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仁科亜弓「ただただ旅人だった私」 【静岡中部滞在まとめ】

こんにちは。作曲家の仁科亜弓です。2022年8月31日から9月6日の7日間。アーツカウンシルしずおか主催の『マイクロ・アート・ワーケーション(MAW)』に参加しました。

私は旅の前日まで、いろいろな書類を作り続けてしまっていました。将来の私のアート活動に向けての準備です。表現することの楽しさ、追求することの面白さを日常としたい私にとって、周辺を整える作業ばかりが続いてしまうことは、なかなか辛い時間となっていました。

8月の私は、長い休暇が用意されていることを糧に、マイクロアートワーケーションに参加することをとても楽しみに生きました。目的はシンプルに、アーティストとしての視点をもって、ただただ旅をすることに自然と決めていました。地域の人々と出会い、心を癒しながら、次の創作活動に向けての落ち着きを取り戻したいと思いました。

自己紹介を500文字ほど。
私は静岡市で生まれ、大学は新幹線通学で東京へ、大学3年のころから音楽制作が仕事になり、25歳ぐらいまで静岡と東京を移動する生活をしていました。その後、東京都港区を拠点とし、広告音楽をメインに作曲/編曲/サウンドデザインの仕事を続けています。
これまでの音楽作品については、こちら。
https://ayumi-miracle.com

大学では観光地理学・都市地理学などを学び、「ご近所イノベータ講座(港区×慶應義塾大学)」、「カルナラ・コレッジ(慶應義塾大学アート・センター)」、「5G・IoTデザインガ ールプロジェクト(ローカル5G普及推進官民連絡会・観光チーム)」などに参加し、音楽活動を続けながらも地理学への関心は続きました。5年前から、音楽制作において地方創生に関わる機会が増え、地域のイノベーティブな試みに興味を持ち、1年前から、音楽×観光イベント、音楽家の視点での地域コミュニティづくり、クリエイターのワーケーションを静岡で企画・運営しています。最近では藤枝市蓮華寺池公園で「草の上のピアノ」を主催しました。(草の上のピアノは公式ページを準備中。いつか更新いたします。)

草の上のピアノ_omote

草の上のピアノ_ura


前述で「ただただ旅人として過ごす」とした私の状況を伝えたく、自己紹介としました(そろそろ長い)。静岡への郷土愛や、地域のさまざまな面白さを受け止める素質をもって、溢れてしまう探究心とともに、6泊7日のマイクロアートワーケーションを過ごしてきました。音楽制作も、同様の行程で、関心の深さを持ち続けていると思います。気持ちのベクトルがそろっていることを感じながら、振り返りたいと思います。

「8月31日水曜日」(1日目)
静岡駅に到着。駅からすぐのホテル。いただいた入浴剤でゆっくり半身浴。明日はホストの方々、旅人の方々、地域の方々と元気に会いたいと思う。駅前のコンビニには、いろとりどりのクラフトビールがたくさん並んでいて、見ているだけでも楽しいイラストやコンセプト。聞いてみたところ、静岡にはたくさんのビール醸造所があって、いろんなカタチで地域活性化に関わっているんだそう。時間のあるときにもっと知りたいと思いながらも、たくさんのインタビューが掲載されている厚い冊子を手にいれる。この重たい冊子を1日目で手に入れてしまったのはほんのちょっとまちがい。最終日に取りに行けばよかったね。

