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実は受験競争が激しいだけじゃない。韓国の学校教育のオルタナティブ=代案学校と革新教育。

2020年2月8日〜11日の間、3泊4日でEDUTRIP in 韓国を催行しました。コロナウィルスの影響もある中で、ギリギリなんとか、実施できたツアーでした・・・。もともと、この時期は韓国は学校は休みでやっていないため、今回は韓国の市民団体や教育系のNGOや施設、先生たちのネットワーク団体を訪ね、交流することが趣旨だったのですが、それが幸いし、予定していた全ての団体・施設を訪ねることができました。。今思うと、奇跡的なタイミングと、条件でした・・・。(この記事を書いている現在、日本も韓国も、感染が拡大中。日本は休校措置の真っ只中。)

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今回訪れた&交流させてもらったのはこんな団体や施設です。

●全国教職員労働組合(全教組)
●CIATE
●実践教育教師の会
●アハ!ソウル市立青少年性文化センター
●PEACE MOMO
●ソウル市立恩平青少年未来進路センター(クリキンディセンター)
※各団体・施設の概要はEDUTRIP in 韓国のリリースページを参照。
  
韓国に、EDUTRIPとして訪れるのは今回が3回目。毎回、現地コーディネーターは友人でもある曺美樹(Cho Misu)さんにお願いしていて、回を重ねるごとに、徐々に分かってきたことも多々。今回は、過去2回の韓国ツアーも振り返りながら、韓国の教育について、まとめられたらと思います。
(今回のツアーの振り返り記事というよりは、私自身がこれまで韓国の教育に触れる中で、印象に残っていることや、感じたり考えたりしていることのアウトプットだと思っていただければ。) 
 
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韓国の教育というと多くの人が「熾烈な受験戦争」を思い浮かべるのではないでしょうか。確かに、日本以上に厳しい学歴社会の韓国では過度の受験競争や就活による若者の自殺や引きこもりが社会問題化しています。

ですが、実はその一方で(だからこそというべきかもしれませんが)子どもの主体性を重んじ、平等で民主的で持続可能な社会を目指す教育を行う「代案学校」「代案教育」が盛り上がっている国でもあり、その一部は公教育のシステムの中に位置付けられています。また、近年では「革新学校」と呼ばれる、いわばオルタナティブ化を目指す公立学校が加速度的に増えています。さらに、各分野のNGO・NPOなど、市民活動も活発で、青少年の進路や性教育、環境教育など、社会教育や市民セクターによる教育実践の世界もとても豊かで、先進的です。

盛り上がる代案教育ムーブメント

 日本と韓国の教育制度と、その抱える課題はよく似ています。両国とも、教育支出を家庭の負担に頼っている部分が大きいために教育格差が広がっていること、また不登校・ひきこもりも社会問題化していることなどです。(ちなみに韓国でも、ひきこもりは、HIKIKOMORIと呼ばれます。日本語が輸出されているわけですね。TSUNAMI、とかと同じ。)

韓国では、メインストリームの教育が受験競争によってストレスの高いものになっているがゆえに、そうでない教育=子どもたち主体の学びや、協働的な学び、持続可能で平和な社会をつくっていける人を育てる民主的な教育=代案教育が、リベラルな市民の間で強く求められています。一定の条件をクリアした代案学校は、国からの認可を受けることもでき、公的補助が出ます。不登校の社会問題化を背景に、フリースクールが日本で生まれたのは80年代中頃。韓国で代案学校が増え始めたのはそこから10年ほど遅れてになりますが、今では公的補助の存在など、日本よりも進んでいる部分もあります
ちなみにですが、日韓のフリースクール・オルタナティブスクール・代案学校はお互いに結構活発に交流していて、教育実践や運動づくりを学び合い、互いの動きに生かしています。(後述するソンミサンマウル学校は、和歌山のきのくに子どもの村学園をモデルの1つにしていますし、サンマウル高校は埼玉の自由の森学園と姉妹校になっています。)

暮らし・地域・いのちとつながる

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韓国の代案学校の草分けの1つ、ソンミサンマウル学校は、住民主体のまちづくり運動の中で立ち上がった学校です。共働きの親たちの共同保育の取り組みに端を発し、自分たちの暮らしを自分たちでよりよく、持続可能にしていくために、アレルギーの子どもたちが安心して食べられるアイスクリーム屋さん、住居に困っている若者のシェアハウス、エネルギーを自給するためのソーラー発電など、「こんなのあったらいいな」「もっとこんな暮らしがいいな」というアイデアをソンミサンというエリアを中心に実現していっているネットワークのようなものです。テーマ(理念)で集まったコミュニティでもあり、でもこのエリアを中心にした活動でもあるので地縁コミュニティでもある、という不思議な共同体です。

