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SaaS事業の成長を支える「サクセス・イネーブルメント」 イベントレポート

カスタマーサクセスの他社事例を勉強するために、こちらのイベントに行ってきました。

イベント主催のCustomer Success Cafeは他にもイベントを開催されていて、以前にもレポートを書きました。
▶︎ CSは、事業の進化の担い手? Customer Success Cafeイベントレポート

Customer Success Cafeについてはこちら。

今回のイベントのテーマは「サクセス・イネーブルメント」。セールス・イネーブルメントを元にした造語だと思います。趣旨は以下となります。

カスタマーサクセスの活動をより良いものにしていくためには、継続的な改善と仕組み作りが重要です。「カスタマーサクセス」を「イネーブルメント(できるようにする、有効にする)」にしていくための取り組みを推進している方々のお話から、自社のあるべき「サクセス・イネーブルメント」を一緒に考えていきましょう。

以下では、興味深かったポイントを中心として、登壇者の方の話をまとめていきます。


Sansan株式会社 山田 ひさのりさん
「Sansanでオンボーディングの都市伝説を検証してみたよ」

・オンボーディングに失敗した顧客はどうなるのかを知りたいと考え、オンボーディング、チャーン、ヘルススコアの相関を分析した。
・オンボーディングの成否はヘルススコアに相関があり、健全性のスコアは1.8倍〜2倍の開きがあった。このことから、やはりオンボーディングは重要であると確認できた。
・優良顧客案件とチャーン案件のヘルススコアを比較すると、「名刺枠消化率」(ヘルススコアの指標の1つ)に明確な差が現れたので、「チャーン因子」として特定し、サポートのKPIとして設定した。
案件の分析から、オンボーディングとチャーンは以下の繋がりがあるのではないかと考えている。
 1.  オンボーディングの失敗はベースを下げる
 2. ベースを下げることが、最大チャーン因子を引き下げ始める
 3. 最大チャーン因子が「顧客期待値の限界」を超えた時にチャーンへと発展する

Sansan山田さんの話は、実際の案件分析を元にして筋道が立っていました。本論の前提となっていた、Sansanのヘルススコアの枠組みは精緻に組まれています。

以前の資料ですが、p.19,20でDEAR FRAMEWORKに触れられています。

ヘルススコアのうち、Adoption要素に着目し、その中の「名刺枠消化率」という項目が他の項目と振る舞いが異なることを見出したというのが今回のポイントでした。

特に興味深かったのは、「名刺枠消化率」以外のAdoption要素は、チャーン案件と有料顧客案件においても年数とともにスコアが上昇していることです。ヘルススコア要因の中ではサクセスしていなくても上昇傾向にあるものもあるので、しっかりと分析的にデータを見ることの重要性を再確認しました。

また、本筋と直接関係はありませんが、会場では「優良顧客を利用年数が長い顧客と定義する」との説明が響いていました。ヘルススコアでサクセスを定義すると、サクセスとヘルススコアが「ニワトリと卵」になってしまうので、優良顧客の定義に悩んでいるサービスが多いのかもな、と考えさせられました。

株式会社マネーフォワード 今井 義人さん
 「SaaSの顧客エンゲージメント」

・経費精算のサービスは、オンボーディングは大変だが、一度導入されると会社の運用プロセスに組み込まれるためチャーンは少ない。
・チャーンは少ないものの顧客の満足度が真に高いのかを疑問に持ったことから、エンゲージメント調査に力を入れた。
・BtoB向けのNPSの活用では、BtoBならではのExperienceに沿ったエンゲージメント調査が必要そう。
・意思決定や購買プロセスを考慮してエンゲージメントを測定し、アプローチの優先順位づけをした。
・経費精算の場合は、意思決定者・管理者・従業員の階層に分け、導入プロセスにより各層の満足度に特徴が出やすいので、各場合におけるカスタマーサクセスの方針を用意している

MoneyForward今井さんのお話は、すぐにでも取り入れられそうな実践的な知恵がとてもたくさんありました。

意思決定者が購入主導した場合(「トップ満足型」)では、管理者・従業員の満足度が低くなりがちなため、管理者に対してPJのゴール定義の再確認を丁寧にしたり、現場のトレーニング支援をするとのこと。また、管理者が主導した「管理者満足型」ではトップへの成果報告を支援し、「現場満足型」では現場NPSを管理者にフィードバックして、管理者に現場の評価をしっかり伝えることを重視しているとのことでした。

直接は触れられていなかったですが、全体として管理者へのフィードバックやサポートが手厚めだったのが個人的には印象的でした。おそらく「経費精算」という業務では、管理者が価値実感をどれくらいできるかが重要なプロダクトだからだと思います(意思決定者は自分では経費精算をしないことが多いので、業務上のペインの解像度が低く、単なるコストでの価値判断が中心との話もありました)。プロダクトの性質によって、どの階層のサポートを手厚くするかも変わってくるはずです。