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「9月1日木曜日」(2日目)
朝のジョギングはまっすぐ見通せる石田街道。信号のサインが同じ色で揃う。表通りにドアのあるバーには美しい白い猫が看板娘として座っていたけれど、ここは入り口ではないから裏口へ廻れとのこと。ホテルの朝食は静岡らしさがいっぱい。黒ぱんぺん、わさび漬け、しらす、静岡茶のお茶漬け。カレーが全国的に朝食レギュラーメンバーなことを、結局7日間ずっと確かめてしまった。ホストの方々と県庁21階展望ロビーに集合。参加者全員なんてやわらかでほわっとしている方々なんだろう、UFOの話でもりあがってみんなで一緒にかわいい時間になった。ここからマスクのなかでずっと笑って過ごすことになる。笑いすぎることができるからマスクはときどき良いなぁと思う。特別に市役所のドームに案内してもらう。人生においてここに入ることができるとは思ってなかった。静岡市街地の商店街はほんの少し移動するだけで雰囲気が変わる。ガイドの泉さんから変革期なのかもしれないという説明がある。変わっていくところも、変わらないところも、変えていこうと思うところも、変わらなくてもいいと思うところも、全部の視点のお話をしてくださり、たくさんの静岡愛を感じる町歩きがとても面白かった。CCCでは中野さんのNFT展示。同じ旅人の折口さんからもNFTについて丁寧な説明と活用をうかがい、新しい概念に久々のわくわく感。ランチは大学生とハンバーガー。インターン中の彼らから将来のはなしを聞くことは、とても鮮やかでにぎやかで、とても素敵な時間だった。私の学生時代は、もっと騒々しくて勢いが強い景色だったような記憶があって、おだやかに悩み、考えて過ごす彼らが、良い若い時期を過ごせていて良かったと思った。午後は、私の出身地でもある用宗へ移動。サブスクアドレスホッパーの滞在先へ。育っているときはなにもない町だったけれど、大人になるにつれ、感じられるものが素晴らしい町になった。同じように可能性を感じてくださっている家守の八木さんとは、語り合わずとも目の奥で同じ感覚を確認できていたように思う、と思うことにする。またきっと近いうちに八木さんをたずねるだろうと思った。会いたいと思っていたヒマラヤ登山の西川さんも滞在していて、用宗の小さな山について話せたことはトレイル好きな私にとって大収穫だった。大浜街道(いちご街道)のダイナミックな海岸線を通り、三保の松原へ。ホストの方々がサウンドを扱う方を選んでくださり、音を事業化している青木さんに会いに。青木さんは、サウンドサービスの開発だけではなくて、さまざまな事業に関わっていて、生き生きと三保のことを語ってくださった。なかでも三保の松原観光施設「みほしるべ」にあるお土産屋さんは、青木さんのセレクトショップとなっていて、どのお土産も個性的で、見た目も面白さもどちらのデザインもとても素晴らしいものばかり。三保はすこしアクセスが難しいところのように感じるので、ここでしか買えない感の高いお土産は購入したいものばかりで、とても迷ってしまった。晩御飯は、静岡市出身でありながら、一度も行ったことのない「おでん横丁」へ。折口さんと思い切って行ってみる。緊張して向かったけれど、観光地過ぎるらしさや、一見さんお断りみたいなものはなく、ほんとうにものすごくおいしいおでんと、地元の日本酒、あたたかな大将と女将さんとの会話を楽しみ、また次回、普通に来れる自信が持てた。次回はほんの少しの勇気をもって、ひとりでふらっと寄って同じくひとりで来ているお客さんと、ゆるりと話をしてみたい。折口さんからは、コンセプトアート、地域とアートを結んだ企画など、表現するだけにとどまらない刺激的で前衛的な創作についての試みが聞けた。もう一人の旅人、米原さんは、アートマネージャー。残念ながら会食がNGの環境にある方だったけれど、1日中、ホストの方々のあたたかなもてなしの時間のなかで、米原さんの選ぶ言葉や言語化、対話における瞬発力やタフさが、わかりやすく深く伝わってきて、とても頼もしい方だと感じた。たくさんの出会いに感謝する日でした。

