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Salesforceはインフラ企業の夢を見るか

先日、Salesforce社がインフォマティカの買収を検討しているというニュースが流れた。CRMの企業がなぜデータ連携の企業を? と疑問に思った方もいるかもしれないが、ここにはSalesforce独自の戦略が見て取れる。本稿ではSalesforce社が何を考えているのかを、その買収戦略から読み解いていきたいと思う。通常のクラウドベンダーとは一味違う戦略を持っており、インフラエンジニアの方にも興味深い内容になっていると思う。


SaaSから垂直統合サービスへ生まれ変わる

筆者がSalesforceの名前を最初に聞いたのは、2000年代中頃だったと思う。すでに日本にも進出していて、かなりユーザ企業の獲得に成功しつつあった頃だ(Salesforceの設立は1999年。AWS設立よりも前なので、自前でクラウドを展開していたことになる。これも凄い話だ)。その時は「営業の人が使う顧客パイプライン管理のツール」くらいにしか思わなかったので、当時データベースを専門にしていた筆者は特に気に留めることはなかった。HerokuというPaaSが少し気になるかな、という程度だった。

次に同社の名前を目にしたのは約10年後の2018年だった。そのころ筆者はiPaaSについて調査していて、MulesoftをSalesforceが買収したというニュースを聞いてびっくりした。なぜCRMの会社がデータ連携企業を? と疑問に思ったのだが、ちょうどSalesforce社から直接ブリーフィングを受ける機会があったので、その疑問はすぐに氷解した。SoRの様々なデータソースからデータを吸い上げてSalesforceが主戦場とするSoEへの橋渡しをするつもりなのだ。

Mulesoftを使って様々なデータソースからデータを吸い上げる

iPaaSとは何か

ここでiPaaSという耳慣れない(と思う)言葉が出てきたので少し解説しておきたい。iPaaS(Integration Platform as a Service)は、複数のクラウドサービスやオンプレミスなどで管理されている独立化したデータを一元的に連携するためのソリューションで、昔SOAやESBと呼ばれていた分野のクラウド版と考えると分かりやすい。APIエコノミーのハブとなる中心的サービスである。Mulesoftはこの分野のリーダー企業だった。筆者はこの分野は、なかなかクラウドシフトが進まない日本企業でもハイブリッドクラウド構成でDXを進められるソリューションとしてハマるのではないかと思って注目していた。実際に日本側にも紹介して、無事事業化にこぎつけたので、感慨深い技術である。

iPaaSのイメージ図

SalesforceがMulesoftを買収したことの意図自体は、すぐに理解できた。ただのCRM企業からデータ分析企業に生まれ変わろうとしているのだ。この理解は、同社がTableauを買収したことによってさらに裏付けられた。Mulesoftでデータを吸い上げてTableauで可視化するという算段だ。SalesforceにはEinsteinという業務系AIもある。フロント側はこれとTableauで万全だ。学習データはMulesoftでかき集めてくるとして・・・あと足りないのは・・・データベースだ!

データストア - Snowflake

Salesforceの動きは速かった。2020年にSnowflakeへ530億円という巨額の出資を行いパートナー契約を締結したのだ。

データベースは筆者の専門分野であり、Snowflakeにも注目して追いかけていた(筆者の所属企業も後にSnowflakeとパートナーになる)。なぜSalesforceはこうも筆者の行く先々で先回りしているのだろう? もしかしてストーキングでもされているのかな、と思ったりしたものだ。このころになると、Salesforceという企業に俄然親近感が湧いてきていた。サービスを使ったことは一度もないのに、奇妙な話だ。筆者はこのころ、いずれSnowflakeもSalesforceが買収するのではないかと考えていたが、Snowflakeは上場の道を選び、史上最大規模のIPOを行った。今のところ買収の動きはない。だが今後もありえるシナリオではないかと思う。

ここまでくると、冒頭で述べたインフォマティカ買収を検討している意図もはっきりしている。データ連携という意味ではMulesoftに似ているが、インフォマティカは伝統的にETLと呼ばれるバッチ型のデータ連携に優れる。オンラインのMulesoft、バッチのインフォマティカと使い分けるのだろう。最後のピースが揃ったわけだ。

上から下への垂直統合

普通、クラウドベンダはIaaSからPaaS、さらにSaaSとしたから上へ向かってサービスを拡充していく(もちろん最初からSaaSの一芸特化型の企業もあるが、そういう企業は普通下に出ていく動きはせず、業務ドメインの中での位置を確固たるものにすることに注力する)。だがSalesforceはその逆だ。上から下へ降りていく動きをしている。そのうちHWベンダを買収して独自のGPUを作り始めても筆者は驚かない。ユニークな戦略だが、一貫性があり、野心的でもある。買収に積極的だが「何考えてんのかわかんねえ」という動きはしない。非常に合理的な会社だと思う。

まとめると、Salesforceのやろうとしていることは、

Einstein - Tableau - Mulesoft/Informatica - Snowflake

という形でデータ分析基盤を作り上げ、顧客をエコシステム内に囲い込むことにあるのだ。壮大な夢である。AWSやAzureとは一味違う、SaaSベンダの生き残り方の一つの完成形ではないかと筆者は高く評価している。

Salesforceは360度でお客様を完全包囲します

余談

最後におまけ話を一つ。筆者は米国滞在中に偉い猫のお供でサンフランシスコにあるSalesforceの本社ビルにお邪魔したことがある。特徴的な形をしたランドマーク的なビルで、最上階のラウンジからベイエリアを一望できる景色は圧巻だった。ここでMulesoftのブリーフィングを受けたのを思い出す。

特徴的な形をしたSalesforce本社ビル


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