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ナーディー・ショーダナ・プラーナーヤーマ(nadi shodhana pranayama)について①

●ナーディー・ショーダナの語源と意味

サンスクリット語のナーディ(nadi)とショーダナ(shodhana)という2つの言葉が組み合わさってできている。

・ナーディ(nadi)
【言語】サンスクリット語
【意味】プラーナの通る「道、管、脈管」のこと。「気道」と訳されることもある。

・ショーダナ(shodhana)
【言語】サンスクリット語
【意味】浄化する。



したがって、直訳すると、「気道を浄化する」という意味になる。

ナーディー・ショーダナは『アヌローマ・ヴィローマ』という名前で呼ばれることもあります。

●ナーディーの数

ウパニシャッドやヨーガの教典によって、1000本、72,000本、350,000本など記述の違いはあるが、無数にあると言われている。またその中でも重要なのは、10本、14本、15本などと言われているが、その中で特に重要なナディは、イダー、ピンガラー、スシュムナーの3本と言われている。

●特に重要と言われる3つのナーディー

①スシュムナー
アージニャー・チャクラを上端、ムーラダーラ・チャクラを下端にして、ちょうど脊椎のように身体の中央を通っているが、脊椎そのものではない。その途中に各チャクラが点在しているといわれる。沢山あるナーディーの中でも最も重要なものと言われている。覚醒したクンダリニーはこのスシュムナーを上昇する。イダーやピンガラーの優劣に偏りがなく、バランスよくプラーナが流れていると、スシュムナーにプラーナが流れる。

②イダー(ida)
・ムーラダーラチャクラから始まり、スシュムナーを交差するようにしながら通り、左鼻孔に終わる。

・左鼻孔から始まり、スシュムナーを交差するようにしながら通り、ムーラダーラチャクラに終わる。

・ムーラダーラチャクラから始まり、スシュムナの左側を走って、左鼻孔に終わる。

といったように複数の説があり、チャンドラ・ナーディー(月の気道)、ヴァーマ・スヴァラ(左の流れ)とも呼ばれる。

【イダーの特徴】
・左鼻腔
・エネルギー的観点:受動的なエネルギー
・質:精神的
・温度:冷たい
・惑星:月
・西洋医学的観点:副交感神経、右脳に働きかける


③ピンガラー(pingala)

・ムーラダーラチャクラから始まり、スシュムナーを交差するようにしながら通り、右鼻孔に終わる。
・右鼻孔から始まり、スシュムナーを交差するようにしながら通り、ムーラダーラチャクラに終わる。
・ムーラダーラチャクラから始まって、スシュムナの右側を走って、右鼻孔に終わる。

といったように複数の説があり、スーリヤ・ナーディー(太陽の気道)、ダクシナ・スヴァラ(右の流れ)とも呼ばれる。

【ピンガラーの特徴】
・右鼻孔
・エネルギー的観点:能動的なエネルギー
・質:肉体的
・温度:温かい
・惑星:太陽
・西洋医学的観点:交感神経、左脳に働きかける。


(注)イダーとピンガラーの交差地点をチャクラとチャクラとする経典もあれば、チャクラで交差するという教典もある。流れは左右の鼻孔で終わる、もしくは始まるとされている。

●クンダリニーとは?

ハタ・ヨーガのバックグラウンドの一つであるタントラにおいては、シヴァ神の妃はシャクティ(「性力、精力、エネルギー」の意味)として表現される。そして、エネルギーとしてのシャクティの一形態がクンダリニー。クンダリニーは、シヴァ神の象徴であるシヴァ・リンガの周りに三回半とぐろを巻いた蛇の形態で内在し、第一チャクラで眠っている。蛇の形態にあるクンダリニーは、物質の潜在能力であり、原初の女性の創造力、そして人間意識における進化力であり、性的・情緒的・精神的・霊的なものを含めた人間の、あるいは宇宙のエネルギーの源。

クンダリニーは覚醒すると、とぐろを解いて上昇し、各チャクラを貫通し、そのチャクラを覚醒させる。そのため、チャクラを開花できるのはクンダリニーだけとする考え方もある。

自己浄化や瞑想によってクンダリニーを目覚めさせ、より高いチャクラに、最終的にはサハスラーラ・チャクラに導く。そこで、シャクティ(エネルギー)とシヴァ(精神)と一つにすることがハタ・ヨーガの目的。

また、クンダリニーの覚醒現象は物質的な現象というよりも、タントラの宗教理念と捉えることもある。女性原理と男性原理の合一、相反するものの合一、というタントラの基本的な概念を、「クンダリニー(シャクティ)とシヴァの合一」と表現している。

■タントラについて

タントラとは元来、ヒンドゥー教のシヴァ派の中のシャクティ派であるカーリーやドゥルガーなど、シヴァ神そのものではなく、その女神を崇拝するグループの教典の名前だったが、後には様々な教典を一般的に指すようになった。

タントラの目指したもの、いわば宗教理念は、静的エネルギー「男性原理」と動的エネルギー「女性原理」という、相反するエネルギーの結合の結果、精神的至福を得ることにある。女神派を名乗るだけあって、このときの合一に向かって働きかけるのはいつも動的エネルギーである女性原理のほう。

タントラの一つであるクンダリニー・ヨーガ(ハタ・ヨーガも含む)では男性原理を頭頂にいるシヴァ神に例え、女性原理を会陰部に眠るシヴァ神の妃シャクティ(あるいはクンダリニー)として、この2つを結合させようとする。実際にはムドラーやマントラやプラーナーヤーマなどの特別な技法を用いてシャクティ(クンダリニー)を刺激し、頭頂にいるシヴァ神のところまで上昇させ、この2つを合一させる。タントラでは決して男性(原理)のほうが女性(原理)に会いに行くことがない。

■タントラという言葉の意味

・「織物」・・本質的に異なる糸(哲学)を全体性(ホールネス)という一つのタペストリーに織り込んでいくということ。タントラに由来するチャクラは、『ヴェーダ』以前から伝わる多くの哲学という糸をより合わせて、精神と物質、心と体、男性と女性、天と地といった両極性を一つの哲学として織り上げたもの。という意味での用いられ方。

・「たて糸」・・タントラとは「たて糸」の意味もあるが、教典を意味するスートラという言葉も「たて糸」という意味を持っている。「たて糸」という同じ意味を持つ教典だが、その違いはスートラが主に公の教えを載せた教典なのに対し、タントラの方はむしろ公にされない秘密の教えを載せた教典を指すといわれる。

■タントラの特徴

・初期の仏教、ウパニシャッドに見られるように個人の魂の救済や安らぎを求めるだけではなく、より生活に密着した現世利益を願う現実的宗教
・世俗的な生活を捨てた禁欲的・厭世的な生き方から、生きることや快楽への肯定的な姿勢
・釈尊やウパニシャッドの哲人が嫌ったヴェーダ時代の儀式や祭式、呪術の復活。また、非アーリア民族の土着的要素の復活
・精神的至福とともに現実的な力(超能力や健康や長寿)をも求める
・精神重視のみならず、肉体をも聖なるものとして扱う
・哲学的には男性原理と女性原理など相反するものの合一

-『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー 前編』 成瀬貴良 訳・解説 P13より引用 

次回続きは、「古代のヨーギーの身体感とナーディーが存在する場所の捉え方」についてお話しさせて頂きます。

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