【番外編】潰瘍性大腸炎に襲われたら-修正版-

 最近、悲しい報道がありました。私自身も潰瘍性大腸炎患者ですが、色々な辛さがあることは承知しております。
 そこで今回は、以前書いた note を修正し、初めて潰瘍性大腸炎の診断が下った方が見たときに、小さな光を見つけられればと思い上梓します。

 病気に関する詳しい内容は、最後にリンクを張っていますので、そちらをご覧ください。

1.確定診断に至るまで

 まずお伝えしたいのは【確定診断までは時間がかかる】という事です。初回でいきなり難病を言い当てることが出来るケースは稀で、特に初期にこそそうした傾向が起きます。
 私は受診初回で潰瘍性大腸炎(UC)と診断されました。その背景には、頻回の血便(30回/日)や体重の減少、超音波検査やX線での顕著な腸管肥厚があったからです。

ポイント1
「典型的な症状が無い初期は、確定診断まで時間がかかる」

2.大切な人が病に襲われたら

 次にお伝えしたいのは【家族にしか出来ないことがある】という事です。と同時に【家族には出来ないことがある】という事もお伝えしなくてはなりません。
 この事実は、医学の世界で古くからあります。その中でも「二重ABCXモデル」が分かりやすいと思いますので、ご紹介します。
 その考え方では
a. (患者)病気  
b. (医療従事者)医療資源
c. (家族)理解と知識

 が相互にバランスを取らねば問題が起きると考えます。
 そして、ここで重要なのは3者とも役割が異なるという事です。次に、それぞれの役割が担うべき事をご説明します。

ポイント2
「患者、医療従事者、家族はお互いに異なる役割を持つ」

3.(患者)病気

 患者は周囲からの理解医療従事者は患者の(病気に対する)理解家族は患者に対して支える辛さの理解を求めます。しかし、理解できないものを理解しろ、理解しようとするのは無駄なだけでなく、実は有害です。
 病で苦しむ今を理解することは、本人にも難しい。学術的には、感覚の共有が可能かという話になりますが、無理です。痛みすら、一人一人で感じ方が違うことが分かっています
 患者が理解すべきは「理解してもらうことは無理」という事です。
 病を知り、対処法を知るべきは自分です。今、自分の状態がどの程度の段階で、治療はなぜ必要か、安静にすべきか動けるのか。
 そして、その中には周囲に「正しく伝える」技術を身に着ける事も含まれます。医療従事者に自分の状態を伝える方法は、いくつかあります。
・手帳に排便回数や血便の有無を記載しておく
・気になる症状がある際は、メモなどに残す(あるいは写真を撮っておく)
・自分にとって不安や分からないことがある場合は、”何が”わからないかを聞けるようにしておく(例えば寿命は短くなるのか、進学、就職、結婚、出産などライフイベントは無理なのか等⇒答えからいうと、適切に治療すれば寿命は短くならず、ライフイベントが可能な患者さんも多く居ます)
 そして、自分が疲れていることへ正直になること
 闘病とはマラソンのようなものです。沿道の声掛けに、毎回笑顔で手を振っていては、途中で倒れます。出来ないことは出来ない。それをはっきりさせることも大切です。

 ポイント3
「辛さの理解を求めるのは無意味。必要なのは、それを客観的な指標として伝える力」
「無理はしない。病気の状態を伝えるべき相手は、医療従事者」

4.医療従事者として

 医療従事者が怠っていることの一つに、客観的評価指標の教育があります。例えば IBD では血便の頻度など分かりやすい項目もありますが、患者の苦痛で大きいのは睡眠時間の減少や体重、痛みの程度です。
 苦悶の表情や抽象的な SOAP で評価したつもりになるのは、止めなければいけません。痛みの評価は VAS を初め複数あります。これを診察時間に教えることが難しくとも、チームで工夫し伝えたり、血液検査や読影結果の意味を伝えるたりすることは非常に有用な事です。
 当然のように言われているチーム医療主軸は患者ですが、キーパーソンは家族というのは学部生レベルの話です。実際に実践することと知識には大きな溝がありますが、今一度自分の臨床態度を振り返ることは大切ではないでしょうか。
 患者主体の医療を提供し、そのキーパーソンとしてご家族への対処を今一度考えるべきだと思います。
(6/15追記)
 以前は具体的に書きませんでしたが、もう少し管理栄養士、看護師、薬剤師らの力を借りましょう。例えば食事に不安がある場合は、管理栄養士による指導をオーダーすることは選択肢ですし、薬局で薬剤師に伝えてほしいことを処方箋のコメントに入れておくことも現状は良い手なのではないでしょうか。
 また、私の地域では比較的活発に地域の医療従事者に情報発信することで IBD の理解を深めようとしているようです。専門医各位が多忙であることは重々承知の上ですが、5年先、10年先を楽にするためにも、教育に力を入れる時期だと思います。

