見出し画像

647/1096【読んで想像して】『きみの青いボール』

吾輩は怠け者である。
しかしこの怠け者は、毎日何かを継続できる自分になりたいと夢見てしまった。夢見てしまったからには、そう夢見る己を幸せにしようと決めた。3年間・1096日の毎日投稿を自分に誓って、今日で647日。

(この毎日投稿では、まず初めに「怠け者が『毎日投稿』に挑戦する」にあたって、日々の心境の変化をレポートしています。そのあと点線の下「本日の話題」が入っているので、レポートを読みたくないお方は、点線まで飛ばしておくんなましね。)

647日目、疲れていて、目が開いていない。心眼でこれを書いている(つもり)。もう今日は、スペックが異様に下がった状態でなにかを書いてここに晒すしかないという絶体絶命の(大袈裟)局面にある。

でも書こう。あとから見たら、笑っちゃうかも知れないし、嫌~なきもちになるかも知れないけれども、疲れた日にはいつも張り巡らされている何かがゆるんで、とてもおかしな、自分でも「へえ~」と思うような何かがぽろりと出てくるかも知れないから。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

サムエレはママの小さな独り言が聴こえてきたから、ポーチに出た。ポーチにはこのあいだのひどい雨のせいで庭の泥がたくさんはねてしまったから、その泥が乾いて、かかとを引きずると線ができる。

サムエレは線を引いているうちに、かかとでサッカーのゴールを描こうと思った。すると、ポーチの柵の向こうに、青いビロードの帽子をかぶったおじさんが歩いてきて、こう話しかけてきた。

「ボクチャン、どうしたんだつまらなそうな顔をして」

「・・・・・今日はアンジェロと遊べないの」

青い帽子のおじさんは、そうか。と言ってポーチの柵に沿って歩いてサムエレのそばに来て、じゃあおじさんと星づくりをして遊ぼう、と言った。

「ボクチャン、もし地球から遠く離れたところに、知らない星をつくるのなら、きみはどんなところにする?」

「え?知らない星?僕がつくるの?」

「そうだよ。ただの空想さ。だから好きに考えていいんだよ。きみたちはすぐに真剣になるんだから。きみのつくる星だから、きみの好きにしていいんだよ、ずっと、どこまでもね!」

青い帽子のおじさんは腕を軽く丸めて、まあるく大きな星を抱えているみたいな仕草をした。サムエレは、おじさんはやさしいのだと思った。

「わあ!真剣じゃなくてもいいのなら、いくらでも考えられるよ!」

サムエレは急に目を輝かせて石の柵から飛び降りてそう言ったあと、急に顔を曇らせた。革のブーツに閉じ込められた足には豆ができているのに、いつも忘れて飛び跳ねて、痛くなってから思い出すのだ。

「そこは、パパもママも先生も見に来るの?僕がつくったって言うの?」

「そんなことはボクチャンの好きにすればいいじゃないか。言っただろう?きみの好きにしていいんだから」

「そんなことも好きにするの!怖いくらいだよ!」

「真剣にならないで、真剣に考えるんだよ、わかるだろう?」

「うん、よし!」

サムエレは目を見開いて息を吸い込み、それから下唇を少し内側に丸めて、その上に小さく舌を出して空を見上げて、ポチポチとジーンズのポケットの上を叩いてからこう言った。

「まずね!僕はかわいい動物が大好きだから、動物をつくるよ!猫をつくる。猫の追いかけるネズミもつくるよ!」

「そうこなくちゃだ!それからどうする?」

「それから・・・そうだ、僕はひとりじゃさみしいから、人がいっぱいほしいよ。それで、、、それはみんないい人なんだ」

「いい人って、どんな人だい?」

「そう言われると、わからない・・・意地悪をしない人。意地悪なことを思わない人。ああ!でも・・・・・・」

ボクチャンは空を見上げるのをやめて、汚れたポーチの石畳を見つめて、かかとで小さな土塊をじりじりと潰し始めた。

「でも?」

「僕のママは意地悪なんだ。僕のママはアンジェロのお母さんのイザベラが嫌いなんだ。だからイザベラがくると、お話をやめて帰っちゃうんだよ。イザベラが悲しそうなのに。ママは、僕がアンジェロと遊ぶのもいやなんだ」

