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スモールの実践 〜自然と人間の営み〜

先日、生活協同組合のみなさんと一緒に、山梨県大月市初狩町で味噌つくりをしてきました。米麹をパラパラにばらす、塩を揉み込む、大豆をミンサーですり潰す、全部樽に入れて腰を入れてまぜっ返す。普段とは違う五感の使い方に心が洗われたひとときとなりました。近くの畑でネギを収穫しましたが、土に触ったのも久しぶりかもしれないです。麹と塩は購入したものだが、その他は自分たちで育てたものとのことです。朝から仕事して、みんなでお昼に食卓を囲み、昨年同様につくった味噌で作る味噌汁をいただいきました。普段は大きな生産・消費の流れのただなかで生活しているぶん、こうした小さな生産・消費の流れに身を置くことは心地が良いです。日々の生活や時間の使い方や生産・消費行動を人間(自分自身)の処理能力や身の丈にあったように節度を保つ、無理がないようにしていくことにつながります。


人間の営みを小さく節度を保ったものに回帰していくことを、私は「スモールの実践」(Small、小さい)と呼びたいです。いまから約50年前にイギリスの経済学者である、E.F. シューマッハーが『スモール・イズ・ビューティフル 人間中心の経済学」という題の本を出し、当時広く読まれたそうです(本著の中で経済学と仏教を繋げている点も興味深い)。小さくあることは美しい、人間の営みが小さくあるときにこそ、手に触れる関係性が生じ、精神的な豊かさ、仏教的な現在充足性(いま、ここ、この場所、この人々で満たされる感覚)につながると思っています。まさに、Small is Beautiful。

またシューマッハーの経済思想を受け継いだ、イギリスのシンクタンクNew Economics Foundationの『Plugging the leaks』論文にもありますが、地域経済循環の観点からも、小さく生産と消費が域内で還流することは、その地域が健全に持続可能になることにつながります。これがSmall is beautifulの物質的な豊かさ。




一方で、大きな生産・消費の流れがこれまでもたらしてくれた豊かさも過小評価や否定することはできないと思っています。大きな流れ、直接的な言い方をするなら、資本主義的な生産・消費の様式が生み出してきた財・サービスが私たちの暮らしを豊かにしてきた側面があります。スタートアップが指数関数的な成長仮説のもとに膨大な資本(capital)を惹きつけ、それをもってFastにScalableに便利な財やサービスを開発・提供してきたおかげで、私たちのいま見ているパソコンやスマホもあります。その他多種多様な生活必需品に類するものも、この大きな生産様式で生まれています。それらがなかった時代に戻ることは想像できないです。

ただし、大きな生産・消費の様式には大きな問題があります。人間の欲望を過度に引き出し、人間のdecency(節度)を失わせ、資本(capital)は生産過程で自然、労働(人間)に負荷を強いていて、帰結として環境破壊や過労死、ひいては格差の固定につながっているように思います。負の外部性を低減していくことが、グローバルな多国籍企業、投資家、資本家に求められる時代になると思います。まさに、Big is responsible。大きなものには責任が伴う、そんな時代です。

そして、大きなものが自制をすることが難しいときには、ひとりひとりが、有権者として、消費者として、労働者として、(個人)投資家として、日々の生活の中での選択で正しい方向に「投票」(voting)していくことが大事になります。私はこうした行動を小さな民主主義とか、日々の暮らしの民主主義くらいに呼んでいます。

Small is beautiful. Big is responsible. 両方があって、我々の暮らしが持続可能で豊かになるように思います。そしてその前提となるのが、人間自身とその営みにおいてDecency(良識、節度)を保つことが重要なのではないかと思います。それを、ビッグやファストな生活に寄り過ぎている私たちにバランスを取り戻し、Decencyを日々の生活から身につけていくのが、スモールやスローの実践になるのかなと理解しています。まさに、Small and Big, its combination is sustainable。

こうした観点から、ラテン系の国で盛り上がりをみせる、オルタナティブな暮らしの在り方、社会的連帯経済(Social and Solidarity Economy)に関心を持ち、ここ数年研究をしています。実践として、山林をテーマにしたCOOP設立も準備しています。

「社会的連帯経済を語るには、その土地とそこの人々同士との具体的な関係性に基づくこと」

「社会的連帯経済とは、その土地とそこの人々同士が結びついた形の生産・労働・消費などの人間の営みのありかた」

このようなことを念頭に、昨年社会的企業研究会でお話しましたので、ご関心あれば動画や資料をご覧ください。またスモールの実践と対応した、スローの実践も大事で、先日ブログにまとめました。

当面の研究テーマはこちらです。
Human-centred Approach: Small is beautiful. Big is responsible. Its combination is sustainable. And people’s decency matters.
Believe in people, and update our social contract!



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