 ポイント4
「枠を超え、固定概念を破り、患者を侮らない情報伝達を」
「できないはず、分からないはず、ではなく理解してもらい共に戦うチーム医療の主軸たる患者の立ち位置を今一度考え直す」

5.家族として

 最後にご家族です。
 まず、皆さんがご家族としてやろうとしていることが「自分のため」なのか「患者のため」なのか分けましょう。これが第一歩です。
 例えば民間療法を探し、のめり込む人が居ます。それは「私が治したい」が「患者に治ってほしい」よりも強くなっているはずです。
 患者さんに色々質問をするご家族もいます。病状が知りたい、苦しみを共有したい、話してくれないと分からない、分からない状態じゃ不安
 これは、私が医療従事者としてご家族に言っていることですが

「それは”ご家族の”お気持ちです。とても大切ですが、今、患者さんに対応できるだけの余裕はありません。どうか、私たちとチームで戦いましょう。ご家族に話しにくいことも、我々には話してくれるかもしれない。その逆もそうです。情報を共有し、共に向かうのは支える者たちが行う事で、患者さんにそれを強いるのは酷です」

 知りたい、共有したい、分からない、不安。これは、ご家族の気持ちであって患者さんの気持ちではありません。それらのために患者さんが負担を背負うべきでしょうか。
 ご家族が行うべきは「患者さんから知ろうとしない」事です。これは無関心を推奨するのではなく、情報を仕入れる先を変えるべきという話です。
 病に疲れ、苦しみ、不安に駆られるのはご家族ではなく、患者です。それを支える最善手は、一緒に歩こう!と腕を引っ張ることではなく、そっと隣に居ることではないでしょうか。
(6/15追記)
 患者が未成年の場合、保護者が情報をどのように仕入れるかは問題となります。しかし、基本的なコンセプトは同じで、保護者の方が知らなければならない情報は
・緊急時の対応(主治医と相談し取り決める、特に急激な腹痛や多量の下血、感冒時の対応など)
・薬を使用するタイミングと注意すべき副作用の兆候(薬剤師と相談し取り決める)
 の2点だと思われます。食事(管理栄養士)、就学支援(学校教員)、就労(患者会や行政支援など)、治療費(行政支援)など専門家は多岐に渡ります。
 ポイントは、最終的には患者が自分で出来るようにならなければならないという点と、保護者の役割は”全知”ではなく、強力な支援者であるという点です。

 ポイント5
「患者さんに余力はない」
「”したい”や”してあげよう”ではなく、患者さんが気付いた時傍にいる」

6.支える人に伝えたいこと

 私は、今回のnoteで全方位にきついことを言っています。
 というのも、私は自分の闘病で親と対立し和解まで時間がかかりました。 そのため親が心筋梗塞で倒れ自分が支える立場になった時、自分が出来る限りの支えとして
・医療従事者との情報共有
・行政への対処
・日常環境の確保、改善

 に努めました。既往や今飲んでいるお薬、手術歴などを伝えることや、好き嫌い、日常生活を伝えることは家族として重要なことです。
 行政への対処は面倒なことが多いのですが、適宜窓口を利用しアドバイスを受けることで難易度が変化します。
 私は医療従事者ですので、専門外の疾患とはいえ一般の方より担当医らと共通認識を構築しやすい部分はあります。
 ただ、私の立場はその時家族ですから絶対に余計な手出しはしません。従って、家族として、うちの親は年齢もあり1日3回の内服は難しいかもしれないこと、同居しておらず電話は私の職場が最も繋がりやすいことなどを伝えてあります。
 家族はやるべきことが多く、見返りは少なく、理解してくれる人も少ないという非常に辛い環境に陥りがちです。無理をせず、完璧を目指さず、頼れるところは頼る。これが、全ての立場(患者、医療従事者、家族)に共通することではないでしょうか。

