自分たちの力を引き出すためのFearless(不安や恐れのない)組織への取り組み3選
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自分たちの力を引き出すためのFearless(不安や恐れのない)組織への取り組み3選

はじめに

ミダスキャピタルは、世界に冠たる企業群を創りあげるというビジョンをもって設立された新しい形のプライベートエクイティファンドです。今回は投資先の一つであるSheepMedical株式会社のCTOである豊島さんにインタビューし、「自分たちの力を引き出すためのFearless(不安や恐れのない)組織への取り組み」を伺いました。

自己紹介

-- 自己紹介をお願いします。

SheepMedical株式会社CTOの豊島といいます。SheepMedical株式会社は、“100年楽しく生きる、新しい日常の提案者”というビジョンを掲げ、これまでの歯科矯正事業に加え、未病領域へ新たにアプローチすべく、社名変更を2021年6月に行いました。それに伴い、新規サービスの立ち上げとソフトウェアエンジニア組織の立ち上げを同時に行っています。自身の経歴としてはこれまでサービス立ち上げ期から参画することが多く、Tech LeadやPjMを務めてサービスのグロースに邁進してきました。また、エンジニア数名の規模から10倍以上の組織に拡大させるとともに、評価制度を整えるなどエンジニア組織の面でも取り組みを行ってきました。

自分たちの持っている力を100%出すために必要な「心理的安全性」

-- チーム・組織のパフォーマンスを最大化するために取り組んでいることや意識していることをお聞かせください。

取り組み自体は大小あるのですが、ベースとして意識しているのは「自分たちの持っている力が100%出せる状態を作れているのか?」という点です。
分かりやすい例でいうと、低スペックのPCが貸与されているせいで絶えずPCがフリーズして待ち時間が発生しているようなものです。これでは自分たちの力が十分発揮できる環境とは言えません。通常この手の問題は、現場から「仕事にならないのでなんとかしてほしい」という訴えが届くことが多いため、課題に気づきやすいでしょう。
一方で、気づきにくいものもあります。例えば、以下に示すような感情が起因となって行動しなかったというパフォーマンス低下現象です。これらは行動が表に出てこないため、気づけなかったり、気づいたとしても発見が遅れがちになります。

無知だと思われたくない → 必用なことでも質問をせず、相談をしない
無能だと思われたくない → ミスを隠したり、自分の考えを言わない
邪魔だと思われたくない → 必用でも助けを求めず、不十分な仕事でも妥協する
否定的だと思われたくない → 是々非々で議論をせず、素直に意見を言わない​

これらの感情と行動は、誰しもが心当たりがあるのではないでしょうか。これらの防止に心理的安全性の確保が役に立つとされています。
上記の4つは、心理的安全性の概念を打ち立てたハーバード大学エドモンドソン教授によって整理された、対人関係のリスクに関する4つのカテゴリ「無知」「無能」「邪魔」「否定的」とそれによって控えてしまう行動の例です(「心理的安全性の作り方: 石井遼介(著)」より)。

「心理的安全性」は誤解されやすい。対人関係の不安や恐れのないFearlessを目指す。

-- たしかにこういったことに萎縮している現場は自分たちの力が100%が出ていないと言えそうです。そのために心理的安全性が必要なのですね。

はい、そうだと考えています。
ただし、ここで注意したいのは「この概念が正しく理解されていないこと」があるということです。教授の最新著書「The Fearless Organization」によると以下のように書かれています。

「心理的安全性が過度になることはないか?」
これがたぶん、最も多く受ける質問だ。(中略)心理的安全性が過剰になることはない、と私は考える(規律正しさは少し欠けるかもしれないが)。心理的安全性とは、対人関係の不安を減らすことだ。(中略)顧客を失望させてしまうのではないかと不安に思ったり、競争相手の実力を恐れたりすることは、意欲を高める場合があるだろう。だが、上司や同僚を恐れることは、技術と顧客と解決策が絶えず変化する環境において役立たないだけでなく、悪影響を及ぼすリスクがきわめて高い。適切なタイミングで率直に発言されなければ、計り知れない損失を生んでしまうかもしれないのだ。

また、過剰な期待に対する誤解についても言及しています。

心理的安全性があれば、必然的に、仕事をやり遂げるための素晴らしい戦略を立てられるようになるわけではない。従業員が意欲に溢れたり熟練の腕を持ったりすることを意味するわけでもない。

心理的安全性を高めると、「低い目標で満足する仲良しのヌルい組織になるのではないか」という懸念は私も実際に何度か聞いたことがあります。そうではなく、高い目標に挑戦したり、素早い学習により組織の成長をうながしたりするために、必要となる土台のようなものだということですね。また、たちまち実力以上のすごい状態になるというものでもありません。
なお、個人的には上記の著書の中で教授が使っている「Fearless(不安・恐れのない)組織」という言い方が気に入っています。頭では分かっていても、つい「安全性」と言われると「そこそこで十分」となってしまいそうなのですが、「同僚や上司に対して不安や恐れを抱いていて萎縮している状態」というのはマネージャーとしては徹底的に取り除きたいという行動に繋がるからです。

取り組み① 人となりを知るのに偏愛マップを使う

-- 具体的にどのようなことをしているのでしょうか?

