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上半期に観た映画と良かった点を考えてみました

どんな作品においてもストーリーが重要だということに気づいてから脚本術の本を2冊読み、今年はすっかり映画鑑賞にハマってしまいました。結果として、今年の1月から6月末にかけて、とりあえず過去の名作を中心に計52本の映画を観てノートにまとめました。

2020年も上半期が終わり7月に入りましたので、これら鑑賞した映画の中から数本ピックアップしてみました。

また、本記事の性質上、若干のネタバレが発生するので映画の内容を知りたくないという方はご覧にならないようお願い致します

●上半期に鑑賞した映画一覧

『チャイナタウン』(1974年, 131分)
『マグノリア』(1999年, 188分)
『コールドマウンテン』(2003年, 154分)
『アメリカン・ビューティー』(1999年, 122分)
『コラテラル』(2004年, 120分)
『アウトレイジ』(2010年, 109分)
『アウトレイジ ビヨンド』(2012年, 112分)
『アウトレイジ 最終章』(2017年, 104分)
『マザー!』(2017年, 115分)
『菊次郎の夏』(1999年, 121分)
『惑星ソラリス』(1972年, 165分)
『白鯨』(1956年, 116分)
『オズの魔法使』(1939年, 101分)
『アマデウス』(1984年, 158分)
『仮面/ペルソナ』(1966年, 84分)
『パラサイト 半地下の家族』(2019年, 132分)
『ストーカー』(1979年, 164分)
『鏡』(1975年, 108分)
『市民ケーン』(1941年, 119分)
『北北西に進路を取れ』(1959年, 136分)
『レベッカ』(1940年, 130分)
『1917 命をかけた伝令』(2019年, 119分)
『ジェイソン・ボーン』(2016年, 124分)
『マイノリティ・リポート』(2002年, 145分)
『君の膵臓をたべたい』(2018年, 108分)
『天使にラブ・ソングを…』(1992年, 100分)
『ラ・ラ・ランド』(2016年, 128分)
『オールド・ボーイ』(2003年, 120分)
『万引き家族』(2018年, 120分)
『カサブランカ』(1942年, 102分)
『シャイニング』(1980年, 119分)
『ロリータ』(1962年, 152分)
『博士の異常な愛情』(1964年, 93分)
『ジョーズ』(1975年, 124分)
『フルメタル・ジャケット』(1987年, 116分)
『時計じかけのオレンジ』(1971年, 137分)
『フィクサー』(2007年, 120分)
『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年, 115分)
『ワンダとダイヤと優しい奴ら』(1988年, 108分)
『十二人の怒れる男』(1957年, 96分)
『摩天楼を夢みて』(1992年, 100分)
『戦艦ポチョムキン』(1925年, 75分)
『メリー・ポピンズ』(1964年, 139分)
『フィッシャー・キング』(1991年, 137分)
『テルマ&ルイーズ』(1991年, 129分)
『駅馬車』(1939年, 99分)
『雨に唄えば』(1952年, 103分)
『グランド・ホテル』(1932年, 112分)
『叫びとささやき』(1973年, 91分)
『欲望という名の電車』(1951年, 122分)
『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年, 142分)
『泣きたい私は猫をかぶる』(2020年, 104分)

●話題になった『パラサイト 半地下の家族』について

アカデミー作品賞とカンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを獲得し、Rotten Tomatoesで99%の支持評価を得るなどの高い評価を受けた、ポン・ジュノ監督による作品です。パルム・ドールとアカデミー賞作品賞の同時受賞は1955年の『マーティ』以来64年ぶりだそうです。映画として本当に素晴らしい構成で緻密に作り上げられており、

「この映画に出会えてよかった」

「映画鑑賞にハマってよかった」

と心の底から思えた作品です。

1. ギテク一家がパクの家で酒を囲むシーン

友人にこの映画を紹介するときには欠かさず薦めるシーンです。
ギテク一家はパク家の様々な役職に身分を偽って就くことで、文字通り「寄生」することに成功します。このシーンではピクニックに出かけたパク一家が、突然の豪雨によっていつ帰ってくるかわからないという不安を抱えた状態で続きます。

要素の見落としがあるかもしれませんが、このシーンではギテクたちの視点で、

「豪雨(プラスでもマイナスでもある)」
「パク一家のいつかわからない帰宅(マイナス要素)」
「ギテクたちのゆるんだ空気(プラス要素)」

という不安定な要素があります。
このシーンを見たときに「電話かインターホンが鳴って家族が帰ってくる」という解決を想定して私は観ていましたが、インターホンが鳴って画面に映ったのはなんと辞めさせられた前の家政婦でした。
このシーンの素晴らしいところは、大変難しい「シーンのマイナスからマイナスへの推移」を活用し、インターホンの音を皮切りに、半地下のさらに下の絶望的な環境である「地下」を登場させることです。