「ママはどうしてイザベラが嫌いなんだい?」

「アンジェロが僕のことをバカにしたからだよ。貧乏だって・・僕たちがもっと小さかったときに。そのときアンジェロが僕のボールをダメにしちゃったの。僕はびっくりしただけなのに、ママはそれを見て、泣いて僕を引っ張って家につれて帰ったよ。あの子の家のほうがもっと貧乏なのにって。あのとき、腕が痛かった。それからママはずっとアンジェロたちに意地悪なんだ」

「ははは、そうか。ママはボクチャンのことが大好きなんだね。ママは意地悪なのではないかもしれないよ」

「えっ」

枯れたと思っていた木に芽が出ているのを見つけたときのように、サムエレはそれを信じられないまま驚いたという様子で、瞳を縮めておじさんを見た。

「ママが意地悪じゃないって?!そんなことがある??なんてことだろう!ああ、ねえおじさん、すごいね!!ねえ、神さまもそう言うかな!!」

サムエレはポーチを出て、夕陽にあたりながら下草の膨らみを避けるようにして庭を歩き出し、すぐに引き返してきた。

「ほんとうだね!ママはただ、僕が好きなんだ。僕を好きだと、そのせいで嫌いなものも出てきちゃうんだね!ママは僕に意地悪な人が嫌なんだ。僕とおなじで、ママも意地悪な人が嫌いなんだね!」

両手を胸で組んでサムエレは続けた。

「ねえどう思う?みんながそうだったら!みんなが僕のママと同じで、意地悪なんじゃなくて、ただなにかを好きだから、そのせいでどうしても嫌いなものが出てきちゃっただけだとしたら・・・・・!そうだとしたらすごいことだよね?みんな少しも意地悪じゃないのなら、僕には嫌いな人がいなくなっちゃうよ!」

そこまでを、翼を広げるようにして、胸の下から大きな声で話していたサムエレは、そこでまたいっしゅんのあいだピタリと表情を止めた。

「でも、おかしいね、それは。それじゃ僕には、好きな人もいないのかな」

おじさんは考えるサムエレをしばらく見守った。そして少し間をおいて、

「いいだろう?みんなが好きなら、みんなを好きでいればいい。自由の星さ!そうしてみんなを好きなら、そのために”みんなじゃないなにか”を嫌いになるのかも知れないだろう?」

青い帽子のおじさんは、杖を上下させたり丸を描いたりするようにして元気に動かしながら言った。サムエレはおじさんが杖を持っていたことに驚いた。サムエレは木の杖をはじめて見た。

「そうだね!それでいい!じゃあ僕はその星に、今ここいる人をみんなつくるよ!サラミ屋さんもお菓子屋さんも!」

そしてサムエレはまた雲を眺めながら、ちっとも雲のことなど考えないで、次のアイデアを綿あめのように膨らませはじめた。

「それで、あとは海もつくるよ!自然もつくる!キャンプに行けるところをつくるよ!パパと釣りをするから!あとはね、、、」

「いいな!しかし、太陽がなかったらそれらをどうやって見るんだい?」

「ああ、そうだ!!太陽もつくるよ!いつも晴れていてほしいけど、いつも晴れだと木が死んじゃうから、雨も降ってね、、、それから、そうだ、僕は大きくなったらサッカーのリーグに出るから、サッカーボールもつくらないと。ボール屋さんも!」