そのまちづくりの流れの中で、住民たちが学校までつくってしまったのがこの学校。授業は、2〜3学年が一緒に学ぶ異年齢学級で、自分たちの生活に直結したテーマを、プロジェクト学習のかたちで学んでいきます。例えば、ある時私たちが訪問した際、初等部は「衣」「食」「住」の3つのチームに分かれて活動していました。「住」のクラスでは、学校にどんな遊び場、遊具があったら楽しいかを自分たちで考え、地域の企業と連携して実際につくる、という取り組みの真っ最中。他の学年も、街で拾ってきたまだ使えそうな家具や廃材のリサイクルをしたり、自分の家がどれだけ節電できているかのグラフをつくったり、はたまた地域に暮らす独居高齢者をサポートする方法を考えたり・・・暮らしとつながる実践な取り組みがたくさん。こういう活動が、学びの軸として据えられているのです。

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また、ソンミサンマウルのまちづくりにおいても、住民の主体的な活動が大事にされていることと重なり合うかたちで、子どもたちが参画し学校自治に取り組むことも大切にされています。ちょうど訪問したときは、中等部(7年生〜12年生)の子どもたちが学校でのルールを決めたり、行事の中身を決める全体会議(ファミリーミーティング)をおこなっていました。子どもたちが次々前に出てプレゼンをし、それに対して意見をしたり賛成の拍手をしたり、自分たちが学校の運営に参画するということが、すっかり文化として根付いている様子でした。

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つまり、この学校の学びとは、日々の暮らし・まちづくりと一体となった生き方創造の実践、というわけです。ここの子どもたちは、日々暮らす地域をフィールドに学び、学校と地域生活が相互に結びついた環境の中で育ちます。高校生ともなるとコミュニティ内の会社や職人さんのところにインターンにいったりすることも多く、その延長線上で、そこに弟子入りしたり就職して、それが卒業後の「進路」となることも多いのだそうです。
 
このような、地域での暮らし、生活、さらには「この社会で、地球で、生きていくということそのもの」について、考え、創造する教育をしているところが多いことは、日本のフリースクールやオルタナティブスクールと比較しても、韓国の特徴だと感じます。

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江華島にあるサンマウル高校は、全寮制で、政府から認可を受けている数少ない代案学校の一つです。全国から生徒が集まっています。山や田んぼ、畑など緑に囲まれてたとてものどかな環境で、サンマウルの意味が「生きる村」であるように、学校自体が小さな村のような構造で造られている、とてもユニークな学校です。学校運営における約40%が再生可能エネルギーを使っており、給食の材料のお米は自給自足でまかなっているというのは驚きでした。トイレはコンポストトイレ。学校を卒業した生徒たちが、そのまま地域で農業を始めたり、社会的企業を立ち上げるということもあるそうで、校長先生はゆくゆくはエコビレッジのようなものが学校を中心として生まれていくという夢を語ってくださいました。

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韓国の代案教育は、環境意識が高く、日常の暮らしと教育・学びを切り離さないということだけでなく、社会を変えようという意識と、教育を変えようという意識が、密接に結びついています。人権運動や環境運動、平和運動と、代案学校運動がつながっている、というか。日本の感覚からすれば、多分に政治的である、と言えると思います。

「小さい学校運動」から革新学校へ

韓国でも、地方の小さな学校は廃校の危機にあります。しかし、ある時そういう小さな学校は、カリキュラムをより自由に編成していいということになり、そこから「小さな学校運動」が広がっていきました。

子どもたちのペースや関心に合わせ、自主的・主体的かつ、対話的・協同的な学びを中心にする。子どもや保護者の声に耳を傾けながら学校運営自体を民主的に行う。というように小さい学校のメリットを生かして、よりリベラルな教育を進めようというものです。さらに、京畿道という自治体において、日本でいう教育長に当たる教育監が、選挙でリベラル派に変わったことをきっかけに、政策の力を得て、「小さな学校運動」の教育実践は、「革新学校」として、より明確に学校教育制度の中に位置付けられるようになりました。これは、代案学校の公立版、あるいは公立学校のオルタナティブ化とも言えるものです。
 
韓国では、上述のように教育監は4年に1度、選挙によって選ばれます。2018年の教育監選挙では、17ある地方自治体のうち、15の自治体でリベラル派の教育監が選ばれました。彼らが最も熱心に取り組んでいることの1つが、革新学校の実践を深化し、広めるということです。

