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【建築とブランディング】UNIQLOはsacaiやPradaと並んだのか

「物づくりとマーケティング」をテーマに有益な情報をお届けするnote。

初回の記事では普段マーケターがあまり触れないであろう「建築」の魅力を通じ、本来の「ブランディング」のあり方について論じたい。

つい先日のニュースで、ユニクロが大型の店舗を2か所オープンしたと報じられた。銀座と横浜にオープンした店舗は大型でかつ、独特の形態であることは一般的なニュースでも取り上げられている。
ところが、建築に詳しい人間がこのニュースを見るともう一歩踏み込んだ意味があることに気づく。

ユニクロは、所謂高級ファッション・ブランドにはみなされないがスター建築家を起用することで、ブランドとしての価値を上げる次のステージに進み、USP(比較優位)をより強固なものとした。と筆者は考える。

どういうことか?「建築家」と「ブランド価値」の側面から論じる。

藤本壮介とユニクロ・パーク

横浜の店舗「ユニクロパーク」は藤本壮介が手掛けた。藤本氏は10年前にもユニクロの店舗(心斎橋の設計)も手掛けたが、今回の店舗はより藤本氏の建築の特徴が現れている。本来であれば明確に区切られる中と外、部屋と通路といった空間を、彼の建築の場合は大胆にも壊し、緩やかに繋げる。パリコレブランドとして今では世界中にファンを持つsacaiの南青山の店舗も彼が手掛け、オープン当初は話題となった。

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sacai 青山店

ヘルツォーク&ド・ミューロンとユニクロ・トウキョウ

銀座の店舗「ユニクロ・トウキョウ」はスイスのヘルツォーク&ド・ミューロンが手掛けた。この建築家ユニットはsacaiの店舗から程近い、南青山のPradaやMiuMiuの店舗の設計で知られている。彼らは建物の表層の仕上げが独特だ。南青山のPradaを例に取ると、ガラスが蜂の巣のように建物を覆い、日光や室内の光の当たり方で建物の見せる表情が変わる。

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Prada青山店

では、ユニクロのようなブランドが有名建築家を起用し、店舗を作ることにはどんな意味があるのか?単なる話題作りや「インフルエンサー」マーケティングの範疇を超えた、長期的な「ブランド価値」を作り上げるという点から見てみたい。

ブランド価値とブランディング

ユニクロは、sacaiやPradaなどのコレクション・ブランドと並んだとは言えない。

無数のファッション・ブランドが存在する現代において、ブランド側は様々な手を使い競合との差別化を図る必要がある。ではなぜユニクロは作家性の強い建築家と共同するという手段を選んだのか。

ファストファッションが台頭し、機能的に申し分のない服が当たり前に手に入る今の世の中で、消費者が何かモノを買うためには、「安い」以外の「そのブランドを買う理由」が必要となる。専門用語を使うと、企業は消費者のインサイトを読み解き、ブランド・プレファレンスを上げる戦略が必要となる。そしてこの取り組みが、一過性のイベントや単発の広告といった「戦術」で終わってしまわない為に、「ブランディング」が必要となる。

本来、「ブランディング」とはブランドと消費者の接点(広告コミュニケーション、PR、店舗デザイン、WEBデザインなど)における、「ブランドの見え方やあり方」を規定する広義の概念である。

しかし巷では、あちこちで「ブランディング」という言葉があふれている。「インスタでのブランディング」「ブランディング・ムービー」などと聞こえはいいが、そんな一過性の要素だけで「ブランド」が作れるなら、世の中ルイ・ヴィトンだらけになっているはずだ。

建築とブランディング

「ブランディング」とは本来表層的なロゴや装飾をいじる事だけなく、長期的・戦略的に作り上げていくモノ。それは=信頼ともいう。クリエイティブ・ディレクターの小霜和也氏によると、

「自分はブランドを「気持ちいい記憶」と定義しています。ブランドロゴはその記憶を貯めておく器、あるいは記憶を呼び醒ますトリガーです。」

「記憶」は視覚だけに止まらない。化粧品であれば香りが重要であったり、小売店の商業空間(=建築)としての快適さやデザインの面白さが重要であったりする。これらを含めたトータルでの「記憶」が積み重なって「ブランド」となるのだ。

まとめ

実店舗を出す際、企業にとっては1から建物の設計を依頼するとなると、投資する金額も、施工にかかる時間も含め莫大になる。ましてや、PL上の短期的な利益や、売り上げを追いかける風潮が強い昨今では、作家性の強い建築家を起用しリスクを負ってまで「独自性」を求める企業は少ない。

しかし、歴史に残るような「良い建築」とは時を超えて「人々の記憶に残るもの」であることが多く、そう考えるとブランドや企業の長期的な価値を伸ばす必要がある局面においては、建築家と共同して新しい店舗を作るのが最も費用対効果が高い場合もある。

「建築」や「建築史」というレンズを通して、改めて「ブランディング」を考えると新しい発見があるのかもしれない。

参考文献


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