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「9月2日金曜日」(3日目)
昨日、県庁の展望台で、静岡市と焼津市の間にある難所、大崩海岸から静岡平野を見るのも面白いと提案があったので、つい自転車で大崩海岸を通ることに。続いて島田市商店街で東海道を感じる街並みを散策。NPOクロスメディアしまだの運営するC-BASEを訪問。クロスメディアしまだは、さまざまなまちづくり事業、アーツカウンシルしずおかの事業でもある無人駅の芸術祭、地域情報誌cocoganeなど、大きな事業が多いのにもかかわらず、どこか心にしっくりとくる地域活動をしていることを感じて気になっていた。きちんと対話を重ねてコンセプトを整えていても、そのハードルや緻密さを感じさせないあたたかなイベント、ただ単に面白くて新しい視点のものを提案するのではなく地域に寄り添っている運営の話を聞くことができて感動した。いろいろと学べる講座や参加する機会の用意もあったので、今後も情報を受け取っていきたいと思う。もうひとつ気になっていた島田駅前サンカク公園プロジェクトへ。プロトタイピングをコンセプトとしてシェアキッチンやイベントを続けている場所。なんとかなりそうかもと思えるような手が届く規模で、場所が後押ししてくれそうな良いロケーションだった。もともとなにもなかった公園を、地域の人たちでステキな場所に変えていくことを、とても楽しめただろうストーリーに夢があるなぁと感じられた。大井川方面へ向かい、世界一長い木造歩道橋「蓬莱橋」を夕暮れを楽しみながら渡る。渡り終えてからは森の中をさまようルートになり、暗くなり始めていたので少し怖かった。森を突破した後の茶畑は、どこまでも広がっていて、とても美しかった。晩御飯と入浴を駆け足で済ませて、どうしても諦められなかった富士山静岡空港の滑走路を見に行く。だいだらぼっち公園への道のりは真っ暗で、蓬莱橋の森を迷い歩いたことより3倍ぐらい怖い思いをした。誰もいないことはいつも本当に怖い。茶畑越しの夜景はとてもキレイだった。最終便が轟音で頭上を過ぎた。

「9月3日土曜日」(4日目)
早朝。藤枝市。プロギングに参加。プロギングとはゴミ拾い(PlockaUpp)とジョギング(Jogging)を合わせたスウェーデン発Newフィットネス。「発見!」「ナイッスー!」と声をかけながら、みんなでランニング5キロ。思っていたより元気で明るい交流のイベント。ここにはなにかのヒントや未来があると思う。すぐには思いつかないけど。東海道でもある藤枝市白子商店街の100円笑店街イベントを散策。たくさんの人がこの日限定のワンコインプライスに集まり活気付いていた。チンドン屋さんが毎回来てくださっているそうで、複雑なパーカッションの装置に目をうばわれる。演奏の呼吸は油断させるようなゆるさでありながら、ブラスの方々としっかりと息が合っていて、とても楽しそうだった。ただ単に音楽の話が聞けて面白かった。藤枝駅まで瀬戸川周辺を散策。何匹もの大きなタニシが長い触角を揺らしながらゆっくりと歩いている水田地域を歩く。橋と橋の間にあってアクセス的に不便な場所。また、誰もいなかったけれど、透明感のある水流の音がとても心地良かった。藤枝市の中山間、瀬戸谷地区で、サプライズ花火大会があるという情報をもらう。コロナ対策として当日まで情報が出回らなかったそう。バス30分400円。駅からしばらく止まるバス停が少ないと感じていたら、山道にはいったところで、たてつづけに連続してバス停が連なり、降車ボタンを押すタイミングが難しいと感じて緊張が高まった。無事に降りることができ、ちょうど花火が始まり、キッチンせとやで人生最高ランクの唐揚げを食べながら、たくさんの花火を観ることができた。何年ぶりかの花火に、地域のみなさんの喜びが感じられた。これまで当たり前だった日常が、またいつか日常でなくなることを予想することが容易になり、一期一会を噛み締めたいと思った。健やかに会えることの大切さを、語らずともほのかにお互い感じることができる時間となった。


「9月4日日曜日」(5日目)
ホテルオーレ藤枝の2階にはストリートピアノが常設されている。女の子たちが、楽譜を検索しながら互いのリクエストにこたえて、ピアノを弾いている。静岡駅へ移動。ブレイクビーツ音楽劇「わが星」を観劇。プロデューサーの柚木さんから、若い方々のチャレンジを地域でどう支えていくか、盛り上げていくかのお話を聞く。音楽についても同様に考えるべきことだと感じる。人宿韓酒場にて、ホストの黒田さん、三輪さん、旅人の折口さん、アーティストの中野さん、静岡デザイン専門学校の関係の方々と晩御飯。店員の女の子たちと店内で流れているK-POPについて語る。彼女たちを励ましている音と音の周辺の要素をおしえてもらう。中野さんの作品をふたたびCCCに見に行く。室内であるのに、前回の昼間と今回の夜間とで受け取り方が違うのが不思議だった。中野さんの作品の前に立ち、中野さんがおすすめのアングルで、写真を撮影していただいた。本人から見えている視点、作品の捉え方、適切な立ち位置などを知ることができて、とても貴重な時間と写真になった。

