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神話部参加作品

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note神話部への参加作品
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伝承からうかがい知る背景情報

伝承からうかがい知る背景情報

この記事は遠山美都男氏の著書「卑弥呼誕生」の中から神話部に出したいと思った部分について抜粋し、要約しながら書いたものです。

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とある神話・伝承の話をしてみたい。
古代中国人の中にあった東方や東海世界への幻想である。

朝鮮半島北部から中国東北部の日本海側に住む東沃沮という民族が持つ伝承にこのような話があるという。
「海中に女国有り。男人無し。或いは伝う、其の国に神井有り

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掌編 羽衣

掌編 羽衣

神話創作文芸部ストーリアの4周年記念企画への参加作品です。
今回は龍、家事、巡礼、年末年始というお題グループに、花、鳥、風、月というお題の掛け合わせを、アミダで選ぶという企画でした。

わたしが引いたお題は「龍と花」でした。
いざ──

【羽衣】

今際の際に全ては夢のごとし

 徳川は家治が治世の頃の話であろうか。名を残すでも無い、ただ一途に道を歩んだひとりの男の、死にゆく前の一幕を物語るものと

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天翔ける馬の轟き

天翔ける馬の轟き

神話部お題 【馬】

お懐かしゅうございます。
いつぞやの星祭り以来でございましょうか。
ここでまたひとつ、おばばのよもやま話にお付き合いくださいまし。

それはそれは古い時代の事にございます。
突然夜空に雷鳴が響き渡りまして、川辺にいらした賀茂玉依比売命の手元に、矢が落ちてきなさった。何やら不思議な力を感じたのでございましょう、玉依比売命は矢を持ち帰り祀ったところ、これがなんと腹に御子を授かりま

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掌編 散りゆきて

掌編 散りゆきて

神話部お題 収穫
千文字掌編小説

散りゆきて

「とおかんやとおかんや とおかんやのわらでっぽう」

 四つ身絣を着た元気な子供達の声が、高くなった空に響く。

── 豊作だ。ただ美桜子さん、許してくれとは言いません──

 あれから五年。一介の書生から博物館に職を得た正一郎は、長く避けていた郷里の収穫祭に足を運んでいた。

「名前負けですよね。でもわたし、桜が好きなんです」

 東京市の駒込片

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別方向へ向かった神話

別方向へ向かった神話

「閉じた神話」わたしは何度かこの言葉を使ってきた。果たして「誰」が神話を閉じたというのだろうか。

先日神話部部長の矢口さんからひとつのリンクをいただいた。妖怪に関しての、識者へのインタビュー記事だった。
「この内容、翠さんが書いた「閉じなかった神話」と、論調が近くないですか?」と、矢口さんに言っていただいた。正直びっくりした。何となく思っていた事を書いただけだが、確かに識者が示す論に近いのだ。

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掌編 正しい杖の使い方

掌編 正しい杖の使い方

神話部は、夏祭りが終わったばかりですが、既に次のお題の締め切りが近付いてま、ます😂
お題 《杖》
掌編小説

掌編小説 正しい杖の使い方

 この辺りで宿を取ろうとしていた旅の一行は思わぬ騒ぎに足を止めた。

「庄屋さま〜!由兵衛さんが!」

 血相を変えた男が庄屋の屋敷に飛び込んで行った。

「どうしなすった?」旅の一行の若い衆が騒つく村人に声をかけた。

「急に倒れたんでしょう。これで五人目

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詩 見た夢の夢の残りか里の夏

詩 見た夢の夢の残りか里の夏

水を入れて高く腕を伸ばす
紐を通した空き缶に
ぽつぽつと 
目打であけた通り道
背伸びをした先で
くるくると
缶が回って弾き出た水が
朝顔の葉を揺らし小さな虹を呼んだ