ボール屋さんを抜け目なく思いついたことが嬉しくて、サムエレは左手のてのひらに右手の拳をぶつけて、パチンといい音を鳴らした。するとおじさんは楽しそうに、ちょっと不敵な笑みを浮かべてこう言った。

「ほう、そうか。では、きみが大きくなるのなら、そこでは人は歳を取るのかい?」

「うん!!僕は早くおとなになりたいんだから!」

そこまで答えて、ボクチャンは、ああ、ダメだ!と言った。

「ダメだ、どうしよう。年をとったら、みんな死んじゃうね。
・・・・・みんなが死んじゃうのが、僕が決めたせいだなんて嫌だよ」

おじさんはこんどは杖を動かさないで、両手を乗せてポツンと立てて、ふむ、と鼻を鳴らしてからサムエレを覗き込んだ。

「じゃあどうしたい?どうすればいいと思うかね?」

「わからない、、みんないなくならなければいい。死んでも死ななければいい。天国に行って、、、そうだ!地獄なんてなくて、天国しかなければいいよ!ねえどう?これはいちばんのアイデアでしょう!」

「はは!そりゃあいい!そらならばそうしよう。それからどうだ?」

サムエレはさっきのアイデアに興奮して、先を考えられなくなった。天国しかなかったらいい!誰も死なない!また生まれてみたかったら生まれてもいい!こんなアイデアを考えたことは、一度もなかったぞ!

「天国しかないなら、僕はあとはなにをつくればいいんだろう!天国をつくったから、安心していられるよ。もうみんな大丈夫だもの!」

「そうか。するとこうだな?猫がいて、ネズミがいて、動物がいて、今いる人がみんないて、太陽があって、海があって、だろう?サラミ屋さんも、お菓子屋さんもあるぞ。それから大事なことは、ボールだったな。あとは地獄はなくて天国しかないんだな?ボクチャンのつくる星は、こことずいぶん良く似ているね」

「あ・・・・!そうだね、ほんとうだ・・・!
・・・・・僕はこれまで、そんなにここが好きだったんだな。嫌いだと思っていたのに。それに、今はこれまでよりももっと好きだよ!おじさんと話して、ママも意地悪じゃないってわかったし、嫌いな人もいなくなっちゃったもの。そう思ったら、ここはもう天国みたい!」

「それじゃあ、さっきの星に天国を加えなくても、もうここは好きなようにつくった星とまったくおなじじゃな」

「・・・なんておかしなことだろう、僕は好きなようにして考えたのにね。そう考えたら、この地球はまるで、『僕の星』みたいだ・・・・」

サムエレがもう一度空を見上げると、もう夕陽は陰り始めて、雲は青くなってきていた。もうお家に入らなきゃ。

「おじさん、僕もうおうちに入るよ」

声をかけてみると、あの青い帽子のおじさんはそこにはいなかった。そしてどうしてなのか、おじさんのいたところには、りっぱなサッカーボールがあった。

サムエレがボールをひろうと、空はますます青く、サッカーボールの白いところに濃い水色の影を作った。

おじさん!!僕のボールなの??この青いボール、僕のものなの??これで、遊んでいいの・・・・?

「明日はアンジェロとサッカーだ。それから、ここは僕たちの星だって教えてあげるんだ」

ママが信じなくたって構わないんだ。サムエレは背筋が伸びているのを感じて家に入った。ドアを開けるときに、ママの瞳が青かったことを思い出しながら。

(終) 

今日はまったく話の内容のわからないままに書き始めてみると、短い創作になりました。なんだか涙が出て、書き終えて不思議な気分です。どなたか、響き合えるお方がおられますように。読んでくださってありがとう。
それではまた、明日ね!!

【オフィシャルサイトです】

オンライン個人セッションや、オンラインサロンのご案内ほか、さまざまな情報がチェックできます!ぜひ見に来てね。


毎日無料で書いておりますが、お布施を送っていただくと本当に喜びます。愛と感謝の念を送りつけます。(笑)