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映画「博士の愛した数式」

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小川洋子先生の小説もしみじみと好きです。寺尾聰さん、深津絵里さん、浅丘ルリ子さん、吉岡秀隆さん。そして子役の齋藤隆成さん(当時10才)

音楽や景色や能舞台など情緒溢れる作品で繰り返し観たくなります。小道具や部屋の隅々まで凝っていて。博士の寝室に立派な能面が飾られていますが、あれ夜中見たらかなり怖いんじゃないかな…

幼い頃、こんなふうに楽しく数学の話を聞いたり間違いをやさしく指摘されたら数学嫌いにならずに済んだかもしれない…正直、数式の部分は今でもピンときませんが、理解できない部分も含めて興味深い。懐の広さを感じます。

深津絵里さんが今で言うシングルマザー。家政婦として働きながら子育てとの両立を悩むこともあり現在とも同じですね。表情がパッと明るくて惹き込まれます。

ヘッドフォンで音楽を聴いていて、外すとBGMもピタリと止まる…こういう心情にリンクした演出好きです。なんとなく主人公に寄り添いやすくなる気がします。

浅丘ルリ子さんは未亡人という難しい役で、控えめな美しさが際立ち、原作では描かれなかった深みを増したような。はじめの素っ気ない様子や他人を寄せ付けない拒否反応にも深い事情があったのですね。

博士と少年の交流はホノボノとしていて癒されます。自分のことさえもままならないのに、自分よりも弱く小さく幼い者への惜しみない愛情の掛け方。約束を守ることの難しさと誇らしさ。耳を傾ける幸せそうな表情。

登場人物が何かしらの喪失と不在を抱えていて、はじめはどこか歩み寄れないギスギスした感じから、だんだん他者との繋がりによって補完していく。心が通う変化が美しい情景と相まって物語に上質な雰囲気を醸し出しています。

定められた時間通りに消えていくものと、目には見えなくても確かに残る繋がり。失ったものや得られなかったものへの憧れ。いろんな見方ができ、また学ぶことの多い映画だなと改めて思いました。

〈絵と文/深道 韻〉

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