質疑応答で触れられましたが、経費精算のサービスではチャーンをKPIとして持っておらず、導入をしっかり進めることとトラブル(炎上)をしないことを重視していたとのこと。特に、機能的に「できる/できない」のトラブルを減らすために顧客との認識を揃える力を入れているそうです。

株式会社スマートドライブ 島 友美さん 
「導入時の目的別オンボーディングで顧客努力を軽減していきたい!」

・車の移動を「見える化」して業務改善を支援するサービスで、活用方法が各企業・部署ごとに大きく異なっていた。
・導入目的が多様だからこそ、<導入目的ー理想的なアクション>を3つに整理した。
・導入目的に沿って知りたい情報を知りたい順番で伝えることで顧客努力の低減を図る。
・導入目的と機能の利用状況から、取るべき理想のアクションを定義し、提案のステップを整理する(→オンボーディングメールを送信)
・徐々に新しい可能性に気づいてもらうような提案型のオンボーディング活動を行う。

スマートドライブ島さんの話は、いろんな可能性があるがゆえにコアバリューと定めきれていないサービスのカスタマーサクセス奮闘記でした。

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https://smartdrive.co.jp/business/ より。サービスがかっこいい

ポイントとなるのは、<導入目的ー理想的なアクション>を3つに整理したこと。3つに絞る際の基準は、お問い合わせが多いことと、自信があるストーリーが作れることの両者を兼ね備えていることとのことだった。

特に印象的だったのは、理想のアクションの実現のための活用方法を伝えるオンボーディングメールの改善のプロセス。最初は機能を網羅的かつスモールステップで紹介するために複数回に分けていたものを、改善後は1つの導入目的に絞り配信。開始日に基本ステップを送信した後は、リマインドメールとしての役割と実際の稼働状況のフィードバックする役割のために複数回に分けるように運用を変えたそう。導入目的に絞ってメールでのコミュニケションを図る方法はすごく参考になりそうだと感じました。

atama plus株式会社 中下 真さん
「atama plusのCustomer Success:サービスの代替ではなく、ビジネスの変革を支援する」

・学習をパーソナライズすることを支援するサービス。塾の先生が活用して、少ない先生数でも質の高い学習(学力向上)を実現。
・現在の顧客は、大手塾。当初は、導入とともに教室長が使い方に困るのではないかと予想し、利用方法のサポートを行なった。
・結果として、使い方の理解は深まったが、教室長がatama+を活用してくれなかった。
atama+を使うことで、塾の現場は「生徒個々の理解度はまばらだが、進度が揃う」授業設計から、「生徒個々の理解度は高いが、進度はまばら(できる人はどんどん進むが、つまづくとしっかりと学ぶ)」授業設計へと変更を余儀なくされる。つまりatama+の活用は事業を変革することであり、教室長の独断での活用は難しかった。
・カスタマーサクセスを「事業変革」と定義。個社課題(各塾や教室特有の課題)と共通課題(普遍的に直面する主に戦略的な課題)に大別し、それぞれの課題解決施策や担当スタッフを配置して、一緒に解を模索する体制にして、徹底的にサクセスをサポート。

一連のストーリーでのダイナミックさが際立っていたのがatama plus中下さんのお話でした。変革までサポートしきるために、サービスが導入されたら何が起きるのかをつまびらかに観察し分析することの重要性をとても強く感じました。

また、マネーフォーワードのお話と同様に、登場人物が複数階層に渡るところもポイントでしょう。atama plusの場合は、路線変更した後には経営層に焦点を当てて徹底的に課題解決を考え始める、リソースの集中ぶりがすごいです。セールスの話ですが、大手塾に絞って導入を進めているのも合わせて、atama plusの戦略の大きな特徴だなと感じます。

まとめ

全体を通して、データ分析・エンゲージメント調査やヒアリングなど方法は多々あれど、実際にどう使われているのかの解像度を上げていくことの重要性について、それぞれの角度から触れられていたのかなと思います。

テーマである「サクセス・イネーブルメント」という観点では、「サクセスとは何か」と「誰にとってのサクセスか」ということをしっかりと定めることと、サクセスにどう至るかのストーリーをしっかりと伝えることが第一歩となるのではないでしょうか。

テーマと直接関係のないところでは、各プロダクトの対象とする業界や、企業規模によって、個々の施策や、重視すべきKPIが大きく変わってくることを感じることができました。ですので、このように他社事例をしっかりと勉強することと同時に、自社の領域における要はなんなのかをしっかりと考える必要があることを痛感しました。







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