や再生可能エネルギーの活用を明記しているほか、自民・立憲・共産・社民は2050年、公明党は今世紀後半の脱炭素化、国民民主党は2030年までに1990年比30%以上のCO2削減という目標を提示しています。

2.環境(プラスチック対策)

 ペットボトルや衣服など、今や私たちの生活の中にありふれているプラスチックですが、それが海洋汚染を引き起こしてしまっていることをご存知でしょうか。海洋プラスチック問題やマイクロプラスチック問題と呼ばれるそれらの問題も、気候変動の問題と同じように世界的な課題になっています。
 海洋プラスチック問題とは、正しく処理されなかったプラスチックごみが河川などを通して大量に海へ流出し、生態系をはじめとした海洋環境に影響を及ぼしてしまうという問題です。ペットボトルやビニール袋、空き缶や釣り糸など様々な海洋ごみが漂流・漂着し、海洋生物への影響の他にも、船舶航行への障害 、観光や漁業への影響 、沿岸域居住環境への影響などの被害が予想されています。陸上から海へ流出したプラスチックごみの発生量の上位を東・東南アジアが占めており、日本にも大量の海洋ごみが漂着しています。
 次にマイクロプラスチックとは、大きさが1ミリ、もしくは5ミリ以下のプラスチックのことで、洗顔料や歯磨き粉内のスクラブなどもともとマイクロサイズで製造され、排水溝などを通して海に流出してしまった「一次的マイクロプラスチック」と、漂流するサイズの大きなプラスチックごみが波や紫外線の影響を受けて砕けた「二次的マイクロプラスチック」の2種類があります。海鳥が誤飲し、消化管が傷ついたり栄養失調の原因になるなど物理的な被害が生じているほか、マイクロプラスチックに含有・吸着している化学物質が食物連鎖に取り込まれることで、生態系に影響を及ぼすことが懸念されています。
 2010年から2015年の5年間に行われた環境省の調査では、日本海周辺には北太平洋の16倍 、 世界の海の27倍のマイクロプラスチックが存在することが分かっています。国内では、2018年に海岸漂着物処理推進法の改正がなされるなどの対策がなされていますが、マイクロプラスチックの製造を禁止したアメリカなどと比べると、まだ十分とはいえないでしょう。
 自民党・立憲民主党・日本共産党・社民党はそれぞれプラスチックごみの削減を掲げており、公明党は海洋ごみの処理などをする自治体への財政支援、国民民主党はマイクロプラスチックへの規制を導入するとしています。

 本記事ではエネルギー・環境に関する問題の概要と各政党の立場を見てきました。どちらも日本の未来に深く関わる問題です。ぜひ各党の政策を比較するとともに、ご自身でより良いと思える未来を選択してみてください。



▶︎ シリーズ15の争点 他の記事はこちら



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引用
(1)外務省 「2015 G7エルマウ・サミット首脳宣言(仮訳)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_001244.html (最終閲覧:2019年7月18日)
(2)環境省 「パリ協定の概要(仮訳)」
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/cop21_paris/paris_conv-a.pdf (最終閲覧:2019年7月18日)
(3)WWFジャパン 「COP21の『パリ合意』に向けた、各国の温暖化対策目標案の提出状況」
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/1169.html (最終閲覧:2019年7月18日)
参考
電気事業連合会 「原子力発電」
https://www.fepc.or.jp/enterprise/hatsuden/nuclear/ (最終閲覧:2019年7月18日)
原子力規制委員会 「新規制基準について」
http://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/shin_kisei_kijyun.html (最終閲覧:2019年7月18日)
資源エネルギー庁 「エネルギー基本計画について」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/ (最終閲覧:2019年7月18日)
資源エネルギー庁 「原発のコストを考える」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/nuclear/nuclearcost.html (最終閲覧:2019年7月18日)
資源エネルギー庁 「再エネのコストを考える」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/saienecost.html (最終閲覧:2019年7月18日)
大島堅一 「原発は高かった~実績で見た原発のコスト~」
https://news.yahoo.co.jp/byline/oshimakenichi/20161209-00065303/ (最終閲覧:2019年7月18日)

デジタル大辞泉 「脱炭素化」
https://japanknowledge.com/lib/display/?lid=2001029207700 (最終閲覧:2019年7月18日)
環境省 「『地球温暖化対策計画』の閣議決定について」
http://www.env.go.jp/press/102512.html (最終閲覧:2019年7月18日)
外務省 「2015 G7エルマウ・サミット首脳宣言(仮訳)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_001244.html (最終閲覧:2019年7月18日)
外務省「パリ協定」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/et/page24_000810.html (最終閲覧:2019年7月18日)
情報・知識 imidas 2018 「マイクロプラスチック」
https://japanknowledge.com/lib/display/?kw=%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF&lid=50010F-108-0265 (最終閲覧:2019年7月18日)
環境省 「海洋プラスチック問題について」
https://www.env.go.jp/council/03recycle/【資料%EF%BC%93】海洋プラスチック問題について.pdf (最終閲覧:2019年7月18日)
環境省 大臣官房審議官 早水 輝好 「海洋ごみとマイクロプラスチックに 関する環境省の取組」
http://www.env.go.jp/water/marine_litter/00_MOE.pdf (最終閲覧:2019年7月18日)
WWFジャパン 「海洋プラスチック問題について」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html (最終閲覧:2019年7月18日)


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