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#140字小説
コラボ作品集 梅雨1
140字小説 悠凜さん作
『雨音に問いかけて』
そぼ降る雨の夕刻。
「ホタル来ないかなぁ…」
傘を差し、息子と並んで水辺に立つ。
「どうかな」
私が子供の頃、夏の宵は螢が作る幻想世界だったが、今、餌になるカワニナの数を見る限り望めない。
「見たいなぁ…」
しょんぼりする息子と小さな傘、はね返る雨音。
あの光景を息子にも見せてやれるだろうか。
短歌 吉田翠作
雨音に引かれ
コラボ140字小説 晩秋
柿噛んで大のおとこになりゆくか【晩秋】
柿の一本木。屋根によじ登り、ひとつもいでは恨めしく、無理を言っていたのは幾つの時か。
人生の坂を下り始めたこの歳になれば、叶う事叶わぬ事に相槌をうつ分別もつく。
決して翌年も甘くはならない渋柿の木よ。
干して甘くなるとは、なる程と我が身を振り返える。
今年も秋が深まってゆく。
早いものだ。
柿噛んで大のおとこになりゆくか
kusabueさんのこちら
麦笛さんコラボ作品とコラボしてみました(?)
麦笛さんが、ご自身の俳句に悠凜さんの140字小説を合わせて投稿されました。その中で、わたしの絵を使ってくださいました。
そこでこのコラボ作品をシェアさせていただくにあたって…
ちょっとわたしも140字小説を書かせていただきます。『コラボに乗せコラボ』です(なんだそれは!)
違う情景を描いたため、蛍からは離れます。
何となく「あれ?これって?」と感じる方がいるやも知れぬ内容となりましたが、こ
コラボ作品集《端午の節句》 2
『父』
楽な儲け話に失敗し、ふらりと家に帰った俺に
「酒はやらねぇぞ、ケツが青いうちはちまきでも食ってろ」
親父はそう言った。
季節は五月。見慣れた古い鎧兜が、その時もまだ飾られていた。
あれから15年。ちまきを頬張る息子を膝に乗せ、俺は仏壇の中の親父と静かに酒を酌み交わす。
心配かけたな、親父。
☆俳句
コラボ作品集《桜》2
『はなむけの舞』
あの人は、もういない。
いつからか傍にいて、眠る時も気配を感じていた人。誰よりも優しく触れ、何よりも大切に守ってくれた人。
この体がもうダメだと言われた時も、必死に救おうとしてくれたあの人は、私を置いていってしまった。
なれば今年も咲き誇ろう。花守だったあの人に最後の餞を。
我、ふぶく。
俳句 kusabue
140字小
コラボ作品集《桜》 1
『桜吹雪く』
穏やかな川面を、滑るように小舟がゆく。
綿帽子に隠れた島田には、母の形見の簪がひとつ。
高砂やこの浦舟に帆を上げて
お母さんお母さんきっと……
岸に立つ若者が手を差し出す時、一瞬の風が花を吹雪かせた。薄いその一枚が、娘の懐に仕舞われた筥迫に舞い降りる。
娘は若者に、自分の手をそっと預けた。
☆俳句
コラボ作品集 《雛祭り》1
『宵の宴』
これ右大臣よ、少々呑みすぎではあるまいか?
良いではありませぬか、帝。今宵はこの家の娘の初節句、祝いの席にございます。
左様にござりますぞ。ほれ、お囃子も盛大にめでたいめでたいのぅ。
健やかに育てと幼子を祝う、暫し宵の宴。
今年も来年もと末永くの願いを込めて 、内裏は凛と、桜橘が匂いたつ。
☆俳
コラボ作品集 《バレンタインデー》 2
『もうひとつの記念日』
「ふたりが橋の上ですれ違ってから5カ月、お前の腕も大したことないな。キューピットはすぐに恋に落とすもんだぞ」
「本物の恋をするために時間をかけさせたのさ」
彼女、毎日泣いていたからな。あの時、僕が放った矢にはこっそりチョコレートを塗っておいたのさ。
今日が、忘れない記念日になるように。
☆俳
コラボ作品集《バレンタインデー》1
『 Sweet Black Diamonds' Day 』
もらえる…。
もらえない…。
…別にそれが欲しい訳じゃない。そもそも甘い物苦手だし。
本当に欲しいのは、濡れたように煌めく黒曜石…いや、僕にとってはダイヤだ。
僕を見つめる二粒の宝石。
あのダイヤを独占する第一歩として、まずは、ほろ苦いけど堪らなく甘い、想いこもった一粒を手に入れなければ。