何はともあれ最初はお互いを知るという点が重要です。コロナ前であれば、昼食や飲み会等で色々な話をすることで人となりを知っていくということができていました。しかし、オンラインメインの働き方になった今はそれが少し難しくなっています。オンラインランチやZoom飲みを行うことがあるのですが、そのときに偏愛マップという自分が好きなものを描いて共有することで、お互いをより知ることができる工夫をしています。まだ関係性ができていない段階で色々と話をするのは緊張するところも多々あるでしょう。その際に、自分の好きなことであれば話しやすいのと、共通点が見つかれば一気に距離感が縮まるので非常に有効な手段だと考えています。興味のある方はWebで検索すると、実際に描かれた偏愛マップが多数閲覧できるので、参考にしてみてください。
なお、共通項を見つけやすいテーマは「好きな漫画」「好きなミュージシャン」「好きな映画」「好きなゲーム」「好きな食べ物」「よく見ているYouTubeチャンネル」「休日にやっていること」「出身都道府県」「行ったことがある海外の国」などです。

また、好きなこと以外にも、ストレングスファインダーなどで明らかになった自分の特性を共有したり、業務上の得意なこと・不得意なことを先に共有しておくと、その後のプロジェクトが進めやすくなります
前述の4つの対人関係のリスクとそれによって引き起こされることを皆で共有し、「この状態を避けたい」という共通の認識を持っておくことも有効です。

取り組み② 新しく参加した人にはペアワークを通して対人関係リスクを低減する

-- 他に取り組んでいることはありますか?

新しく参加した人には、ある一定期間、ペアプロなどのペアワークを行うことで、対人関係のリスクのうち「無知」「無能」「邪魔」の問題を軽減できると考えています。
1on1などでヒアリングしていると、オンラインになって相手の状態が見えない分、相談や質問をしづらく感じている人が少なくないことが分かりました。「分からないことがあったらいつでも聞いて」とは言われるものの、実際に質問する内容は厳選したものになっており、「本当はもっとカジュアルに色々聞いてみたい」と思っている人もいます。ペアワークであれば、常時接続したままで一緒に作業をすることから、ちょっとした質問や意見なども言いやすい環境になります。
ペアワークでなくても、 oVice  や Tandem といったバーチャルオフィスサービスを使い、話しかけやすい状態を作るのも有効かもしれません。

取り組み③ 脳のクセを共有することで建設的な意見交換の場をつくる

-- そういったことを通してFearlessな状態を作っていくのですね。では、ある程度の関係性ができたあとに気をつけるべきことはありますか?

そうですね、意見が出やすくなると、今度は議論が白熱してくることがあります。それ自体は悪くないのですが、A案 vs. B案のように相手に勝つことが目的になっては意味がありません。意見交換を通して、あるべき案に決着したり、A案もB案も包含するようなC案を思いついたりすることが重要です。特に後者のような案が出ると、一人では到達できなかった、チーム力の賜物であると感じます。もちろん、そう簡単ではないのですが。
そういった建設的な意見交換の場作りの前提として、私は この動画 をプロジェクトメンバーと見ることである共通の認識を作っています。時間もかからず楽しみながら取り組めますのでやってみましょう。

こちらの動画を再生すると、白いTシャツを着ている人のバスケットボールのパス回数を数えるよう、画面に指示が出ます。その後、白いTシャツと黒いTシャツを着ている人が入り乱れながらバスケットボールのパスをしている動画が30秒程度流れるので、実際にパス回数のカウントにトライしてみてください。

数えられたでしょうか?

ちなみに動画の途中で、ある動物が画面を横切っていったのですが、気づいたでしょうか?
パスの回数を数えることに集中するあまり、全く気づいていなかったという人がいたと思います。これは「選択的注意」と呼ばれるもので、人間の注意力は選択的であり、「なにかにフォーカスすると他のものが認識しづらくなる」という脳のクセです。
有名な動画なので、知っていた方も多かったかもしれません。

あるとき、A案 vs. B案といった議論になった際に「ゴリラを見逃す危険がありそうな雰囲気になっているから気をつけよう」と、あるプロジェクトメンバーが言って笑いが起きたことがありました。
A案かB案かという選択的注意状態から脱出できると同時に、とても良い雰囲気だったのを覚えています。
自分の案を通すために相手に対して「否定的」になるのではなく、また「否定的」になることを避けて意見を言わないわけでもない、建設的な意見交換のための場ができていたと感じました

なお、先程の動画には続編があります。ぜひ 次の動画 にもチャレンジしてみてください。お題はさっきと同じで、白いTシャツを着た人のパス回数を数えるというものです。こちらは案外世の中で知られていないようです。

数えられたでしょうか?

今回はほとんどの人がゴリラを認識することができたでしょう。
加えて、なにか異変が起きるであろうことは勘づいているため、追加の異変にも気づく人が多くいます。しかし、ゴリラ以外の追加の異変は1つではなく2つあるのです。「ゴリラ以外の異変が起きるはずだ」と注意を向けた人は1つ見つけて安心してしまって2つ目を見逃すのです。ここでもやはり選択的注意の罠にはまってしまうのです。

まとめ

本インタビューを通して、組織本来の力をしっかり引き出し、学習と成長をするための土台を構築するために、心理的安全性に着目している事が分かりました。
心理的安全性の概念を広めたGoogleの調査報告では、効果的なチームの要因を5つであるとし、その中でも心理的安全性は圧倒的に重要であると位置づけています。

Google re:Work - ガイド: 「効果的なチームとは何か」を知る

インタビューの中で紹介いただいた3つの取り組みは、楽しみながら取り組むことができるとともに、企業規模や事業ドメインに関係なく使えるものばかりで有益な情報でした。

参考文献


株式会社ミダスキャピタルのTechnologyチームが、最先端のテクノロジーやテクノロジー経営・ビジネスに関するリサーチを発信します。