このシーンでは本当に打ちのめされましたし、映画鑑賞初心者の私が言うのもなんですが、監督の脚本に対する熱量や、並大抵ではない分析を基として形作られているということがハッキリと伝わりました。

2. 物理的な格差と精神的な格差

この作品ではところどころで、実際の格差を物理的な位置関係などで表現している印象がありました。

帰ってきた前家政婦を階段から突き落とすシーンでは、自分たちも中流階級以上の存在だと錯覚したギテク一家の精神状態と、中流階級以上の存在が実際に弱者をどう扱っているのかという表現であるようにも取れます。

また、ギテクの娘であるギジョンが大雨の影響で汚水が噴き出る半地下の自宅のトイレの蓋を無理やり押さえつけているシーンは、下層階級の主張に無視を決め込む人間という印象があります。

そもそもパク家の下には「地下」という絶望的な環境が広がっているわけですし、この「階級による上下関係」というイメージが本当に強い作品です。

主張したい内容に合わせて視覚的に状況を表現することで、気づかぬうちに登場人物の関係性がハッキリと分かるようになっており、素晴らしく丁寧に映像で説明されています。

●『泣きたい私は猫をかぶる』について

過去の名作はもはや私レベルの人間が語れるようなことはなく、当然名作なので最近の作品を上げることにします。

続いては、『ペンギン・ハイウェイ』で知られるスタジオコロリド制作、Netflixにて全世界独占配信された『泣きたい私は猫をかぶる』です。

常滑焼(とこなめやき)で知られる愛知県常滑市を舞台とし、白い猫に変身できるという秘密を持った中学2年生のムゲを主人公とした長編アニメーション映画です。

個人的には終盤の急いだような展開に若干疑問は残りますが、キャラクターの純粋な心情や葛藤が大変分かりやすい良い作品だったと思います。

作中に目立つこれでもかという丁寧な説明は、メインターゲットの視聴者層を考えると妥当なのだろうと思いますし、主人公が中学生であることから、この説明の多さが青さとして好意的にとらえられます。こうして考えると本当に脚本がよくできている作品だなと思います。

1. 人間社会と猫社会の対比

第一に本作のイメージとして個人的に真っ先に思い浮かぶのは「狭い空間」です。

ムゲはロフトベッドの下のカーテンがついた狭い空間によくいますし、柱に囲まれた円形の狭い空間で日之出くんと猫の姿で出会います。

また、ムゲの実母と父親の再婚相手が修羅場を繰り広げるシーンは、何とも言えない人間関係の狭さを感じさせます。学校という舞台もある意味狭い社会です。

この狭さが居心地の悪さとして、ムゲに猫として生きる道を選択させた原因の一つなのかなと思うと思わず同情をしてしまいます。

対して猫の社会を見てみれば、一つ一つは狭い部屋の集合ながらもドアがついていない部屋が目立ち、空間としてとても開放的です。ちなみに猫から戻れなくなった人間が集まっている場所は狭い店だったりします。
狭い人間の社会開放的な猫の社会がこれでもかというほど視覚的に表現されていたという気づきでした。

2. 終盤の展開について

唯一、終盤の展開が急ピッチで若干驚きました。

猫の姿から戻れなくなった元人間の猫たちが協力してくれた結果として、ムゲは奪われるはずだった寿命と人間の姿を取り戻すのですが、果たしてこの協力した猫たちには協力するだけの動機がどのように芽生えたのかという点だけが疑問でした。

簡単に解釈すれば、「人間の姿を取り戻そうとするムゲに過去の自分を重ねた元人間の猫たちは協力を惜しまない」ということになると思うのですが、もうちょっと融通の利かない厄介な猫がいても面白かったのではないかなと思ったりもしました。

協力が得られた結果として勧善懲悪のような構図に持っていかれるわけですが、これは主人公が中学生(子ども)であるという設定だからこそうまくいくのかもしれません。もし大人が主人公で、何もかも都合のいい環境で都合のいい勝利を収めているシーンなどがあれば、なにより不穏ですしグロテスクなシーンになります。