ポイント6
「無理をしない」
「完璧を目指さない」
「頼れるところは頼る」

7.最後に-潰瘍性大腸炎でも夢を掴めます-

 私は、大学6年の時に発症しました。
 中程度~重症を行ったり来たりする生活は、とてもではありませんが幸福とは縁遠いものです。激痛に苛まれ、何度もトイレに行き、真っ赤に染まった便器と痛みによる吐き気を友に歩む人生は、耐え難いものでした。
 その後も膵炎や合併症に悩まされましたが、私を助けてくれたのは
・正しい知識
・信頼できる医療者
 でした。諦めず、資格を取り、学位を受け、大学教員と臨床をやり続け、健常者と比べ論文報数も、受賞歴も、決して引けを取らない自負があります。
 もちろん、耐え忍ばなければならない苦痛も沢山あります。しかし、今は治療選択肢が本当に増えました。かつて、ステロイドや5-ASA、一部免疫抑制剤しかなかった選択肢が、
抗TNFα抗体製剤(炎症を引き起こす蛋白を除去する)
JAK阻害剤(炎症を引き起こす蛋白を作れないようにする)
α4β7インテグリン阻害剤(炎症を引き起こす細胞が大腸に行けないようにする)
顆粒球除去(炎症を引き起こす細胞を除去する)
ブデソニド製剤(副作用の少ないステロイド)
 など、次々に増え、炎症が起きている部位に直接お薬を届ける技術も劇的に進歩しました。
 どうか、生きることを諦めないでください。
 新しい患者の皆さんが、生きることを諦めなくて済むように、幸せを諦めなくて済むように、多くの研究者や現場の医療従事者、そして何よりも患者が頑張ってきたのです。
 潰瘍性大腸炎は、適切な治療を見つけるまでに少し時間はかかりますが、それでも症状を抑えることが高頻度に成功できる難病です。実際、私は臨床的寛解状態ですが、食事制限も殆どなく、治療薬も定期的な点滴1種類と飲み薬1種類、注腸1種類のみです。
 今は痛みもなく、穏やかに、一日の排便回数も数回で済んでいます。
 未だ働いています夢もまだ追っています

 ですからどうか、諦めないでください。夢も、生も、大切なものです。

追記1

「本人から知ろうとせずに情報を仕入れるためには、又、非常に辛い環境に陥った家族が無理をしない為には、やはり、医療機関による適切な精神的サポートが必要だと思いました」

・現状は無理です。対価が支払われない以上、対応できません
・現実の落としどころは患者家族は診察の際に入室しない、退出時に挨拶程度で顔を出してもらい、特段変わりなければ「大丈夫ですよ」の声掛けの実でご満足頂く

 まず、ご家族が考えるべきは【なぜ無理をするか】です。そこをもう一度お考え頂きたいと思います。

追記2

「IBDの患者は病状の悪化に食事が関わると言われています。その為、未成年者の患者の保護者は「自分の作る食事がこれで適切なのか?」「自分の作る食事が原因で悪化をさせるのではないか」といった不安も抱えています。
食事は毎日の事です。
例え栄養指導を受けていても不安はあると思います。」

食事により悪化するという根拠はありません
・症状の悪化は複合的に起こり、これが原因という事はありません
・ダメだったら寛解まで再挑戦しないことが肝要
・不安の原因は”知らないから”、適正に”学ぶ”ことで不安は無くなる

追記3

「寛解再燃でのさじ加減はありますが

これが対象が未成年、
入院外だと
保護者の立場では
かなり難しい
幸い息子との関係性は良好ですが
うぐぐと頭を抱えてしまいました。」

・未成年者であっても、今後自分で病状管理をできるようにならねばならない
・個々に特性があるため一概には言えないが、個々に合った管理や報告の仕組みを一緒に作るのが親の仕事

追記4

「病気に関しては線引きが難しいところだなと思います。保護者側としては、手を放すための必要な情報なので、善意の質問と薄皮の正義と必要な情報は微妙に別かな?と思います。」

・必要な情報を患者⇒保護者へ伝えることは正しいと思います
・問題は、そのやり取りで患者が疲弊するなら別の方策を考えるべきという点(患者が一人で受診することが早い可能性や、口では面倒だがLINEは大丈夫という場合も)

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