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地図から消えた場所

私が生まれてから結婚するまで、ずっと住んでいた家があった

その家は、おじいちゃんとおばあちゃんが戦後に建てたものだ


その家はもう存在していない


災害などで家を失った訳ではない

いろいろ失敗したから失ったのだ


家を処分する時、不動産屋さんに言われた

「要らないものは、そのままで大丈夫ですよ、こちらで処分しますので」

正直助かった

両親が引っ越す先はとても狭く、一軒家の荷物なんてとても入りきらない

置物、タンス、洋服、などなど

要らないものは全部置いていった

おじいちゃんの

おばあちゃんの

お父さんの

お母さんの

妹の

私の

本当は残したい物もいっぱいあったのだが

どこにも、持っていくことが出来ない

簡易的な倉庫も借りようかと思ったのだが

費用が毎月必要になるので諦めた


家を退去する日、家の中を見渡した


要らないものばかりなのに、これでもかと思い出が溢れてくる


母さんは泣いていた

(ごめん、母さん守れなくて)


私も本当は泣きたかった

守れなかった悔しさと、申し訳ない気持ちでいっぱいだった

けれど、私は泣かなかった

泣けないのだ

私まで泣いてしまったら、どうするんだと言う気持ちが私を支えた


退去後、何日か経った後に

母さんが忘れ物を思い出した

本当は退去後、家には入れないのだが

忘れ物ぐらい良いかと思い実家へ向かった

肝心の家の鍵だが、母さんも私も家の鍵を捨てる事が出来ずに持っていた

夜になってこっそり、忘れ物を取りに行って見ると


愕然とした


まだ、何日も経っていないのに

家の中に、無数の土足の足跡があっちこっちにあった

置いてあるものも、いろいろ無くなっていた

母さんと私は見た瞬間に


「酷い」

お互いに言葉が自然と出てしまった


家を退去する前に見た光景と、その時の光景があまりに違いすぎるのだ

1階も、2階も全部土足の足跡だらけ

荒さているのだ


踏み躙られている

家が、残した物が、思い出が


もうダメだここに居ては、ダメだ

こんな光景を長く見るもんじゃない

急いで、私と母さんは家を出た

帰りの車の中は、普段よく喋る母さんも、私も口数が少なかった


私たちが家を処分したことは、近所の人は全部知っていた

中には涙する人もいたが、夜逃げしたのだと揶揄する声もあった

近所でもあまり仲が良くない人が

ない噂を勝手にしていると後で聞いて

とても悲しく、残念だった


【いなくなった瞬間に、いろいろ言われるんだ】


その時に私は、もう二度とこの場所には来ないことを誓った

もう二度と・・・

これ以上、家を壊され、家の中を物色され


最後に残っている、思い出まで壊されてたまるか!


これ以降、私が生まれ育った場所は、記憶の中でしか存在しない

現実に存在している場所なのだが


私の地図からは完全に削除された場所となった


記憶の中の実家は、今も私の中で存在している

懐かしいあの頃のままで・・・・・

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