ある意味、少年少女を主人公として置く理由を考えさせられるきっかけにもなったシーンなのですが、やはり個人的にはもう少し葛藤が欲しくなってしまうところでした。

●視覚的に印象に残っている作品

分野は違えど私も映像を作っている人間なので、ストーリー以外にも視覚的な面で印象に残った作品が本当に多いです。中でも特に印象に残ったものを簡単に紹介させていただきます。

1. 『アメリカン・ビューティー』

第72回アカデミー賞作品賞受賞作品で、コンラッド・L・ホールがアカデミー撮影賞を受賞した作品です。

「僕の名前はレスター・バーナム。今年で42歳。あと1年のうちに死ぬことになる。」

というナレーションで始まる本作では、アンジェラのチアリーディングを見たレスターが恋に落ちる様を視覚的に表現したシーンがとても美しいです。

恋愛関係を感じさせる「2人だけの世界」とでも言えるようなシーンは『雨に唄えば』でも見られるのですが、本作では「アンジェラにのめり込んでいく」というような不安定さが強調されて感じられます。

2. 『ストーカー』

ストルガツキー兄弟による小説『路傍のピクニック』を原作とした、アンドレイ・タルコフスキー監督によるSF映画です。犯罪とされる「ストーカー」という言葉が日本語に定着する前の映画です。

隕石が墜落したともいわれる「何か」が発生した土地「ゾーン」には、願いをかなえる部屋があると噂され、そこに希望者を案内する「ストーカー」と呼ばれる人々がいるという世界観です。

本作ではモノクロとカラーの使い分けによってはっきりと「ゾーン」に入ったことが分かります。また、タルコフスキー作品に特有の美しい水の表現は抑えられ、映し出される水には文明の遺物や油が浮いています。

モノクロとカラーの使い分けによる世界の変化は「オズの魔法使」でも見られます。世界が変化したという表現として色を操るのは、見ていてとても面白い表現です。

3. 『仮面/ペルソナ』

イングマール・ベルイマン監督による、カール・グスタフ・ユングの概念である「ペルソナ(Persona)」をテーマに置いた傑作です。

かなり難解で正直私も鑑賞後すぐは全く意味が分からなかったのですが、しっかりと考察などを追えば、ある程度は理解することができます。本当に難しいのですが、同時に本当に美しいです。

舞台稽古中に原因不明の失語症を発症した女優エリザベートと彼女の世話を担当することになった若い看護婦のアルマの様子を、モンタージュや淡いコントラストで美しく表現しています。

4. 『時計じかけのオレンジ』

スタンリー・キューブリック監督による、アンソニー・バージェスの原作小説を基にした映画です。

舞台は近未来のロンドンで、暴力や性行為などの欲望の限りを尽くす荒廃した自由放任社会と全体主義社会とのジレンマを描いた作品です。

近未来表現としての独特な服装や、社会の流れを現す“芸術品”の数々が強く印象に残ります。過激な表現が多いため視聴する際は注意が必要ですが、映像表現として強いインパクトがある作品でもあるので気が向いたときにぜひ観ていただきたいです。

5. 『叫びとささやき』

イングマール・ベルイマン監督の作品で、第46回アカデミー賞で撮影賞を獲得しています。

長年闘病していたアグネスがいよいよ死期を迎えようとしているという場面から始まり、赤色をモチーフとして姉のカーリンや妹のマリア、侍女のアンナなどそれぞれの行動や心情などが表現されます。

特に45分頃、赤い部屋を照らす太陽が沈んだことにより、直接映されていないアグネスの死が分かる場面が印象に残っています。

●最後に

いくらでも書ける内容はあるのですが、長くなりすぎてしまうので今回はここまでです。やはり映画は実際に見るに限ります。

最後に、私がどのように観た映画をまとめているのかだけご紹介します。

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この画像は『時計じかけのオレンジ』をまとめたものですが、こちらの画像のように普通のキャンパスノートに

・かかわった人物の名前と出演者の一部
・豆知識的なメモ
・冒頭までの簡単なストーリー
・個人的な印象

をまとめています。基本的な情報はWikipediaで十分です。

また、個人的な印象では基本的に良いと思った部分か個人的な疑問しか書きません。

作品の欠点は見つけやすいですが、それが自分の解釈能力や知識の不足からきている場合が十分に考えられ、見つかりやすい割に何のためにもならないからです。対して良い部分は真剣に向き合っていないと本当に全く書けませんし、見つけられた時の喜びは凄まじいものがあります。

私もまだまだ趣味として映画をあさっている段階なので立派なことは言えませんが、映画鑑賞は本当に楽しいです。

「この映画がいいよ!」

といったおススメがあれば、ぜひ教えていただければとても嬉しいです!

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