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星屑を受け取って

待ちに待ったゴスペラーズ坂ツアー2023『HEAR&NOW』が始まった。私は2023年9月15日の埼玉・さいたま市文化センターと16日の千葉・東金文化会館公演に賛歌してきた。一言でいうと「賛歌」という言葉がぴったりのツアーだと思う。私は仏教徒なので、声明(しょうみょう)と表現するのが近いかもしれない。歌い喜びを分ちあい明日を思うという、イヤホンで聞くだけではできないライブが帰ってきた。

声だしOKの坂ツアーG25の京都公演に賛歌してから実に1343日ぶり、だ。

こう書くだけで胸がいっぱいになる。ゴスペラーズのライブは5人の声が時に譲り合い、ぶつかり合う仕合いを見る楽しさがある。そこにプラス、応援をしたり、歓声を上げたり。比喩的だが、ヤジを飛ばしたりタオルを投げたり。参加して楽しむことができる時間が帰ってきた。

長い、長い、私にとっては永遠のように感じるコロナ禍の中の約4年、何度もライブに足を運んだ。オンラインで楽しむライブ、ソーシャルディスタンスを保って静かにみるライブ、席はあけないけれど座ったままで見守るライブ。思えばいろんなタイプのライブに賛歌してきた。どれも楽しくて感動的で息苦しい日々の息継ぎの場所として心に刻まれている。一方でコロナ禍は終わってない。その矛盾の中でそれぞれが気を付けながら、制限なしのライブに加わる。

楽しかった。

面白いMCのときは気楽に笑い、声援を送り、歓声を上げる。当たり前のライブが帰ってきて、感動する…というより本当に楽しかったなぁ。よーちゃんが「僕は3歳までこのあたりに住んでいて」と話したときに、会場から「へぇ…」と静かだけど、普通に反応が返ってくる。キャーでもなくわーでもない「へぇ…(そうなんだ)」という気楽に声を出すことができることのリアクションにホッとした。

今回のライブは新しいEPの『HEAR&NOW』の曲が披露されるが、ほかの曲ももちろん歌われる。アルバムツアーではアルバムの中の曲を紹介しながら、厳選して過去の曲も披露されるが、今回はちょっと受け取る感動の手触りが違う。今までのライブ、そのどれでもない今のゴスペラーズの一番搾りが聴けるところに身悶えするぐらい良さを感じている。

ゴスペラーズは歌が上手い。もちろんそう思う。だけど今回のツアーは、28年の活動を通して工夫して汗をかいて、悩んで藻掻いてきたアーティストであるということを思う。私なりに感じたことは「ゴスペラーズは今が一番面白い」ということだ。特に新曲以外を歌う時に発見がある。音源よりもライブのほうが断然胸に迫る。ピッチやタイム感など専門的なことは全くわからないけれど、密度が高くてどこか洒脱。聴いている人の感情を揺さぶりときに手放す。何度も歌ってきた歌であればあるほど、それは強く感じる。とある曲の北山さんが特にエグい。音源では繊細で切ない恋を歌うが、ライブでは同じ歌を歌っても包容力や強さ、合わせて愛する喜びに満ちている。上手い上手くないではなく、いや、うまくなっているんだろうけど、それによって曲の世界観がドカンと広がる感じがする。別稿にしようと思うが、今回の聴きどころは黒沢薫の主メロ以外にある。男らしい静かな蒼い炎を持ち、蒼天に魔法をかけるハーモニストというかハーモニアン黒ぽんを聴くのが良い。

MCではファンが「てっちゃーん!」と呼び掛けると、グラサンのリーダーは懐かしそうに笑い「いいねこの感じ」とレスを返す。ほかのメンバーは呼びかけに手を挙げてスッと反応したり、前と同じように無視したり、よーちゃんですよぉ…と受け止めてみたり。いろんな反応があってニコニコしてしまった。少し前までは声をかけることもできず、ただ聴くのみ。拍手だけでは伝わらない感情がふわっと会場に満ちるのはライブならではのかけがえのなさだと思う。

なりきりゴスペラーズも帰ってきた。私は自分的初日、ファンクラブチケットではなく一般で入ったので、3階の一番後ろのほうで賛歌した。これがとっても面白かった。歌えるのかと聞かれると、もちろんと一番に立ち上がり、マスク越しで歌えるだけ大きな声で歌う。階下からは歴戦のゴスマニアがまってました!と声を上げる。その日だけのハーモニーに身をゆだねる楽しさが帰ってきた。

座ったままライブから『まだまだいくよ』では、立ち上がって賛歌できるようになった。初日、あんなに開放的で楽しかったことは無いと思った。収穫祭に参加して祈りを捧げ身を揺らすという時間に感動した。

今回のツアーは昔の曲では新たな発見をして、
新曲では新しいハーモニーを積むゴスペラーズに新たな刺激を受け取る。

元に戻るだけでなく、進化や深化を見つける貴重な機会が今回のツアーにはある。

それはまるで、星屑の中から一つ星をつかんで
ポッケに入れてもらうような時間だ。

「捕まえられたかい?」と聞かれたら
頷いて「大切にします」と笑顔を返したい。

ツアーはまだ始まったばかり。

あと何度かライブに賛歌する。
調べてみると、全部ではないがチケットがあるところがある。
追加するかと手帳をめくったりしている。

たくさんの星を集めて、宝物にして。

笑顔と歓声でその日だけのクワイアの一員として活躍したい。

まずは開幕を祝い、無事の完走を祈る。

来月会える約束がある喜びを胸に今日はこの辺で。

おしまい。


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