そうやって
母と遊んだカケラの時間は
どこまで行っても一抹の子守唄

どこに置いてきぼりにしたのかと
見上げる度に
見上げる度に

ぽかりと浮かぶ峰雲の残像
見た夢の夢の残りか
里の夏



俳句を入れ込んでいます。
#詩  #

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掌編 まだ見ぬ学舎へ

掌編 まだ見ぬ学舎へ

神話創作文芸部ストーリアの夏企画への参加作品です。
企画は「ストーリア学園」をキーワードに、それぞれが創作を行うというものです。

今回わたしはストーリア学園を、神々が生徒として学ぶ学園(教員も恐らく神々)と言う設定で、掌編作品を書いてみました。
学園を軸に、学園外でのストーリー展開になっています。
お読みいただければ幸いです。

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まだ見ぬ学舎へ

 土地を訪れた旅

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天宇受売命という存在 後編

天宇受売命という存在 後編

前編はコチラ

後編 ② 戯れては笑ひゑらぐ

天と地が分かれ、山河が整い男女が現れ結ばれて子孫を残す。やがて闘争や支配、統治に進む。
これを軸に様々な理に対する説明や、正当性の提示という枝葉を付ける。
時代の経過に伴い、世相思想を反映させ、後の人々の手による解釈や脚色も加わりながら、神話は整ってきたのだろう。(少なくとも日本の神話は)

物語が進むにつれて、人の感情の投影が増え、神々が徐々に人に

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天宇受売命という存在 前編

天宇受売命という存在 前編

日本神話の中でわたしが最も好きなキャラクターは天宇受売命(アメノウズメ)だ。
彼女の説話から、古い古い時代の素朴な神話の精神を垣間見る事ができるからだ。
さてその上で、後世①かかる説話から彼女の存在を薄めてしまったように感じられる事。②彼女の事を具体的には見出せずとも、強く彼女の存在を感じる事。このふたつの事象について、前後編にわけて書いてみたい。
それによって、わたしの胸中に湧く神話の世界観を、

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掌編 目の覚める赤

掌編 目の覚める赤

神話部お題 紅玉/ルビー
千文字以内掌編

掌編 目の覚める赤

バリ島。
流行りのパワースポットブームに乗ったわたしは、深い意味を知っている気になっていただけなのかも知れない。

「山のずっと上の方にゴツゴツとした古い岩がある。むろん火成岩じゃ。ただ普通の岩と違うのは…… 目がついておる」

今日訪ねたアグン山の麓。バリで一番高い火山だ。
通訳のガイドさんを通して聞いた、古い村の老人の話はこうだ

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閉じなかった神話

閉じなかった神話

異論はあろうかと思う。これは単なるわたし個人が感じている事であり、尚且つ上手く伝えられる気もしないのではあるが……

八百万の神々を人の暮らしの傍らに送り、それ自体はスメラミコトに繋がり閉じていった神代。そしてその後時を経て生まれた伝承や民話の数々。
職業集団の一種である『語り部』が奏上した神代ではなく、生身の人々の口と心が語り継いだ物語は、ある意味『閉じなかった神話』と言えるかも知れない。

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掌編 TABOO

掌編 TABOO

神話部お題 大洪水
千文字以内掌編

TABOO

海幸彦に借りた釣り針を失くし、代替ではすまぬ、探して来いと言われた山幸彦が、三年の時を経て陸に戻ってからいくばくかの時が過ぎていた。

ほんのかすかに潮がざわついていた。

「…… やはり、か」

海中に構える宮の中で静かに目を閉じる。
宮の主大綿津見神の目の奥で、山幸彦が使った潮満つ珠によって、水に溺れようとしている海幸彦の姿が浮かんだ。

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掌編 終末の時に

掌編 終末の時に

神話部お題 【薬】
千文字(以内)小説

 終末の時に

 そよぐ海風に揺れるヤシ。島の陽気は今日も上々だった。
 そろそろ日が落ち始める時刻になって、ケオニはのっそりとベッドから起き上がり、肘掛け椅子に体を預けていた。

「おじいちゃん、薬の時間だよ」

 孫のカイが声をかける。

「おお、カイ。丁度いい、イプヘケを持ってきてくれるか?」
「ん?なんでまた」カイが笑う。
「気分がいいんでな、叩き

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