1-1汀の虹

「汀の虹」#掬することば

※2月4日の「World Cancer Day」に向けて。豆本詩集『汀の虹』の詩を、noteに1日1篇ずつ置いています。
1篇目は一.深淵の「汀の虹」です。

Flowers 「アジサイ」×「ルスカス」(2016.08 花店note)

「汀」の「虹」
海へでかける
心が揺れることが
心の奥に沈んだもの

「海」=「心」


あちら側 こちら側

おそらくどこかへ行く電車の中で思いついて走り書きした、メモ帳の1ページ。最初に書いた「汀」と「虹」の2文字から、豆本詩集『汀の虹』、そして1篇目の詩「汀の虹」が生まれました。

昔からふさぎこむと海へ向かう癖があって。絨毛がんが寛解して1年ほど経った2015年夏頃からは、海辺へ行ってはひらすらひとりでハートのかたちをした石を拾い続けていたことがありました。このnote「掬することば」のカバー写真にもなっている石たちです。

このハートの石1粒1粒の表と裏を撮影し、本に綴じ、その1粒ずつ、1ページずつにがん罹患から丸2年までの記憶を“綴じこめた”のが、『汀の虹』のひとつ前に制作した『ココロイシ』というZINEでした。

3年前のこの展示を見に来てくださった方から「なぜ海なのか?」と問われたことがずっと心に残っていて。海辺、つまりは「汀」という場所、そしてその場所で自分がずっと見つめていた波打ち際の煌めきの中の「虹」……それが自分のがん経験、つまりは生と死と向き合ってきた3年間の原風景のような気がして、タイトルと1篇目のリード文としてこの詩を置き、制作をはじめました。

その「汀」と「虹」について、以前もう少し詳しく綴った文章を「掬することば」としてご紹介します。

“虹”というものは、何故だかあまり好きになれずにいたものの一つでした。虹が出ると皆「虹だ!」と写真におさめる。でも、何だかいつも遠くて欠けていて。思うようにおさめることはできないし、すぐに消えてなくなってしまう。そんな虹が希望の象徴のように描かれることが何だか腑に落ちなくて、虹と距離をとっていた時期もありました。

でも自分ががんを患ってから、死の淵に立ち何度も見たのが“虹”でした。

最初の虹は赤ちゃんの産声。流産の診断で手術が決まり、点滴の管を刺されて待っていた処置室で、薄い壁ひとつで隔てられた隣の分娩室から聴こえてきた産まれたての赤ちゃんの泣き声。冷たい処置室で一人灰色の涙を流していた私にとって、それは虹色の響きと色を持っていました。

何の曇りもない、美しい煌めき。それ以来病棟や外来で出会ってしまう妊婦さんやご家族、子どもの声は全部虹色に聴こえ、虹色に見え、自分はますます灰色に沈んでゆく。生命の煌めきに満ちた虹色を羨ましく感じてしまう自分の心がどんどん醜く感じるようになりました。

そんな灰色の日々の中で唯一虹色だったのが、自分の腕に滲んだ点滴や輸血、抗がん剤投与や採血の跡。冷静になってから記憶を辿ると、祖母が亡くなる前にICUで意識が戻り一瞬だけ笑ってくれたときの笑顔や、寝たきりだった祖父が私の呼び掛けに反応してちゃんと目があった時の瞳の色も虹色でした。

わたしにとって、虹色は“生きている”という状態の証であり、“生”そのもの。そしてそんな時に思い出したのがいつかの海で、つまりは汀で透き通った波の間に見た煌めきでした。

汀の向こう側は死、こちら側は生。海に引きずり込まれれば死んでしまう。その境界の揺らめきこそが、わたしにとっての汀。

だからこそ、向こう側へいってしまった人のことを想いながらも海から離れて歩みを進めることも出来ず、向こう側を見つめるだけの自分は死に損ないのような気もして、申し訳なく感じた時期すらありました。それでもただただ汀をじっと見つめているうちに、揺らいでいるこの気持ち自体も少しずつ見つめられるようになり綴じたのが『汀の虹』という詩集です。

汀の虹、つまりは生きていることそのもの。それを一言で説明するのは難しくて、たとえ綴じた詩集を手渡したところで届くのかもわからないけれど、言葉にできる限りを綴るとこんな感じです。
(2017.11.14「汀と虹のこと」より)

ここに綴っているさまざまな「汀」と「虹」の記憶が、このあとに続く28篇の小さな詩にちりばめられています。詳しくは、明日からの1篇1篇で。最後まで読んでくださったみなさま、ありがとうございました。

みぎわ【汀/渚/水際】
海・湖などの水の、陸地と接している所。みずぎわ。なぎさ。
(デジタル大辞泉)
にじ【虹】
雨上がりに、太陽と反対方向の地表から空にかけて現れる7色の円弧状の帯。空中の水滴によって太陽光が分散されて生じる。外側が赤、内側が紫の主虹(第一次虹)のほかに、離れてその外側に、色の配列が逆の副虹(第二次虹)が見えることがある。

[補説]現代日本では一般に、赤 (せき) ・橙 (とう) ・黄 (おう) ・緑 (りょく) ・青 (せい) ・藍 (らん) ・紫 (し) の7色と考えるが、時代や文化により認識される色数は異なる。
(デジタル大辞泉)
『汀の虹』のみちしるべ 
『汀の虹』は、がんによる孤独の中で握りしめていた“ことばの欠片”を道標に制作しています。握りしめていた“ことばの欠片”の大半は、それまでの人生で大切な人から贈られたことばや、何度も触れた本や音楽、映画のことばでした。

そこからことばをひとつ手にとってはタイトルとして置き、心の奥に沈んだ治療前後の記憶を一つずつ掬い上げ、重ね綴っています。この本や歌、映画の中にあることばや情景をみちしるべにしていたような…という作品のタイトルだけ、最後に添えていきます。(以下、敬称略)

「汀の虹」
谷川俊太郎『青は遠い色』『こころ』
スピッツ『渚』
Cocco『ジュゴンの見える丘』
Mr.Children『himawari』『HANABI』
菅野よう子『Dear Blue』
石川寛『好きだ、』
市川準『トニー滝谷』

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ZINE作家。“大切な記憶”を小さな手製本に綴じています。「記憶のアトリエ」/ 連載「まなざしを綴じる」(日本看護協会出版会) / 希少がん(絨毛がん)経験者 #AYA世代 #zinester https://michi-siruve.com/
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