見出し画像

クリエイティブの源泉2:色を自在に変えられるスマートテキスタイル、Fabcell(ファブセル)

KERIDOという、電気で変色できるスマートテキスタイルを用いたインテリアシリーズの基礎技術として、色を自在に変えられるスマートテキスタイルは、Fabcell(ファブセル)がありました。コンピュータ制御で黒から赤、緑、青、紫と非発光で色を変えることができる四角い繊維。もちろん布なので曲げられることもできます。

クリエイティブの源泉シリーズ、この続きです。

色を自在に変えられる布の仕組み

当然どうやって?という話になりますが、温度で色が変わる液晶インクで染めた糸と電熱線を織り合わせて、温度制御をして色を変えています。発熱体が織り込まれているので曲げられる、そして、”非発光”で色が変わる大きなポイント。普通、色が変わるっていうと、LED、コンピュータディスプレイ、プロジェクターなど、発光する光で色を変えるものばっかりです。一方で、モノクロで色を変えられるKindle端末も出てきましたが、布の柔らかな風合を保ちながら、光らない色変化というのはありそうでない。また、温度制御なので、じつは特定の色に留めるより、ダイナミックなグラデーション色彩変化も可能です。

ウェアラブルファッションショー出演で見えた方向性

慶應義塾大学SFCの在学中の2005年頃、脇田玲教授が立ち上げた研究会の一期生として入りました。当時はファッションテックをテーマに、新しいファッション表現を研究する研究会。コンピュータを服に埋め込んだウェアラブルファッションや、新しい店舗什器、ディスプレイなどを研究しているところでした。

まだ立ち上がりの初期メンバーで、2005年にアメリカで開催されるサイバーファッションショーというウェアラブル専門のファッションショーに服を制作したのが最初の研究作品。ただこういうコンピュータを使ったファッションの色彩表現って、情報の変化を”光”で表すしかなかったんです。当日のファッションショー出場全チームが、実質ギラギラのLED服。ヘッドマウントディスプレイをかぶったイカツイ司会者が作品説明を読み上げてくれるなか、文字通りキラびやかすぎるランウェイをモデルとして歩きました。服中に仕込まれている配線が足にからみませんように、電池が持ちますようにと祈りながら…

しかし、LED光を美しくみせる素材を一生懸命探したり、光の色変化プログラムを考えたり、そして何より実際にモデルとしてLED服を着てみて心底思いました。。配線や電池も心配しなくていい状態の”光る服”が今後開発されたとしてみんな本当に着るようになるのだろうか、と。

普通の服のような素材で、色や模様だけが自由に変えられる、それが本質的に求められている未来のファッションの在り方だと思ったんですね。単に奇抜な未来っぽさを出すのではなく、色制御できる非発光の素材、というのがファッションの本質を考えるうえでの大きな鍵になると考えました。

服やバッグなどのテキスタイル風合いそのままに、自由に色や模様が変えられるファッション、凄く可能性を感じて、何とか形で示したくなり、手に入れられる素材の組み合わせで辿りついたのが、温度で色が変わる液晶インクと発熱体の組み合わせ、でした。

インクを塗布し発熱体を仕込んだ、スーパーファンキー過ぎる「色を変えらえる喪服」(色変えちゃってどうするの笑!ですが)を作ったり、そのうち着物の織りの技法にインスピレーションをうけて、あらかじめインクで染色した糸と電熱線を織って一枚の布にできるのでは、とたどり着いた形状。糸を染色するための炉を作ったり、電熱線を織るための織り機も一から木と釘で開発したり、一方で、研究室の机燃やしかけたり穴明けちゃったりの武勇伝もありつつ。

ケミカルor素材専門の学部出身でもなく、簡単なLED電子工作や光制御のプログラミング、そしてファッションの専門でもないけれど、着物やテキスタイルも気になり…と、柔軟がすぎる素人発想がよかったのかもしれません。とある液晶研究の教授にコンタクトをとったところ「長年研究してきたが液晶を布に活用する発想は思いつかなかった。すぐに特許をとりなさい。」と提案もいただき、実際に特許出願も大学主体で動いてくれました。

世界初の布型ピクセル

色を変えらえる一枚の布きれが完成して我ながら感動しつつ、研究室の先生に見せると「これって布版のピクセルだよね。」と流石コンピュータグラフィックス研究バッググラウンドを持つ先生ならではのアイディア。例えばスマホやPC画面、同じ画面でも映像を映し出せるのは、赤緑青(RGB)と色変化する細かな画素=ピクセルがディスプレイを構成しているから、というのがあります。情報を表現する最小の単位のピクセルという要素だとすると、このピクセルのファブリック版として「ファブセル」という名前にした途端、単なるちょっと面白い色が変わる布、だけで終わらない、布型コンピュータという画期的なコンセプトに繋がってきたんです。

布型コンピュータとしてファッションを捉えると見える可能性

1.シンプルに、色や柄を自由に変えられるというインパクト
私達の本来もつ多様性にこれほど対応できるファッション表現はないのだろうと想像します。スマホのように自分の服やバッグに好みの模様をダウンロードできる最高すぎるUX。と同時に、色違いを作らなくていいというファッション業界で糾弾されている廃棄問題の根本的解決、サステナビリティに繋がります。

頑張って100枚Fabcellの服をつくってみた

2.色だけでなく形も…究極のデジタル素材

SMAAD Surface 詳細はこちら

同じ研究室の後輩が形をかえらえるテキスタイルも研究しています。将来的には一つのテキスタイルで色や形を変えられる、究極のデジタル素材ができるのだろうと。もちろん、色も形もこの曲面などもコントロールできるインパクトはもちろんですが、それ以上に重要なのがそのものづくり情報をデジタル化できるということが大きいと思います。

組み合わせ、接着の場所、各部品などのものづくりの方法、ツールなども含めて全てがデジタル情報として、本質的には言語化できたときに次の新しい世界も見えてきます。

3.逆プログラミング化による、ものづくりに関わるクリエータに収益還元
コンピュータグラフィックスでは、プログラムを書いて”実行”することで画面の中に描き出しますが、究極のデジタル素材の組み合わせ、その接着方法、道具など、すべてのものづくり情報が、自動的に言語化、自動的に逆プログラミングできたとしたら、と。ブロックチェーンベースのプログラムが自動でできてくれて、その要素がトークン化。仮にその服の収益があった場合、各デジタル情報(色、形、素材、部品などのものづくり情報)まで、アイディアの系譜もとれるはず。ものづくり関わる人すべてのプログラム自体に収益が還元されるブロックチェーンベースの仕組みができるのではとも。

実績

このFabcellの研究は、著名メディアアーティスト、落合陽一らも後に入選したSIGGRAPH(シーグラフ)というコンピュータグラフィックス国際学会で、画期的な研究として評価され、NHKやワールドビジネスサテライトからのテレビ取材、わざわざオーストラリアからドキュメンタリー取材「The World of Colors / 色の世界」というタイトル(だったと思う。)の題材の一つとしてかけつけてくれたりしていただきました。

大学時代の取材写真がでてきた〜!





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?