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一番悲しい空

6年くらい前のお話。

母親とはこんなもの、という私個人の思い出話です。

ある休日の夕方。私と長男は二人で新宿におりました。5時になるかならないか、くらいでしたが、早めの夕食をとり、私たちはタカシマヤタイムズスクエアの広場の、植え込みの石垣に腰掛けておりました。長男が東北地方の赴任先(今は静岡)へ帰る電車の発車時間まで、時間を潰していたのです。

お腹もいっぱいで、お茶でもと思いましたが、どこもかしこも待ち時間がかなり必要。別段喉が渇いているわけでもないので、この辺に座って休憩しよう。となったのです。

多くの人波。目の前をたくさんの人が、ドラマのワンシーンのように通り過ぎていきます。楽しそうな女の子達、カップル、仕事なのかスマホ片手のサラリーマンの姿や、小さい子らを連れていささか疲れ気味の若いパパママも。

私たちは何を喋っていたのかな。あと30分くらいで、遠くへ向かってしまう長男に、仕事の話はしません。<何か>を避けるように私は、取り止めのない事を話します。 
蒸し暑いね、あーお腹いっぱい食べすぎたね、あんなバッグほしいなぁ、最近首が凝っててね、・・・・・・

そう。今の話。過去は思い出話に下手するとなってしまいますし、未来の話は別々の場所へ引き裂かれる思いの私には、望ましくありません。

賑やかな雑踏、人々の笑い声、それが一切私にはミュートされていて、それを見ているようで、見えていない。心の目は別のものを見つめています。自身の<胸の痛み>を。

ふと都会のビルに囲まれた、空を見上げました。まだ日は暮れていませんが、グレーだったことを鮮明に覚えています。

涙を堪えるために見上げた空。
その時の曇り空は、今までで一番「悲しい空」でした。その30分が本当に長く、本当に短く感じました。長男はポツポツ私に相槌を打ちながら、スマホをいじっていました。

そんな長男も、自分の人生を強い意志で、切り開いていくことができるようになりました。忙しいながらも、自分を大切に生きてくれています。

昨日のことのようにあの日のことを思い出したので、書き留めました。



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