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南漢山(ナンハンサン)小学校は、登山に訪れる人が多い世界遺産にも指定されている観光地に立地しています。地域に暮らす子どもの数が減ったことから廃校の危機にあったこの学校は、2001年から「競争や成果主義ではない学校、子どもたちが幸せに暮らせる学校を目指そう」という方針に大きく転換し、そのことによって学校を存続させることに成功しました。地域外から、この学校に通わせたくて、引っ越してくる人たちが現れたのです。公立校の枠組みの中で、内側からそういった変革を起こしていこうという「小さな学校運動」「革新学校」の皮切りとなった学校と言われています。

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教師、地域、保護者の間で、自律、経験、協力、進歩(リベラルの意)、生徒中心など重視する価値観を共有し、行事や施設やプログラムに、こどもたちの意見を取り入れることが大事にされています。また、授業は講義よりも活動的な内容が多く、話し合いがしやすいように机はコの字型に並んでいました。(これは佐藤学さんの「学びの共同体」の影響です。)
韓国で一般的な40分授業ー10分休みー40分授業という時間割ではなく80分授業ー30分休みー80分授業という設定にしているのも特徴。さらに、エポック授業という、長い期間をとり、あるテーマや教科を集中的に学ぶ、という学び方も取り入れているということでした。(これは、シュタイナー教育からの影響だと思われます。)

図書館は地域にも開放されています。自然の中で学ぶということも大事にされていて、裏山にも机と椅子が並べられていて、春になったらここで自然とふれるような授業はもちろん、教科の授業をしたりもするのだと教えてもらいました。芽吹いた木の下で勉強するのは気持ちよさそう…。

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ちなみに、革新学校界隈では、最近は特に「空間革新」というものに注目が集まっているそうです。教室の中だけではなく、子どもたちと教師と建築家が一緒に考えて、校舎全体の空間づくりを革新するというものだといいます。これに教育部(日本でいう文科省)が予算をつけているのだそうです。

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代案学校運動と革新学校運動は互いに学び合い、連携するかたちで、学校教育に影響を与えてきています。さらに、今では、教育部(日本でいう文科省)が出すナショナルカリキュラムにも、革新学校での実践がたくさん組み込まれており、革新学校は、公教育のリベラルな変化のモデルとなって、全国に広がっていっているのです。

公立高校生が代案学校で学べる画期的な仕組み
「オデッセイスクール」

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2015年からは、公立高校とフリースクールが、生徒の学びを共に支える「オデッセイスクール」という仕組みがソウル市で始まりました。これは、一般の公立高校の生徒が、高校1年生の1年間、ギャップイヤーのようなかたちで、または自治体内留学のようなかたちで在籍校を離れ、代案学校で学ぶことができるという仕組みです。代案学校に通ったことが、在籍校の出席として扱われるので、次の年度に在籍校に戻ると、2年生からスタートすることができます。

韓国の高校は受験によって高度にランク付け・序列化されてしまっているため、低ランクとされている高校には、学ぶモチベーションを持ちにくく、自尊感情の傷つけられた生徒たちが多く在籍しています。ソウル市では、教育監がこのことに問題意識を持ち、オデッセイ学校をつくったのだそうです。つまり、この1年間で、のんびりしたり、仲間と話し合ったり、手や体をつかって何かをつくったり、そういう経験を通して、自分自身を見つめ直し、学ぶ楽しさや意欲を取り戻し、自己表現をし、人と関わり合う力を身につけて、在籍校に戻っていく、というコンセプトです。

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受け入れをしている代案学校の1つ、「空間ミンドゥルレ」のオデッセイスクールは、ソウル市の図書館の中にあり、そういう意味でも、公と民の、柔軟で新しい連携が生まれていることがうかがえます。また、おもしろいことに、それらの民間の代案学校が運営するオデッセイスクールに公立高校の先生たちが出向して学び、彼らが中心となって運営する新しいオデッセイスクールも生まれているのだそうです。

このように、韓国のオルタナティブ教育、デモクラティックエデュケーション界隈の動きは、とってもダイナミック。公立学校の革新を目指す実践や運動と、民間の代案学校の実践や運動、その両者の距離が近いのも、日本と違うなあ、と感じます。日本と韓国。隣の国だからこそ似ているところも多いのですが、「全然違うなあ!」と思わせられることも。
ただ、日本の公立学校で実践が蓄積されてきた「学びの共同体」を、韓国の代案学校の人が学んでるのを知ったりすると、「ふつうの学校」でできることって、もっといっぱいあるんじゃないかなと思えてきます。それに、日本で、公教育の民主化を考えている人たちと、フリースクールやオルタナティブスクールの人たちって、やっぱりもっとつながれるんじゃないのかなあ、とも。
 
長くなってきたので、学校外の、社会教育施設や市民セクターによる教育実践のことは次回にまわしたいと思います。
(続く)


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