「9月5日月曜日」(6日目)
ホストの方々、地域の方々、旅人による「意見交流会」。私のパーソナリティだと思っていた自分らしさのいくつかが、静岡らしさとして発見され、思っていた以上に自分が静岡人であったことがわかり驚いた。方言のような自然とやっているところ、意識しないレベルのところに静岡人らしい性格や考え方があった。2時間話していたけれど、みんなまだまだ話し続けることができそうだった。有機無農薬玄米和食「レベッカ」で、旅人3人でランチ。とても美味しい。おしるこもとても美味しかった。ワーケーションを経て、地域にとっても私たちにとっても、今後の活動がどうなっていくか、ヒントを受け取ったり、提案を思いついたり、旅人どうしの話も尽きないものだった。別れが重なり、とてもさみしい気持ちになってしまう。昨日を清水で過ごした米原さんのお話がとても面白く、ここで解散になる米原さんの体験に添ってみたくなって、それを確かめに、清水へ折ちゃんと散策に行くことに。新清水駅を降りて、ノスタルジックな静鉄の踏切を見ながら、とてもおいしいフレッシュジュースや、ソフトクリームを、地元の方々から「おいしいでしょ」「やすいでしょ」と声をいただきながら楽しむ。アーケードのある商店街はなかなか立派な作りで、大衆劇場があったり、車椅子やカートのレンタルがあったり、ストリートピアノも常設されていた。かつての賑わいが想像できるような閑散具合ではあったけれど、いまも清水の方々のアイデンティティを感じるような場所になっているのかなと思う雰囲気だった。清水港を歩き、三保はやっぱりちょっと遠い、青木さんのお土産売り場に次回はフェリーに乗って行ってみたいと眺めて、静岡駅に戻る。

「9月6日火曜日」(7日目)
最終日は新蒲原駅へ。駅からはしばらく海岸線を歩く。海岸への入り口で地域の方と話したあと、この日もまた1時間ほど誰とも会わない時間になった。静岡平野からはひとかたまりの山に見えた伊豆半島は、蒲原からは山のひとつひとつが連なっているのがわかって美しかった。貸切の状態で広く大きな海岸を歩くことはとても贅沢な時間だった。トライアルパーク蒲原へ到着。BBQやサウナ、シェアキッチン、イベントスペースがあり、いろいろな試みに対応していく施設。「草の上のピアノ」の提案もスムーズに話を聞いてくださり、実現できそうな気配になった。新蒲原の駅へは、工場群と東海道蒲原宿を通って戻った。宿場町の酒屋さんでは、珍しい珍味「イルカのスマシ」のお話をしてくださり試食させてくれた。宿場町で立ち寄ったすべての施設の方々が、やさしくあたたかだった。


7日間のまとめ
ただただ旅人をするつもりだった旅も、地域の方々が受け入れてくれる心地良さから、こちらもさまざまなことを受け取りたいと思い、たくさんの人と出会って話して、心を癒す旅になった。こんなに一人での長旅は初めてで、いくつかひとりぼっちを感じすぎる瞬間があったけれど、わたしの孤独や探究心に寄り添ってくれる人や町に出会えていたと感じ、とても嬉しく思う。丁寧さをもって向き合う大切さを実感できる旅になった。今後の創作や、アートに関する活動に、このあたたかな空気をもって表現できることがあると思う。誰かを思い描くような、地域を感じるような、思いをたぐるような、そういった感触が手やカラダに残っている。地域に還元できるような循環的なものになるような作品や事業として整えたいと思う。

今回ホストの空き家買取専科の黒田さん、三輪さん、大学生インターンの木村さん、志賀さん、静岡市街地をガイドしてくださった泉さん、用宗アドレスホッパー滞在先家守の八木さん、三保でさまざまな事業を手がける青木さん、同じ旅人の米原さん、折口さん、たくさんのお気遣いをありがとうございました。とても楽しい時間になりました。今後のみなさまの活動も楽しみにしています。ひきつづき、よろしくお願いいたします。